見出し画像

戦闘服からヘッドセットへ 14 ~開かれたパンドラの箱~ 

  前回の内容
(すいません!仕事の関係で間が空いてしまったので簡単に前回の内容です)

 21チームのメンバーは、高橋瑠美への思いが敗れた黒田高宏の失恋と職場でのストレス発散のため、飲み会・カラオケで盛り上がりオールをして過ごした。
 その翌日、社食で横尾悟、新藤宏、高井三平は一人で泣きながらお弁当を食べている女の子に気づく。
 20チームから女帝の多い19チームへ移ったばかりの新木花だった。
 横尾と新藤のASVはすぐに坂口莉里SVへ報告、もしかすると女帝メンバーが外しやストレスを与える存在になっている可能性があると濃厚な情報が入る。
 話を聞いた上杉虎は女帝メンバーの一人である中路秋子のところへ抗議をしに行ったが、中路からは仲間たちの立場も大変なのだという話を聞かされる。

_____________________

 上杉が喫煙所で怒りを露わにし、中路へ思いを伝えた日から、すでに数日が過ぎていた。

「まぁ、なんとなく女帝が要因で泣いてたんだろうって、感じてたけどね」
 新藤は、社食に問題のメンバーがいない事を確認するとそう言い、話を続けた。
「中路さんは当事者ではないようだから、とばっちりを受けた感じだけど。あそこの人たちは、歴が長いからなのか縄張り作ってる感じや偉そうにしてる所はあったんだよ。それに保守的で新しい人を受け入れない感じで。家庭と仕事でイライラもあるんだろうけど・・・」
 先日、上杉が社食を出て行ったあと、瑠美も全ての話を聞いていた。
「新人の若い女の子が目立ったりしたら、イライラするのかもね。女って、男の人が思っている以上に面倒な生き物だから。格好の餌食にされたんじゃない。仲間には入れてやんねーぞ、って。こっちから願い下げだけど!」
「本当にがっかりだよ。こんなのは根絶させないと!」
 三平は新人の女性に肩入れが大きかった。

「でも、そのメンバーをそれぞれ違うチームにしたら、いつか辞める可能性が出てきます。長く勤めてるので、知識も長年の功績もあるし、そんな状態にする訳には・・・。だからって若いASVやSVが良い大人に倫理を諭すなんて、お互いにストレスになる。年を重ねた人生の先輩でもあるし」

 黙って腕を組みながら話を聞いていた佐々木、ゆっくりとした声で言った。
「そうだな、横尾の言う事は間違いないだろうな、想定出来る。それに子どもの事で大変なのに、仕事に家事だろ。旦那の稼ぎだけで生活出来るセレブなら、ここにはいない。みんな必死だ。・・・でも、だからと言って若手を潰すのは絶対に、駄目だろ」
「・・・そうかぁ、子どもが出来たら変わっちゃうのかな。でも良かったよね。虎っちが余計な事言ったから、中路さんも動いてくれたんでしょ?」
 瑠美がそう言うと、新藤は頷いた。
「そうです。あの後、中路さんがメンバーに言ってくれたみたいで。もうこんな事はやめろって。上が動いたら、チームをばらばらにさせられる可能性があるし、誰も辞めてほしくないと」
 中路の賢い説得がチームの心を動かしたようだった。

「莉里さんや更に上も動いてくれて、新木さんに話を聞いてくれて。カウンセラーの方にも話が通って、定期的に新木さんは相談する事が決まり、チームも以前のところに戻ったみたいです」
 横尾がそう言うと新藤は両腕を前で組んで言った。
「いやぁ、とうとう19チームのパンドラの箱を開ける時が来たって感じだったよ。上も、うすうす感じてた事だったし。時代を考えても、やり口が古すぎる。改革しないとダメだって分かってて、箱を開けるきっかけが出てこなかったからね」

 この日、珍しく莉里も社食におり、話に加わっていた。
「横尾君と新藤君の早い進言のお陰だよ。上もとうとう来たかって感じで動いたから。そして、上杉君の怒りまかせな行動もね」
 そう言うと、皆で笑い合った。

 そこへ、遅刻して出勤した上杉が社食へ入って来た。
「お、怒りのヒーローじゃないか」
 佐々木がそう言うと、大股で後ろポケットに手を入れながらこちらへ向かって来た上杉は、まだ眠いのか不機嫌な表情をしていた。
「遅刻してその態度。社長出勤だよ」
「目つきは映画に出て来るヤクザだけどね。背も高いから怖いんだよぉ」
 そう新藤と三平に揶揄されている事にも気づかず、ペットボトルの水を一気に半分ほど飲んだかと思うと、皆の近くにある一つの席へ座った。
「おう、なんだよ今日は随分大勢が集まってんな」

「この人へのヒーロー的扱いは、ここで終わりね!」
 瑠美がそう言うと、メンバーは賛同の表情と頷きをしながら、納得していた。
「あ、瑠美さんそろそろ戻りましょう。お昼時間終わります」
 三平はそう言ってリュックを背負い、大急ぎで食器を下げると、皆もそれぞれに持ち場へと戻って行った。


 一人になった上杉は、社食の窓から外を見ていた。

 すると、目の前にあの人物が現れた事に気づき、ニヤッと相好を崩した。
「おう、お前か。少しは吹っ切れたか」
 いつものように、オシャレに余念のない服装で黒田は照れくさそうに頭を掻き、少し笑った。
「はい。元気になりました。たくさん泣いたけど、休み期間は漫画読みまくって、友達と飲みに行ったりして、発散生活してました。なんか、気持ちが軽くなった気がする。・・・そうだ上杉さん、聞きましたよ。僕が休んでいる間に職場で色々あったんですね」
「ああ、まぁそんな大きな事じゃないけどな。当事者は大きな事だったと思うけど」

 黒田は椅子を引いて、上杉の目の前の席へ座った。
「僕は本当に回復しましたよ。この前、言ってた新人の白ギャルの子、探して見たんだ。確かに可愛かったです」

 上杉は鋭い目を少し垂らして笑った。
「お前らしさがもどったな」
「また、飲みにカラオケ行きましょうね」
「おう」


 窓から見える外の風景には、二人の空気感と同じような春の始りを感じさせる空の色が広がっていた。気づくと上杉らは、Dasrのコールセンター に勤めて半年が過ぎようとしていた。



 昼休憩を終え、上杉が喫煙室に向かって歩いていた。すると、中路が喫煙室から出て来る姿が見え、こちらに向かって来ていた。
 上杉は彼女と目が合った。
 中路はすれ違いざまにこちらを振り向き、上杉の肩を軽くポンと叩いて止まった。

「虎に、言っておこうと思って」
「あ、なんですか」
 中路はしっかり上杉の目を見ると、言った。
「悔しいけど・・・、言ってくれてありがとう」
「ああ・・・。いや、俺も何にもわかってないくせに」
「いや、私も恥ずかしいわ。若造が何も知らないくせに、とか思ったし」

 二人は、お互いに清々しい顔をしていた。
「それだけ、・・・じゃ」
「はい」
 その良い表情のまま、二人はそれぞれの方向へ、向かって行った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?