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雑感

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「そんなときは、どうするんですかー」

「そんなときは、どうするんですかー」

30年来リウマチと付き合ってきた母は、常に身体に不調がある。眠れない、お通じが悪い、足がむくむなど、一つが治まってもまた次の不調が現れる。医師に言って、検査をしたり薬を替えたりはするけれど、なかなか「これは良い!」という方法には出合わない。

日々繰り返される不調の訴えに、すっかり慣れてしまった私。内心、それだけお昼寝してれば問題ないんじゃないのとか、甘いものの食べ過ぎじゃないのとか、ちょっと毒づ

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眼科探偵

眼科探偵

左目がゴロゴロして痛いので、眼科に行ったのがひと月前。9時からの診察時間に合わせて行こうものなら、車はまず停められない人気の眼科だ。異物感に加えて、眼球全体にビンと走る痛みが気になっていた。左目を診て何か処置したあと、医師が低い声で言う。

「目の下のできものは、最近できたものですか?」
「いいえ、前からです」
「目の痛みは、今はないでしょ」

できものは全然関係ない話だ。眼球の痛みは確かにとれた

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絶対音感

絶対音感

職場の後輩に、絶対音感を持つ人がいた。飲み会のときなど、爪で机をたたいたり、ナッツの殻を剥いたりしながら、「これは何の音?」と訊いてみた。その都度「ソのシャープ」とか「完全じゃないけどミ」などと答える。それが正解なのかは、もちろん誰も分からないが、きっと正解なんだろう。

どうして分かるのかと、これまた答えようがないような質問をしたこともある。彼は、「音階に、顔がついているような感じと思ってくれれ

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ウインナーゼリー

ウインナーゼリー

スーパーで、高齢の女性に声をかけられた。ウインナーゼリーを探しているという。手元のメモ用紙の1番上に、「ウインナーゼリー色々6個」と書かれている。多分、ウイダーインゼリーのことだろう。

目の前の棚は、まさにそれ関連のコーナーだった。息子に頼まれたという彼女、現物を見た覚えはあるが、どれか分からないと。一つずつ手に取って見ても、確かに肝心のウイダーインゼリーがない。レトルトパウチのゼリーの中では、

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歌う

歌う

駐車場を挟んだ向こうの家から、たまに大きな歌声が聞こえてくる。ものすごく気分良さげに節回ししている男性は、20代から30代くらいだろうか。こちらは窓を開けていないのにはっきり聞こえるところを見ると、かなりの声量の持ち主だ。声が反響しているので、お風呂に入りながらなのではと思う。

カラオケは、健康に良いらしい。何年も歌っていないと、声が出にくくなるのが分かる。自分的にはもっと安定した太い声だった気

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警報音を止めたあと

警報音を止めたあと

昨日の続き。

車のキーの電池交換の仕方をyou tubeで見て、合わせを外すことは出来たが、電池が取れない。突起が引っかかっていて、電池の端を押したりずらしたりしてみても、びくともしない。メガネドライバーのような細いものを挟み込んだら良いのかもしれないが、そうするとツメが折れそうに見える。困った。

自分のキーを取り出して、こちらも動画を見ながらやってみたら、すぐに電池が取り出せた。車のメーカー

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警報音を止めたい

警報音を止めたい

実家の車のリモコンが、急に反応しなくなった。今日はケアマネさんの訪問日なので、位置を少し寄せておきたい。多分電池がないのだろうと思ってあちこち触っていたら、中の鍵が外れて出てきた。それならこの鍵でエンジンをかければいいと、安直に考えて解錠したら―。

ピーピーピーピー!!

すごい警報音。ちょっと待って。自分の鍵で開けただけ。
エンジンをかけたら音が止まるのでは、とボタンを押して試してみたが、始動

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ホームセンターの便座

ホームセンターの便座

ホームセンターで働いている友人から聞いた話。
ある日お客さんから、「トイレが使えない」と言われたそう。汚れているのかなと他の職員と見に行ったら、便座がふたごとなくなっていた。ホーローの受けの部分はあるけど、ふちは細いから座って用は足せない。

温水洗浄便座が、盗まれたのだ。実はこの業界では、たまにある話らしい。そこは車いす対応の広いトイレだから、工具で外すなどの作業がしやすかったかもしれない。

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納豆を作る

納豆を作る

毎朝のヨーグルトは、ヨーグルトメーカーで作っている。乳糖不耐症なので、牛乳ではなく豆乳ヨーグルトだ。買った当初はケフィアヨーグルトとかカスピ海ヨーグルトとか、いろいろ試してみたけれど、今は普通のビヒダスヨーグルトを種菌にしている。

このヨーグルトメーカー、納豆も作れる。大豆を煮て、市販の納豆と合わせた後、45℃に保温して1日から2日待つだけ。腸活にはすごく良さそうな、作りたての温かい納豆。どんな

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その長いスカート

その長いスカート

フレアのロングスカートが欲しくてお店に出かけたら、ちょうどイメージ通りのものに出合った。柄も長さも質感も、私好み。試着してみたら、たまたま今着ているトップスにもピッタリな気がする。このまま着ていっちゃおう。はいてきたパンツを袋に入れて、気分良くお店を出る。

こんなにすぐ決まることは、滅多にない。まだ時間もあるし、上の階で食器でも見て行こうかとエスカレーターに向かう途中、鏡を見つけてはチラリと自分

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脳内変換

脳内変換

新婚旅行では、今はもう走っていない寝台特急「北斗星」に乗った。ちょっと良い部屋を予約して、移り行く景色を楽しんだ。列車だからずっと揺れているし、音もうるさい。おしゃべりするときは、少し声を張らないと聞き取りにくかった。

大きな鉄橋に差し掛かったとき、列車のトトトトトン、トトトトトンというリズムが鮮明になった。会話が途切れて、しばらくトトトトトンを聞いていたら、夫が言う。

「チチカカ湖って聞こえ

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のっぺりシーツ

のっぺりシーツ

シーツは、タオル地が好き。肌に触れる木綿のざらざら感が、たまらなく心地良い。夏は汗を吸い取ってくれる安心感があるし、冬なら厚地の温かさがある。

寒い季節に、いただき物の高級なボアシーツを試したこともあるが、やはり落ち着かない。たいていの人は大好きだろうあの感触、なぜか自分にはしっくりこない。直接肌が触れるところは、やはりざらざらしていてほしい。

ホテルのベッドは、クリーニングの利便性からか、フ

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狩猟民族

狩猟民族

次の引っ越しを来春に控えて、ふとこれまで何回くらい住まいを変えてきたんだろうと考えた。数えてみたら、親と住んでいた高校までは除いても、今の賃貸で12軒目! 引っ越しなんて面倒くさくて、できれば避けたいのに何とまあ。

平均的な日本人って、生涯に何回くらいの転居を経験するものなのかな。親も自分も転勤族なら、30回とか、繰り返すものなんだろうか。地方の自営業を継いだ人なら、生まれた時からそのまま、とい

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納骨堂脱出

納骨堂脱出

遠方の親戚から一周忌用の黒い花かごが届いたとき、施主になるはずの夫は大病で入院していた。入院中だから法事は見送りと決めていたのだけれど、そんなことは知らない親戚からの心遣いだ。

家には、私一人。黒い花かごを見ながら暮らすのは、一番避けたいタイミングだった。かといって捨てるのもナンだしと悩み、納骨堂に持って行くことにした。本来供えるはずの人のところに届けるのが、一番良いに違いない。家からは、地下鉄

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