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【経験はそれだけで価値がある!】あなたの体験を価値ある作品に昇華する方法(2017年10月号特集)


ここでは1つの体験から、川柳、エッセイ、小説にする方法を考えていく。

そんなことあったな…という記憶がよみがえる

例えば…
「似顔絵」というテーマを与えられて、そこから連想される出来事をあれこれ考えていたら、遠い昔、子どもが幼稚園で似顔絵を描かされ、そのとき、妻の似顔絵に角をはやしてしまったことを思い出した。

川柳にするなら…

 川柳にする場合は、まず出来事のどこに焦点を当てるかを考える。川柳は短いだけに一句一趣でいく。ただし、一趣と言っても「昔が懐かしい」といった漠然とした趣旨ではなく、「子どもは素直だから実態を露見させてしまう」というように焦点を絞る。体験した出来事の中から、句にしないことをどんどん捨てていく要領。

エッセイにするなら…

どちらもso whatを

「SO WHAT?」は「だから何?」。
 どんな面白い作品でも、「だから何?」と問われたとき、(行間に書いてあってもいいが)「○○って○○だ」が見えないとしつくりこない。最後の1行を読んだときに腑に落ちず、深みもない。

2~3枚なら…

 短いエッセイやメッセージを書く場合は、あまりごちゃごちゃと素材を入れず、ワンエピソードでシンプルに書く。
 特に規定字数400字ほどのメッセージや手紙はシンプルな構成でOK。

5枚以上なら…

 短いエッセイでも、400字詰原稿用紙5枚(2000字)ぐらいの枚数になると、意外な話がテーマにつながるなど、いろいろ仕掛けができる。話の素材も2つか3つぐらいないと構成的に寂しい。

小説にするなら…

 小説にする場合は、実体験をそのまま書いてもいいし、全然違う話にしてもいい。内容は自由だから、いかようにも作り替えられる。「SOWHAT?」を考えるのは小説も同じだが、エッセイほど結論をはっきり書かず、出来事を通じてうっすら思わせることも多い。

私小説なら…

 私小説であれば、実際にあった体験をそのまま書く。
 つまり、「子どもの似顔絵を見たら、私の頭に角がはえていた、私そんなに怖い母親だったかしら」という話でもよい。ただし、日常生活に起承転結はないから、「何が、どうして、どうなった」という設定、展開、結末は自分で考え、作品を通して言いたいことも盛り込む。

リアリズム

 リアリズムで行く場合は、「似顔絵を描いたところ、素直に角をはやしてしまった」という流れは変えずに、人物や立場を変えてみるという手も。たとえば、〈80歳の母親は、60歳の娘の似顔絵に角を描いてしまった。60歳のこの娘は80歳の母親に殺意があるのか。介護疲れか。〉と考えるとシリアスな話になる。

もっと空想

 実際には人間の頭には角はないが、そこは発想を広げ、「なぜ頭に角を描いてはいけなかったか」を考える。そして、「ある母親には本当に角がはえている。実はこの母親は鬼だった。それを隠して生きている家族だ。しかし、子どもは素直だからつい事実を書いてしまった」とすれば、話を飛躍させることができる。

文章構成の鉄則

 文章には「最初に出てきた問いほど後半で回答される」傾向がある。図1はこれを象徴的に描いたもの。導入部でなんらかの話が振られ、メインの話になり、最初のほうで振っておいた問題を解決して終わる。必ずしもシンメトリーになるわけではないが、「○○である理由は」と書いて「○○だ」と書かずに終わる文章がないように、先に振った話題があれば、それと照応する話題はあとで必ず出てくる(図2)。

発想が被っても表現で差がつく

 とっかかりのアイデアを作品にする前に、表現について考えてみよう。表現は顔のようなもので、顔のパーツはどんな人もだいたい目と鼻と口で構成されるが、パーツは同じでも顔は違う。発想は同じでも、表現次第では全然違うものになるということだ。たとえば、「子供らしい子供とんと見な
くなり」は予選落ちしてしまった川柳だが、添削後の「平成の風の子はもう風の中」のように表現を磨けば、間違いなく予選通過の候補に入るはずだ。

 エッセイや小説も同じで、同じ発想の作品でも、どこをどう切り取るか、どう構成するか、テーマをどうするか、どんな文体で書くかによって、作品のレベルも印象も全然違ってくる。
 まずは発想でライバルに差をつけたいが、そこでかぶっても、表現でも大きな差がつく。

設定が破れて展開し、変化することが必須

 構成の方法で有名なのは起承転結だが、これをシンプルにすると、「問いがあって、それに答える」となる。
 エッセイや小説に問いがあるのかと思うかもしれないが、〈吾輩は猫である。〉と書けば、そこには「どんな猫なの?」「その猫がどうかしたの?」といった疑問が生まれる。
 これらの疑問に必要に応じて回答すれば文章は終われる。質問に答そなければ終われないが、質問に答えていればストーリー自体は中途でも話は完結する。

 構成というのは、どこをどう切り取るかという違いはあっても、〈何が、どうして、どうなった〉という流れはだいたい同じ。
 しかし、構成こそ同じでも、そこから立ち上ってくるテーマは作品によって違う。
 このテーマは、設定があり、それが破れて新局面になったときの変化として表れる。
 逆に、設定だけが書いてあって展開しない話や、最初と最後で心情も状況も変わらないのであれば、それがきっちり起承転結で構成されていても、作品としての完成度は1次予選落選レベル。

特集「その作品、みんなとかぶってますよ」
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※本記事は「公募ガイド2017年10月号」の記事を再掲載したものです。

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