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脳内変換

新婚旅行では、今はもう走っていない寝台特急「北斗星」に乗った。ちょっと良い部屋を予約して、移り行く景色を楽しんだ。列車だからずっと揺れているし、音もうるさい。おしゃべりするときは、少し声を張らないと聞き取りにくかった。

大きな鉄橋に差し掛かったとき、列車のトトトトトン、トトトトトンというリズムが鮮明になった。会話が途切れて、しばらくトトトトトンを聞いていたら、夫が言う。

「チチカカ湖って聞こえる」
「え?」
「この音、チチカカ湖って聞こえない?」

トトトトトンは、詳しくいうとトト・トト・トンと3つの節に分かれて聞こえ、2つ目の節は少し高くなっている。ホントだ。チチカカ湖って聞こえる。以来この音は、脳内でチチカカ湖と変換されるようになってしまった。これから行くのは、普通に東京。ちょっと迷惑。

その数年後、2人で信号待ちしていた時、「やっしょ、まかしょって聞こえない?」と夫に耳打ちされた。青信号の合図の音、私にはピッポ、ピピポと聞こえていたそれが、途端にやっしょ、まかしょと聞こえ始める。急いで「やった、出来た」とか、「待って、速い」とか違うもので上書きを試みるが、どれもピンと来ず今に至る。

そして昨日、実家の軽乗用車で右折待ちしていたら、助手席の母が「行って、行ってって言ってるみたい」と言った。ウインカーのカックンカックンという音がしり上がりなので、「行って」と聞こえると。あー、思いがけないところからまた一つ、脳内変換が増えてしまった。

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