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消雲堂綺談

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私は怪談奇談が好きで、身近な怪異を稚拙な文章にまとめております。
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#怪談

百物語 18「人を喰らう話」

百物語 18「人を喰らう話」

六国史のうち、平安期に編纂された、清和、陽成、光孝天皇の代である天安2年(858)から仁和3年(887)の国史「日本三代実録」には以下のような話が掲載されています。(中公文庫 日本の歴史「平安京」から)



8月のある晩、午後10時頃に、内裏(天皇の居住地域のこと)・武徳殿東縁の松原の西に美しい女が三人、東に向って歩いていると、ひとりの男が松の木の下に佇んでいた。これがなかなかの美男で、ひとり

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湯島の夜 「悪女の願い」

湯島の夜 「悪女の願い」

1960年製作のアメリカ映画「空飛ぶ生首」を観た。

小さな島が舞台だ。

メグとの結婚間近に控えたトムは、以前の恋人ヴァイに自分と関係があったことをばらすと脅される。しかし、ヴァイは灯台の鉄柵が折れたことで灯台の上から海に堕ちて死んでしまう。手を伸ばせば助けられたはずのトムは後悔する。

それからトムはヴァイの幽霊につきまとわられる。砂浜を歩けば恋人の足跡が砂浜についたり、部屋でピアノを弾けば恋

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百物語7「神田明神と成田不動尊」

百物語7「神田明神と成田不動尊」

妻が友人から聞いた話だ。

妻の友人の父親が神田明神を贔屓の神社として崇めているのだが、たまには別なところに行こうと、成田不動尊まで初詣に出かけた。自宅がある船橋から印旛沼を越えて不動尊を目指す。

ようやく成田に着いたが、市街を行けども行けども成田の町をぐるぐると回るばかりで少しも不動尊に着かないのだ。誰かに聞けばいいのに父親のプライドがあるのかそのまま市街地を走り回ったあげくとうとう諦めて帰宅

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百物語6「幽霊」

百物語6「幽霊」

江戸時代の怪談から

能州(現在の石川県)飯山の谷合に神子ヶ原という村があった。

村の百姓某の妻は脇に鱗があり、乳房が長く、子供を背負い乳房を肩にかけて乳を飲ませていた。さらに妻は力持ちで男にも負けたことはなかった。

その妻は、ある日、病死してしまう。死後17日目に妻の幽霊が現れて夫を取り殺してしまった。

その後も村にその幽霊が現れて、女子どもが恐れた。そこで、村の作蔵という男が「死人の墓に

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異相の人

異相の人

僕は2004年頃からブログを始めましたが、その後、節操なくいくつものブログサービスでブログを作り、数え切れないほどの文章を書きました。僕のブログ「消雲堂の安全対策」から転載。

尾州犬山(愛知県犬山市)の酒屋の話。

弘化4年(1847年)の春、ある日の深夜、酒屋に鼻の高い異相の人が現れて「酒をくれ」と言う。酒屋の主が酒を与えると、升でガブガブと飲み、あっという間に数石(1石は10斗、1斗は10升

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消雲堂綺談「崖の上」

消雲堂綺談「崖の上」

あれは、妻が乳がん手術をする少し前のことだったと思う。千葉県のKという街の古いアパートに住み始めた頃の話だ。

かつて有名な時計メーカーの工場があったという場所を通ることから、その時計メーカーの名前がついている街道沿いに僕たちが住むアパートが建っていた。

街道をはさんだ反対側にあった写真店の庭には大きな桜の樹があり、タコの足のようにウネウネと四方に伸びた太い枝には毎年、物凄い数の花を咲かせていた

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消雲堂綺談「エレベーター」

消雲堂綺談「エレベーター」

僕は千葉県の浦安に住んでいる。この2年間に続けて両親が死に、肉親は妹だけになった。僕たちの親族は東北の方にいるが、両親が存命の時から疎遠になっていた。疎遠になった理由は知らないが、僕たち兄妹は子供の頃に東北の湖のある町で叔父と叔母に会った記憶があるくらいのつきあいだ。その叔父と叔母もかなり前に死んで、その後どうなったのかも知らない。

僕は結婚して浦安に居を構えたが、両親と妹は浦安の隣のNという江

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袋小路

袋小路

ポスティングのアルバイトをしているときの話だ。ポスティングは、地元のフリーペーパーを配布する仕事だが、僕と田辺さんと香村さんの3人で行っていた。ある日、午前の配布を終えて事務所で歓談していると、香村さんが不思議な体験を話し出した。

「田辺さん、袋小路の奥の袋小路に入ったことがありますか?」

「え?袋小路って路地の突き当たり…行き止まりのことでしょ?」

「そうです」

「行き止まりだから、その

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永井荷風“断腸亭日乗”の怪談

永井荷風“断腸亭日乗”の怪談

*写真は池袋西武百貨店勤務時の同僚

永井荷風の「断腸亭日乗」に、不思議な話が書かれている。その話は太平洋戦争が間近に迫った昭和十六年六月十八日に「町の噂」と題して記されている。内容は以下のようなものだ。

芝口辺米屋の男が三、四年前に召集されて中国の戦地に行った。漢口で数人の兵士と一緒に中国人の医師の家に乱入した。医師の家には美しい娘が二人おり、医師夫婦は娘を守ろうとして壺にいれていた金銀を兵士

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墓穴

墓穴

能州(現在の石川県)飯山の谷合に神子ヶ原という村があった。

村のは百姓某の妻は脇に鱗があり、乳房が長く、子供を背負い乳房を肩にかけて乳を飲ませていた。さらに妻は力持ちで男にも負けたことはなかった。

その妻は、ある日、病死してしまう。死後17日目に妻の幽霊が現れて夫を取り殺してしまった。

その後も村にその幽霊が現れて、女子どもが恐れた。そこで、村の作蔵という男が「死人の墓に穴があれば、幽霊が出

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消雲堂綺談「霞ヶ浦」

消雲堂綺談「霞ヶ浦」

僕と妻が結婚したのは1991年でした。僕たちは釣りが縁で結婚したようなものでした。1990年代の前半は毎週のように茨城県の霞ヶ浦や山梨県の富士五湖までブラックバスや放流された虹鱒を釣りに車で出掛けました。

ある日、僕たちは会社の仲間と泊まりがけで霞ヶ浦まで出掛けました。泊まるといっても車中泊で、運転席と助手席を倒して仮眠をとるだけでした。会社の仲間と釣りに行くときには妻を連れていくことはありませ

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消雲堂綺談「エレベーター」

消雲堂綺談「エレベーター」

僕は浦安に住んでいる。この2年間に続けて両親が死に、肉親は妹だけになった。僕たちの親族は東北の方にいるが、両親が存命の時から疎遠になっていた。疎遠になった理由は知らないが、僕たち兄妹は子供の頃に東北の湖のある町で叔父と叔母に会った記憶があるくらいのつきあいだ。その叔父と叔母もかなり前に死んで、その後どうなったのかも知らない。

僕は結婚して浦安に居を構えたが、妹は両親と一緒に浦安の隣のNという江戸

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