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戦闘服からヘッドセットへ

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お仕事物語です💻 コールセンターを舞台に様々なお客様や、電話をとる変わった人などのお話が展開されます🌸  登場人物も、ぶっ飛んでいます💦
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#コールセンター

戦闘服からヘッドセットへ 30 ~最終回④  決意と未来 ~

戦闘服からヘッドセットへ 30 ~最終回④  決意と未来 ~

 ベテランSVは「おっ」という表情でPCから顔を上げた。
 フロア内が混み合っている時に起こる独特の空気が漂い始めたと敏感に察知したようだった。
 そのSVは天井から吊るされた映像画面を見て、込み具合はどうかを確認した。案の定、多くのお客が待機している事がわかった。

「うーわ、まずいな」

 全チームリーダーのみが閲覧出来るグループチャットから、「お願い!ASVで電話対応に入れる人いない?」と要

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戦闘服からヘッドセットへ 29   ~最終回③    大切な戦闘服とヘッドセット~

戦闘服からヘッドセットへ 29 ~最終回③ 大切な戦闘服とヘッドセット~

 朝、リビングのテレビからニュースが流れていた。テレビ局の看板アナウンサーは笑顔で挨拶をしている。
「今年は暑い夏でしたが、やっと涼しさを感じる季節に入りました。あの暑い日々をすでに忘れつつありますが、気温の上昇は年々増すばかりです。今年、2025年は沸騰化時代を少しでも抑えるため、各企業でも政府が打ち出した目標に向けて活発に動いています」

 朝食をとり終えた瑠美は、玄関へ向かう三平を追いかけた

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戦闘服からヘッドセットへ 28       〜最終回② BARでの2次会~

戦闘服からヘッドセットへ 28 〜最終回② BARでの2次会~

「虎っち、熊さん。ASV昇進おめでとう!カンパーイ!!」

 瑠美は乾杯の音頭に、買って出たようだった。
 この日、チームのメンバーは横尾が週に1度だけ出ているというBARを貸し切り、二次会として集まった。
「まさか、横尾君がバーテンやってるとは思わなかった」
「いや、大学からここにいたんです。当時は週4とか入ってたんですが。今は週1なんで、楽しくやれてます」
 横尾は話しながらカクテルを作り、新

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戦闘服からヘッドセットへ 25 ~消えたアプリ~

戦闘服からヘッドセットへ 25 ~消えたアプリ~

 ほどなくして、三平と瑠美が付き合っているという噂は、社内中に広まっていた。

   2人は、チームの親しいメンバーに付き合った事を伝え、その日から帰宅時間の合う日は2人で帰るようになっていた。
 噂が広まるのも必然だった。

 サバサバしていながらも尽くす瑠美(しかも、あんなにギャルだったのに今や清楚系)と、尽くされた以上に愛情を返す三平(優しいイケメン)。
 二人はどこからどう見てもお似合いだ

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戦闘服からヘッドセットへ 22 〜おバカでウルフルズな夜~

戦闘服からヘッドセットへ 22 〜おバカでウルフルズな夜~

 上杉と莉里の前には、飲み会で帰りが遅くなったような学生たちが、楽しそうに駅へ向かっていた。
「前の職場でそんな事があって、今の所に来てから研修の担当をするのは、挑戦だったんじゃ?」
「ああ・・・うん、挑戦だったね。でも、それ以上に、もう一回やり直せるかも知れないって思ったの。初日はすごく緊張したんだけど、思っていた以上に楽しくて」
 お酒で気持ちが高揚していたのかもしれない。莉理は、珍しく研修担

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戦闘服からヘッドセットへ 21 ~莉里の消えない傷~

戦闘服からヘッドセットへ 21 ~莉里の消えない傷~

 瑠美と莉里は、カウンター席からチームメンバーが座る小上がりに合流した。皆が勢ぞろいした飲み会は久しぶりだった。

「おい、それ本当か?」
 上杉は驚き、瑠美に向かって声を荒立てた。
「うん、そうだよ」
「そんな状況だったのか、相談してくれたら協力したのに。女が外でタイマンは危ないだろう。せめて職場で話した方が安全だ」
「そうだな。それか、すすきの交番の前とかな」
 赤い顔になり始めた佐々木は、真

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戦闘服からヘッドセットへ 18 ~消えた画像~

戦闘服からヘッドセットへ 18 ~消えた画像~

「お電話ありがとうございます。担当の上杉でございます。本日はどのようなお問い合わせでしょうか」
 シフトが早の勤務日、上杉はぎりぎりまで寝ているため、大急ぎで準備をして出勤する。そのため、1本目の電話がその日の第一声となり、声も頭の回転も調子が良いとは言えなかった。
 とは言え、これまでの電話対応と比べると上杉の成長は著しく向上していた。

 横尾は上杉の言葉使いや案内をする姿を見て、隣にいた新藤

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戦闘服からヘッドセットへ 17 ~虎の過去~

戦闘服からヘッドセットへ 17 ~虎の過去~

「そうかぁ、熊さんがバツイチだったなんて、驚きですよ」
 新藤が笑いながらそう声にすると、三平はお酒がまわってきたのか、にこにこした表情で言った。
「そう言われてみれば、研修の頃とか、佐々木さん怖かったなぁ。同期に反社がいる!って思ったもん」
「おいおい、失礼だな。・・・まぁ、正直な事を言うと、ここに来たばかりの頃は心が空虚だった気がする。今はすごく楽しいけどな。このメンバーが同じチームで、本当に

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戦闘服からヘッドセットへ 16 ~奇異な二つの事件②~

戦闘服からヘッドセットへ 16 ~奇異な二つの事件②~

 気づくと、もう48歳。時間が過ぎるのは、早いものだ。

 17年前、彼女との出会いを振り返ると、最初はどこにでもいる可愛い女の子だと思っていた。

 初めてデートをした日。

 予定時間に着いた約束の場所には、白いワンピース姿の彼女が花のように佇んでいた。
 ウエストは細いベルトで締められ、スタイルの良さが際立ち、髪型や雰囲気はオードリー・ヘプバーンのように愛らしかった。

 だが、強く印象に残

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戦闘服からヘッドセットへ 15 ~奇異な二つの事件~          

戦闘服からヘッドセットへ 15 ~奇異な二つの事件~          

 それは、嫌な冬の夜だった。
 岩見沢市は北海道の中でも積雪量が他の比ではない多さで、玄関のドアを開けられないほどに積もっている映像がニュースに流れる事もあった。
 その日も、例年以上だと住民たちは口にし、家から出ずに過ごしていた。

「おい、お前。ここで俺に逆らったらどうなるか解ってるよな」
 岩見沢駅の近くにあるその居酒屋では、他に客がいないようで大きな声で話しても周りへの迷惑はないからか、男

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戦闘服からヘッドセットへ 14 ~開かれたパンドラの箱~ 

戦闘服からヘッドセットへ 14 ~開かれたパンドラの箱~ 

  前回の内容
(すいません!仕事の関係で間が空いてしまったので簡単に前回の内容です)

 21チームのメンバーは、高橋瑠美への思いが敗れた黒田高宏の失恋と職場でのストレス発散のため、飲み会・カラオケで盛り上がりオールをして過ごした。
 その翌日、社食で横尾悟、新藤宏、高井三平は一人で泣きながらお弁当を食べている女の子に気づく。
 20チームから女帝の多い19チームへ移ったばかりの新木花だった。

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戦闘服からヘッドセットへ 12 ~輝かしい今 2~

戦闘服からヘッドセットへ 12 ~輝かしい今 2~

 職場近くの焼き鳥居酒屋は、予約をせずに大勢で行っても席が空いている事が多く、メンバーのお財布にも優しかった。

「黒田!こっち、こっち!」
 入って左側のカウンターはお客で埋まり、右側に四人席が三つ並んでいた。上杉らは奥にある子上がりの八人席に座っていた。
 その席はカウンターのお客からも、子上がりからもお互い丸見えのため、居酒屋らしい活気ある雰囲気を味わうにはベストの場所だった。

 今しがた

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戦闘服からヘッドセットへ 10 ~叶わない恋~

戦闘服からヘッドセットへ 10 ~叶わない恋~

🐰年末年始と間が空いてしまったので、前回までの内容をまとめたものから載せます🐰

 ~前回まで~
 上杉虎と佐々木武は、20チームでアウトサイダー熊虎コンビながらも奮闘していた。
坂口莉里SV、横尾と新藤のASVはそんな二人を支え、チームのメンバー19人となんとか楽しくチームを盛り上げてきた。
 虎のドラック情報も、何て事ない噂だった事が分かり安心して飲み会を楽しむ中、新たな噂が浮上。
 それ

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戦闘服からヘッドセットへ 9 ~虎のもう一つの姿~

戦闘服からヘッドセットへ 9 ~虎のもう一つの姿~

 莉里と瑠美はエレベーターが着くまで、緊張していた。職場を出た時とはあまりにも異なる展開に、まるで探偵になったかのような気分でもあった。
「エレベーター着いたら、会社がいくつか並んでるかも知れないね。虎っちが入った場所はすぐには分らないかも」
 瑠美はそう言うと、アッシュベージュの長い巻き髪を耳にかけた。緊張している時にする彼女の癖だった。

「そうね、このビルなら1つの階に複数の企業が入っている

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