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母斑~Vofan~

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小説:母斑〜Vofan〜 chapter5

小説:母斑〜Vofan〜 chapter5

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『行夢』と書かれた表札の下にあるインタアフォンを押すと、小柄な年配の女性がにこやかに出迎えた。サトコが女性に挨拶すると、部屋の中に案内された。マンションの一室で洋裁教室を営んでいるその女性の名はマアシャといった。マアシャは大手のアパレル会社のデザイン企画部で長年パタンナアとして働いた後、独立してこの洋裁教室を経営しているのだった。この教室を見つけたのはサトコの母親だった。サトコが祖母のミ

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小説:母斑~Vofan~ chapter4

小説:母斑~Vofan~ chapter4

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 祖母の葬儀も終わり、四十九日法要も恙無く済んだ頃、季節は冬から春に変わり、サトコは短大二年生になっていた。周りの同級生は就職活動を始めている、自分もそろそろ行動しなければならないと、サトコはぼんやり考えていた。モトオとの交際は相変わらず続いていた。モトオとサトコは同じ飲食店でアルバイトとして働いていた。サトコは学生だが、モトオは正社員として就職しているわけではなくフリイタアであった。サ

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小説:母斑~Vofan~ chapter3

小説:母斑~Vofan~ chapter3

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 モトオは母子家庭だった。モトオが高校生の時、彼のお父さんは病死した。三人兄弟の末っ子だった彼は、一番上のお兄さんと母親と一緒に長屋のアパアトで暮らしていた
 サトコが初めてモトオの家に遊びに行った時、一番上のお兄さんが夕食におでんを作ってくれた。彼のお兄さんは、体は大きかったが、とても口数の少ない人で、飲食店で調理の仕事をしていた。サトコにとって、男の人が家で料理を作るということが不思議

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小説:母斑~Vofan~ chapter2

小説:母斑~Vofan~ chapter2

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 初めての失恋を経験したサトコは、二年間の思い出が頭の中を駆け巡っていた
 バス停でよく彼を見かけた、彼はいつも同じ銘柄の缶コオヒイを飲んでいた、別に缶コオヒイを飲みたいわけではないのに、サトコも同じものを買って飲んでみたりした。バレンタインに手作りのチョコを作ってみたものの、渡すことができずにクロゼットにしまったままであったが、一週間後に結局全部自分で食べたのだった。家族で旅行に行った時

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小説:母斑~Vofan~ chapter1

小説:母斑~Vofan~ chapter1

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 サトコは幼いころから自分の容姿に強い執着を持っていた。女の子は細くて目がパッチリしていて、髪の毛が長い子が可愛いくて愛される子だということを何となく知っていた。幼稚園の頃までサトコの髪は長く、体型も人波で目鼻立ちもどちらかといえばパッチリしていた。サトコの左太腿の裏には生まれつきの大きな茶色い痣があって、彼女の母親はいつも「これはサトちゃんのしるし」と言っていたけれど、サトコの肉眼ではそ

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