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メモ:退屈と幸福について。コーチをつける価値。

脳は慣れる。

同じ景色、同じ文脈の上にいるとだんだん退屈になってくる。

それが理由で、遊牧の民が定住民になったとき、芸術や技術の発展が生まれたという。

違う視点、違うコミュニティ、違う環境を自ら作り出すことに創造性が使われるようになったのだ。

もし同じ景色、同じ文脈の上から逃げ出せない事情があれば、心身に不調を来してでも、人はムリやり環境を変えようとすることがある。

会社を憎んではいるが、辞めることもできない労働者が鬱になったり、問題を起こして辞職することになったりするのがわかりやすい例かもしれない。


同じ仕事ですることは毎日同じわけじゃない。
異動もあるだろう。

だけれど、基本的に同じ職場にいる人間は似ているし、評価基準や文化はそう変わりはしない。

そのため、脳の同じ神経回路ばかりを使うことになる。そこばかり活性化され、それ以外のものの見方は、次第に不活発になっていく。

たとえば、昔は好きだった音楽を聴く時間が、「生産性がないからムダだ」と感じたり、「どうやったらこの特性をお金にできるか」と考える対象になっているなら、仕事以外の回路がさびているのかもしれない。

ものの見方を切り替えることは、創造性や幸福度に直結する。

どれだけかけ離れた文脈間を臨場感をもって移動できるかが、想像力の幅になるし、それが他者理解にもつながる。

こういう事情から、趣味を持つことや副業を持つことは価値がある。

いつもとは違う回路を活発にしてくれる。

家庭を持つ、子育てをするといったことも同じ働きがあるかもしれない。


副業とクリエイティビティ

1つの回路がすべての状況で優秀な成績を叩き出せるわけではない。

むしろ、上手くスイッチの切り替えができなければ次々問題が起きるだろう。仕事だけが上手くいって(そう思い込んでいるだけのこともある)、それ以外がすべて破綻しているような人はそう珍しくはない。

副業は、それ自体では儲からないとしても、本業の成果が上がることで人生に貢献してくれる。

脳の別の回路をいつでも使えることは、視点の移動を容易にし、さまざまな角度から物事を考えられるようにしてくれる。

いったん没頭していた対象を忘れて、何か別のことに集中できれば、また戻ってきたときひらめきが訪れることも多い。

ノーベル賞を受賞するような科学者が、だいたいプロ級に凝っている別の趣味(バイオリンやピアノ、文学)を持っているのは偶然ではない。


副業はふつう、本業より自分の好きなことをベースにしている。裁量も自分にある。

やりたいことをやる時間を持っていること、自分が裁量を持っていることがあることは、精神の安定に役立つ。

ものの見方の自在性と幸せ

ものの見方が柔軟な人は、人間関係を良好に保ちやすい。

そして、良好な人間関係は幸福度や健康にもっとも影響する要因の1つ。さらに、幸福度の上昇は収入の上昇にもつながっている。

ご機嫌で、周りの人から大切にされていそうな人は、信頼される。良い話が舞い込みやすくなる。それで収入が増えるのかもしれない。


複数のコミュニティに属すことが幸福度を高めるのも視点の切り替えを可能にするからだろう。

コミュニティが違えば、尊重される価値観が違う。自分の立ち位置も異なる。職場とは違うキャラクターの自分を前面に押し出すだろう。


芝居をすることや読書することも柔軟な考えを養うのに役に立つが、それも同じような理屈なんだろうと思う。

違う自分になりきる時間が、視点を充実させる。

僕らは、いつもの文脈を外れる機会を必要としている。


あらゆる幸福度向上法中いちばんの優等生

しかし、僕らにはホメオスタシスといって、今の文脈から離れることを嫌がるシステムも備わっている。

このシステムをうまく利用し、仕事だけでなく趣味や人間関係など、オールライフで充実した人生を送るサポートをしてくれるのがコーチという職種である。

幸福度向上について横断的に調べた研究で、コーチングは群を抜いて成績がよかった。

新たな神経回路を活発にするには、新しい行動を始め、繰り返すしかない。

もちろん、新しければなんでもいいのではなく、自らの大切にしたい価値に沿った行動を増やしていくことが大切。

こうした行動は「前進行動」と呼び、定着には努力がいる。

年初に立てた個人的な継続目標の実に95%が達成されないことを考えれば、コーチをつけるのは理に適っている。

ちゃんとしたコーチに1時間のセッションをお願いすると、2万円以上かかるのがふつう。だいたいは6回くらいで1セット。

トップクラスのコーチだと、20分で120万円という人もいる。

高いだろうか?

参考までに。メンターがいることで収入がどれくらい上げるかという研究ある。

ジェラルドロシュの研究。1250名の企業幹部を対象に調査を行った。
メンターがいる企業役員の平均給与は、メンターがいない者より28.8%高く、ボーナス平均の増加分65.9%と合わせると、現金報酬の総額は平均で29.0%高いことが明らかになった。

単にメンターがいることでこれだけ違う。コーチならさすがにもう少しマシな成果を出すはずだ。

欠乏の行動経済学

仕事の文脈はあまりに強力すぎる。

趣味やボランティアのコミュニティに属すことは有効だが、ふつう仕事より後回しで予定が立てられるもの。

お金に余裕がないと思っているほど、将来に不安を抱えやすい人ほど、趣味やボランティアが片隅に追いやられるのも想像がつく。

購入するお金はあるし、長い目で見れば役に立つものを、一度に出ていく金額を見て買う気が失せることがあるだろう。

現在の強い不足感、それに伴う不安は長期的に見れば良い活動を遠ざける。代わりに、ストレスは強いから、その解消として短期的に快楽を得るための消費には過剰なまでにお金を回しがちになる。

これは行動経済学でトンネリングと呼ばれる現象で、賢い人でも同じ状況になるとIQがぐっと下り、同じような決断を下す。

僕の母は、パート労働をかけもちするシングルマザーだが、仕事の後は家事をして、それでもう気力と体力を使い切ってしまうから趣味はない。ボランティア活動もしていない。

こんなことができたらという夢はあるが、「状況が落ち着いてから」と言い出して5年以上経っても手をつけることはできずにいる。僕がもっと早く自立していれば、多少は違ったかもしれない。


仕事は、生活に必要なお金を生み出す。趣味はそうではない。

多くの人は、起きている時間の大半を費やさなければ生活に必要なお金を稼げない(そうでなくても、そう思っていることは多い)。

そうしなければならない生活をあえて作り上げたりもする。収入が増えたら、その分食べるものをより豪華にし、住む家をグレードアップしようとする。

働く時間を減らしたい自分を罰するために、あえてそうしているのかと思わされるような社会人を居酒屋で見かけることがある。不健康そうで、いろんな方面に対する愚痴が次から次へと口をつく。

生活のグレードを下げて、支出を減らすことで仕事を減らせばいいのに、と思うが、たいていそうはいかない。

多くの人にとって仕事は、時間と給料の交換で成り立っている。生活のグレードを下げても、毎日会社を4時間や5時間早めに帰るのは難しい。

1つの文脈に染まる危険性

個人的には、こんな働き方は不健康だと思う。

そもそも、仮にどれだけ仕事が面白いとしても、同じ文脈に1日10時間近くも、週に5日以上も留まっていれば、その物語の住人に染まり上がって当然だ。自分は昔からずっとそこにいたように思うかもしれない。

でも、そんなことはない。

同じような映画ばかり作る同じ監督の作品にだけ出演し続けていれば、飽きてくるのが当然だ。

同じストーリーライン、同じようなメッセージ性の映画ばかり演じていたら、素の自分は死んでいってしまう。淡々と、作業のように演じるようになっていく。

時おり我に帰って、なんだか退屈だとか、何かが物足りない感覚が湧き上がってくるかもしれない。そういうときは、愚痴仲間と飲みにいく。

処方

解決策は単純だ。

別のメッセージ性がある、違う監督の作品に出ればいい。

ガツガツした自分を押し出すビジネス映画に出たら、今度は寛容で穏やかな近所のおじさんの役をするのだ。

でも、そうは問屋が卸さない。

もういつもの監督とズブズブだし、慣れきっているから予想外のこともそうない。それに、新しいことを始める足腰も持ち合わせてはいない。

もちろん、これは幻想で、コーチングでいう「ホメオスタシス」が引き起こしている認識。


ここまで見たような仕事の文脈の強さを考えれば、副業の持つ力は別の観点からも重要なのがわかる。

収入源を1つにしないことは、ひとりの監督とズブズブの間柄にならないことに等しい。

自分で劇団を作ってでも(もちろん比喩的な意味)、自分の中にあるいろんな自分を表現する場所を持つことが大事だ。最悪自分で食っていけるという自信も持てる。

いろんな会社からひっぱりだこの人材なら、別にそんな心配はいらないだろうから、まっさきに趣味やボランティア活動を充実させればいい。

けっきょく、仕事はどんなものも資本主義の文脈に乗っかっている。他者の物語との接続も必ず求められる。

純粋に自己目的的な活動のみが、
自分が監督の作品と言えると僕は思っている。
それが真の意味で人生を充実させる。

誰のためでもなく、誰に見せるわけでもない純粋な趣味が一番創造性を発揮できる。もっと出せる自分の幅が広がるだろう。

1人で楽しんだり面白がったりできる力が、創造性や独りでいること(死ぬときはみんな一人だし、老年期は歳をとるほどひとりの時間が増える)への耐性を高める。


趣味の話:

不確実性と戦略思考の観点から

やりたいことの見つけ方の話と絡めて

遊びたいと思わない子供の話から


参考文献:


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