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記憶の図書館

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読んだ本の記録。
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#推薦図書

今という瞬間に集中して -ライオンのおやつ-

今という瞬間に集中して -ライオンのおやつ-

ライオンの家では毎週日曜日の午後3時にお茶会が開かれます。ゲストからの「もう一度食べたい思い出のおやつ」を毎週ひとつ忠実に再現するのです。

小川糸さんの『ライオンのおやつ』を読みました。

ここで言うゲストとはすなわちホスピスの入居者。
ライオンの家は瀬戸内にあるホスピスのこと。

主人公の雫は若くして余命宣告を受け、ライオンの家にやって来ます。

余命宣告。ホスピス。
その言葉を見れば悲しい物

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おとなのためのやさしい物語

おとなのためのやさしい物語

元号が変わったことに対してあまり意識を向けていなかったものの「令和のはじめに読むのはとっておきの本にしよう」という気持ちだけは強く、本棚から自然とこの小説を手に取っていた。

さて、いしいしんじをご存知だろうか。

わたしが彼を知ったのは下北沢のヴィレッジヴァンガードだった。平積みされていた『ポーの話』に目が留まった。そのシンプルなタイトルとひらがな6文字の作者名、装丁に惹かれて文庫を手に取り裏の

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これぞ星野源の”初期衝動”

これぞ星野源の”初期衝動”

清々しい程の生々しさを感じるエッセイだった。

星野源の初エッセイ集『そして生活はつづく』。

2作目のエッセイ集『働く男』は以前読んでいて、その時には好きな言葉、覚えておきたい言葉が山のようにあったんですよね。

たとえば、、

才能があるからやるのではなく、
才能がないからやる、という選択肢があってもいいじゃないか。
そう思います。
いつか、才能のないものが、面白いものを創り出せたら、
そうな

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彼女はまだ、あの夜の中にいる。

彼女はまだ、あの夜の中にいる。

わたしはいま、一体どこにいるのだろう。

わたしがいるここは、夜の中、なんだろうか。

夜には、いろんな夜があると思う。

夜桜は美しいけれど、ちょっと不気味にも感じる。
花火やお祭りはわくわくするけれど、怪談は怖い。
遠回りしたくなる夜もあれば、すぐに帰りたい夜もある。
寒くなり、夜の長さは増して、気が付けば短くなっていく。

楽しい夜もあれば、心細い夜だってある。

心細くなるような夜を過ごし

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わたしは、おめかし上手を目指したい

わたしは、おめかし上手を目指したい

川上未映子さんが朝日新聞で6年間連載したエッセイ
『おめかしの引力』に惹きつけられてしまった。

図書館でタイトルに惹かれて手に取ったら装丁も素敵!
裏表紙も格好良いんですよね。

装丁は誰だろうと思ったら納得の吉田ユニさん。

星野源のアートワークも多く手掛けていますね。
『YELLOW DANCER』も最新の『POP VIRUS』も。

わたしはnoteを書くときに思いついたことをそのままキー

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エンドロールは旅の終着駅

エンドロールは旅の終着駅

最初に映画館で観た映画は何だったかな。

ドラえもんか、ポケモンか、な気がする。

小学校高学年でONE PIECEやハリーポッター、千と千尋も観に行ったっけ。
当時高校生だった年上の従兄弟が「俺、千と千尋は映画館に3回観に行ったよ」と言っていてその響きが格好良く聞こえたのを覚えている。同じ映画を映画館に何度も観に行くって、そんなことが可能なのか!大人は違うなあ、と子供ながらにぼんやり思ったものだ

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わたしは世界の歯車になれているだろうか

わたしは世界の歯車になれているだろうか

共感と拒絶が同居している小説だと思った。

第155回芥川賞受賞作
村田沙耶香『コンビニ人間』

「どれどれ」なんて軽い気持ちで読み進めていたら、お腹の底の方にじわりじわりと黒いものが溜まり始めて、なんだか嫌だなあと気付いていても目が離せなくて、黒いものが半分くらいまで膨らんだときには最後のページ。
わたしにとってそんな小説だった。

古倉恵子はコンビニバイト歴18年の36歳。
大学1年生の頃にオ

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さあ、音楽を始めよう。

さあ、音楽を始めよう。

数年前の書店。
平積みの本の中で目を惹く装丁と題名だった。

恩田陸『蜜蜂と遠雷』

読みたい!けど文庫化してからにしよう。文庫が出たら必ず買おう。
と、思い続けて早数年。
いつまで経っても文庫化はされず、けれどわたしの記憶からこの本が消えることも無かった。

まさか、同じくジリジリと待っていた母が待ちきれず先にハードカバーを買っていたなんて。
実家に帰ってこの本を見つけたときには思わず「うわあ、

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