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検察庁法改正案問題について、わかりやすく解説してみます

世間を賑わせている「検察庁法改正案問題」。小泉今日子さんをはじめとした俳優・女優や芸人、歌手、アイドルなど、政治に関してオフィシャルに発言してこなかった、いわゆる”芸能人”の方々がSNSで続々と反対表明をしたことで話題になっています。私たちのような一般人にとって、いまいち論点が見えてこないこの問題。できるだけ専門用語を使わずにわかりやすく考察していきたいとおもいます。

”検察庁法改正案”とはなにか

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検察官の主な仕事は、「警察が逮捕した容疑者について、詳しく事件を調査し、容疑者を裁判にかけるかどうかを判断する」ことです。よくドラマや映画において、弁護士と法廷で争うライバルとして描かれます。そして、その検察官の行う事務を統括している行政組織が検察庁です。したがって、検察庁は国の組織となります。ちなみに検察庁の役職のトップが「検事総長」、No.2が「検事長」となります。そして、検察庁のあり方について定められているのが検察庁法。この検察庁法について、この度改正が行われようとしているのです。主な改正点は以下の2つです。

定年延長=検察官の定年(退職年)を63歳→65歳に引き上げる
※検事総長の定年はもともと65歳

役職延長=63歳を過ぎたら検察の「次長検事」「検事長」(そこそこエライ人たち)は普通の検事に戻り、65歳まで働く。
※特例として、内閣(政府)が認めた場合のみ、「次長検事」「検事長」は3年間任期を延長できる

まずは①の定年延長について。つまり、退職金をもらって仕事をやめるタイミングの話です。そもそも「検察官」は国家公務員の1つです。したがって、年金の受給年齢の引き上げに応じるかたちで、他の公務員同様に検察官の定年を65歳まで引き上げることについては野党からも反対意見はほとんど出ていません。民間企業同様に、人手不足の現在において、高齢者の労働力としての活用が促進されることについてはさほど違和感はありません。

一方ですこぶる問題になっているのは②役職延長について。あらかじめて理解しておきたいのは、役職定年というルールがなにか。これは一般の民間企業などにおいても幅広く取り入れられているものです。具体的には、管理職などの偉いポストの人が、定年が近くなってきたタイミングで平社員にもどることです。役職定年があることで、会社にとっては人件費の削減や風通しをよくする(若い社員にチャンスを与える)などのメリットがあります。

一般の国家公務員においても、国家公務員法によって役職定年が2021年から導入されることがすでに決まっています。一方で、特例として「大臣などの組織のトップが認めれば、役職定年の延長が可能」とされています。これについては少し疑問を感じる方もいらっしゃるかと思いますが、例えば組織で大きなプロジェクトに取り組んでいる際に、途中で役職定年が理由でプロジェクトのリーダーが抜けてしまうことがあると、決して全体にとって有益とはいえません。このような認識があれば、例外をつくることは必ずしも悪いことではないと捉えることができると思います。事実、この特例についても野党は問題視していません。

問題なのは、この特例を検察庁法にも適用するのかどうかということです。

検察官は、ただの”国家公務員”ではない

前述のとおり、国家公務員のルールは「国家公務員法」によって定められていますが、検察官は国家公務員でありながら「検察庁法」という独自のルールが定められています。その理由は三権分立という大原則を守るため。むかし学校で誰もが習った言葉ですよね。行政・司法・立法がそれぞれ独立し、監視することで、国内の権力が集中しないようにすることです。つまり、検察官の仕事は司法と深く結びついていることから、行政(国家、内閣)とは独立した組織でなければならないのです。そのため、国家公務員と検察官は守るべきルールが異なるのです。

そのことをふまえると、検察庁の人事を内閣が決めてしまうと三権分立が守られないということになります。というのも、国家とは独立すべき関係にある検察庁の役職定年に対して、内閣が特例を認めるかどうかの権限を認めてしまうと、三権分立の原則が危ぶまれてしまいます。内閣(政権)にとって都合の良い人事を選ぶ可能性があるためです。事実、検察庁法案改正問題がここまで大きく報道されることになった1番の要因はここにあります。

黒川弘務・東京高検検事長の定年延長問題

黒川弘務氏は東京高検のエリート検事長で、過去には法務省にも在籍したこともあり、安倍政権とも深い繋がりがあるとされる人物です。黒川氏は2020年2月に63歳の誕生日を迎えました。本来は検事総長以外の定年は63歳のため、黒川氏も退職となるはずでしたが、今年1月に政府は黒川氏の定年を今年の8月末まで延長することを決定したのです。それはなぜでしょうか。

現在の検察庁トップ・検事総長の稲田氏が今年の7月をもって退任する可能性が高いことから、そのタイミングまで黒田氏が退任していなければ、そのままNo.2の黒田氏が次期検事総長となる可能性が高いのです。ではなぜ、安倍政権は自分たちの息がかかった黒田氏をそこまでして検察庁トップの検事総長にさせたいのでしょうか。

よくニュースなどで「東京地検特捜部が緊急で家宅捜索を行い、脱税の証拠を見つけました!」という報道を見かけますよね。つまり、検察は官・民の様々な犯罪を暴き、追求する組織なのです。そのトップである検事総長というポストを、もし政権寄りの人物が務めることになれば、極端のことを言うと政権にとって都合の悪い案件については検察に見過ごしてもらうことができてしまうのです。そのため、三権分立の観点からも、今までは検察の上層部の人事については、政治が意見しない”聖域”とされてきました。しかし、今回の検察庁法改正によって、その聖域にまで政権の力が及んでしまう(=政治介入の)可能性があるのです。そして、政権に対する過剰なまでの配慮、いわゆる”忖度”が行われてしまう環境がさらに加速する懸念が浮き彫りになっています。

これが、今回のニュースです。駆け足となりました。わかりやすさを重視させていただきましたので、大きな論点のみをピックアップしています。

なぜここまで世論を敵にしたのか

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この問題は、多数の芸能人によるSNSでの発信もあり、多くの人々に知られることとなり、twitterでの「#検察庁法改正案に抗議します」はリツイートを含めて3日間で約470万回投稿されるという凄まじい反響がありました。なぜここまで世論を敵にしてしまったのでしょうか。

その理由は、これはあくまで個人的な見解ですが、「現在の国内の非常に混乱・疲弊した状況に乗じて、政府が自分たちに都合の良い法案を隠れて成立させている」ように多くの国民の目に映ったからだと感じています。

言い換えますと、「ステイホーム・自粛疲れの中、国民は耐え続けているというのに、政府は肝心の対応が不十分であるにもかかわらず、急いで成立させる必要のない法案をいま無理やり可決させようとしているのではないか、けしからん」という国民感情が一気に拡散されたのです。一方で、改正法案に反対している人の中で、いったいどれだけの人が問題の根幹を理解しているかについても疑問が残るのも事実です。

この問題の是非を語る前に、第一に政府からの説明があまりに少ないことが、人々の理解を不十分にさせているのだと感じます。「不要不急」の法案を成立させたいのであれば、国民に十分説明してからでもけっして遅くはないはずです。

なお、渦中の黒田氏本人からは、この問題に関する発言は一切ありません。ご参考まで。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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