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【2000字で振り返る】花の矢をくれたひと(前編)

今回は連載小説『花の矢をくれたひと』の前半部分、prologueから16話をおよそ2000字で振り返ります。仏教、バラモン教、ヒンドゥー教の神話の要素やインドのトリビアをふんだんに盛り込んだ創作となってますので、興味のある方は是非ご覧ください!

prologue

prologue] 物語は仏典にも登場する「釈迦の成道」の場面に始まります。釈迦(王子)は解脱するために瞑想にふけていますが、それを妨害するのが悪魔マーラです。彼は本作の主人公である愛神カーマのもうひとつの姿です。
 釈迦との精神戦において、マーラは自身に愛欲の力が足りないことを悟ります。その要因として妻の存在を忘れてしまっていたことに気付き、戦いを放棄して妻を探す旅に出ました。

宿命の章

1] 悪魔マーラは愛神カーマとして目を覚まします。そこは空飛ぶ鸚鵡おうむシュカの背中の上でした。カーマはその理由をいっさい知らされることなく、天界の東方、インドラの隠れ処へと向かうことになります。

2] 東方で待ち受けていたのは、インドラではなく北方の神クベーラでした。インドラの率いるデーヴァ神群とターラカ率いるアスラ神群が戦争を繰り広げており、インドラが力を失い戦争に負けつつあることを伝えられます。

3] カーマが呼ばれたのは、彼が弓の名手だったからです。矢をつがえずに弦を鳴らしただけで、雲の壁を吹き飛ばすほどの威力を見せます。ここでカーマは神々の戦争に自分が関わっていく宿命を知ることになります。

4] しかし射るべきはアスラ神群ではなく、デーヴァ神群の一柱・魔神シヴァと告げられ、カーマはうろたえます。そしてその真意を知る間もなく、天界がアスラ神群に攻め込まれたことでクベーラは姿を消しました。
 シヴァを射るための矢を探すため、シュカの記憶を頼りにカーマの親友に会いにいくことになりました。

ダルマの章

5] カーマはアビルーパという名の青年として転生します。時代は4世紀頃、インドのウッジャイニーという都市。目が覚めて傍にいたのはヴァサンタという名の美少年。彼は愛神カーマの親友、春の神ヴァサンタが転生した人間でした。

6] アビルーパは司祭バラモンの子息であったため、教典ヴェーダの暗唱の修行をさせられます。親友のヴァサンタはそれを難なくこなしていきますが、アビルーパはどうも修行に身が入りません。

7] 見かねたアビルーパの父シャイシラカは、共同体において重要な祭祀のひとつアグニチャヤナの補助祭官に彼を任命します。はなから無理だと決めつけるアビルーパでしたが、ヴァサンタの励まし、義務ダルマの教示によって意を決しました。

8] アグニチャヤナの日がやってきました。不信の目を向けるバラモンたちをよそに、アビルーパは修行の成果を発揮し、賛歌を見事に唱えあげます。するとアビルーパの意識に異変が生じ、ヴェーダの火の神アグニが姿を現しました。

9] アグニはアビルーパに「焦熱の矢」を授けます。しかしこの矢だけではシヴァを射抜くことはできないことを伝えます。ヴァサンタは一本の矢でダメなら三本集めればいいと提案し、これをきっかけにふたりは矢を捜していくことになります。

アルタの章

10] 矢の手がかりを得られずにいたアビルーパの前にひとりの男が現れました。彼はダルドゥラカという名で、商人の息子でした。慇懃な態度を取っているものの、どことなく不穏な雰囲気が見え隠れします。そこにヴァサンタが現れて、彼のことを「スパイだ」と摘発しました。

11] 実際にダルドゥラカはスパイでした。グプタ王朝が国の統治を強固なものにするために、全国各地の一般人に紛れ込ませていたのです。しかしダルドゥラカの王朝への忠義は厚くなく、まだ若い3人の間に妙な友情が芽生えて、共に矢を探すことになりました。

12] 3人はシュカの背に乗り、名うての情報屋がいると言われる首都パータリプトラに移動します。情報屋のアジトに潜入するために全身に灰を塗りたくるのですが、3人の間にはいつの間にか和気藹々とした雰囲気が生まれていました。

13] スパイのアジトは川沿いの火葬場にあり、その最奥の火葬炉の傍で老聖者が瞑想をしていました。彼こそが噂の情報屋で、ダルドゥラカは暗号を用いてやり取りをして、矢の在処を聞き出すことに成功しました。

14] 矢が首都パータリプトラの地下に眠る王宮宝庫にあると突き止めた3人。女装をしたヴァサンタが囮となって衛兵を引きつけ、その隙にアビルーパとダルドゥラカは井戸から地下へと潜入しました。アビルーパは衛兵から帽子と鎧を奪い、交代要員に扮装したのでした。

15] 宝物庫の前まで来て、合言葉を使い衛兵との交代を目論みましたが、訛りがないことで侵入者とバレてしまいます。ダルドゥラカが強行突破に出て、なんとか宝物庫の中には入れたものの、地下道に銅鑼と笛の音が鳴り渡り、衛兵たちが集まってきてしまいます。

16] 宝庫はからくり仕掛けで、操作法や目録の書かれた書には読めないところが多くありました。しかし運も味方して第二の矢である「猜疑の矢」を手に入れます。衛兵たちに追い込まれますが、アビルーパの知恵により地下から抜け出せたのでした。

次回よりカーマの章、そしてシヴァを射る最終章へと向かう後編が始まります。第三の矢はどこにあるのか? 表題の「花の矢をくれたひと」とは誰なのか? 当初の旅の目的は何だったか?
後編もどうぞお楽しみに!!

【ご注意】
本作は何らかの宗教的信条を伝えたり誘導するために書かれたものではありません。また時代背景や史実とは異なる点も多々あり、あくまでエンターテインメントの1つとしてお読み頂くようお願い申し上げます。

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