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永井荷風“断腸亭日乗”の怪談

*写真は池袋西武百貨店勤務時の同僚

永井荷風の「断腸亭日乗」に、不思議な話が書かれている。その話は太平洋戦争が間近に迫った昭和十六年六月十八日に「町の噂」と題して記されている。内容は以下のようなものだ。

芝口辺米屋の男が三、四年前に召集されて中国の戦地に行った。漢口で数人の兵士と一緒に中国人の医師の家に乱入した。医師の家には美しい娘が二人おり、医師夫婦は娘を守ろうとして壺にいれていた金銀を兵士たちに手渡し「娘二人は助けてくれ」と嘆願した。ところが兵士たちは娘二人を裸にして医師夫婦の前で輪姦してから医師夫婦とともに縛って井戸に投げ込んで殺害してしまった。

そのうちの兵士の一人が日本に帰還して母と嫁の元に帰った。すると母と嫁の様子が出征前とは大分違う。何かを隠している雰囲気だ。しばらくして、我慢できなくなった兵士が嫁の外出中に母に「留守中に何があったのか」と問いただすと「あなたも留守中に強盗に襲われて私も嫁も縛られて強姦されてしまった」と言った。

その話を聞いた兵士は漢口で良民を陵辱して井戸に投げ込んで殺してしまったことをはっきりと思い出して己の罪に恐怖し、とうとう精神に異常をきたして、市川の陸軍病院に収容されてしまった。

当時の市川の陸軍病院には三〜四万人の狂人が収容されていたとのこと。

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