見出し画像

小説:母斑~Vofan~ chapter1

<1>
 サトコは幼いころから自分の容姿に強い執着を持っていた。女の子は細くて目がパッチリしていて、髪の毛が長い子が可愛いくて愛される子だということを何となく知っていた。幼稚園の頃までサトコの髪は長く、体型も人波で目鼻立ちもどちらかといえばパッチリしていた。サトコの左太腿の裏には生まれつきの大きな茶色い痣があって、彼女の母親はいつも「これはサトちゃんのしるし」と言っていたけれど、サトコの肉眼ではそれは見ることができない位置にあって、どんな形でどんな色なのか鏡に映さなければ確認することはできなかった
 サトコがまだ小学校に入る前くらいの幼いころ、近所にいた中学生のお兄ちゃんからいつも「バアカ」と言われた。出会うたびに「バアカ」と言われる。サトコは違和感を覚えて母親にそのことを伝えた。母親は彼女にこう言った
「その人はお前のことが好きなのだよ」
 サトコは素直にそうなのかと思った。そのお兄ちゃんは高校生になったころから引きこもりになった。たまに外に出ている姿を見ることがあった。たるんだ体で、いつも短パンにランニングシャツを着ていた。サトコはその頃小学生になっていた。もう出会っても「バアカ」とは言われなかった

 小学校に上がった時サトコは長かった髪をバッサリ切ってショオトカットになった。身体が成長するにつれて体型も逞しくなり、目鼻立ちは腫れぼったくなり、どちらかといえば大柄な女の子になった。クラスメエトにもっと大柄な女の子がいて「三十キロオオバア」というあだ名をつけられた。サトコは他人事だと思いながらも、心のどこかでその出来事をずっと気にしていた。何も気にしないようなふりをしてその子と仲良くしていたが、心の中は自分の体重も三十キロを越えたらあんなふうに馬鹿にされるという恐怖でいっぱいだった。サトコの身体の成長は止まらなかった。身長と体重がみるみるうちに増えていった。三十キロオオバアもしてしまった。その頃から男の子を意識し始めた。周りでも好きな子の話題でいつも盛り上がっていた

 小学校六年生の修学旅行の時に、夜サトコ達の寝る部屋にクラスメエトが集まっていた。寝ている子もいたが、窓際の襖で仕切られているところに他の部屋の男の子や女の子が集まってきていて、見回りの先生も「早く寝ろよ」というだけでとくに無理やり部屋に戻されるということもなかった
 そこで始まったのが自分の好きな異性を打ち明けるというものだった。目の前にその人がいるのに打ち明ける女の子もいた。サトコは好きな人を捏ち上げてもよかったのだが、自分に嘘がつけなかった。それでもその場にいたかったので、狡いと思いながらも皆んなの秘密の打ち明け話を聞くだけで、自分の番になると誤魔化してその場を凌いだのだった

 中学生になって初めて好きな人ができた。その男の子の誕生日にケエキを手作りして帰り道待ち伏せして渡した。一方的に押し付けて逃げるようにその場を去った。その後その男の子が他の女の子と付き合っていることを知った。細くて目がパッチリしていて髪の毛は顎ぐらいまでのストレエトヘヤアだった。可愛くて男の子から人気のある子だった。サトコはとても恥ずかしかった。自分には何かが欠落している様な気がした

ここから先は

3,823字

¥ 150

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?