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詩展2012 Shallow Blue in Orange


真っ黒な整列


指先に残る感触
現実感以上の幻想感
痺れるような弛緩が止まない直後

人差し指と親指が反射した
いや、決断した
正義という大義の下で
防衛という前提の下で   なされた

論理的な思考とも思えぬ一連の帰結
感情的な思考とも思えぬ一連の帰結
理性的な思考とも思えぬ一連の帰結
人間的な思考とも思えぬ一連の帰結

刹那  突っ伏した背中
刹那  湧き上がった安堵
刹那  淀んだ背景色



君がいなきゃ


君がいなきゃ
醤油さしがどこにあるかわからない

君がいなきゃ
大好物の中トロもさほどおいしくない

君がいなきゃ
窓の花もそんなに綺麗と思えない

君がいなきゃ
チャンネルの取り合いもできない

君がいなきゃ
トイレ掃除のじゃんけんもできない

君がいなきゃ
「風呂、先入る?」って聞くこともできない

別れて
はじめて ようやく  気づいた

君がいなきゃ
日々のすべては 平凡なまま

笑っちゃうよ
笑っちゃっていいよ

どうやら
僕という僕らしさは
僕のものではなく 君のもの だったみたい


北東の水族館


「キレイ」
そう指差す先にあるものを
同じように
キレイと思えなくなって久しい

自分で精一杯
半径1メートルの事さえボンヤリ
そんな時にも
作為のない共感で
「ほんとキレイだね」と
相槌を打っていた自分がちょっと懐かしい

帰りの地下鉄で
僕らの前に座っていた五十過ぎの男性
両手に荷物をもったおばあさんが来るなり
さっと立ち上がって
無言の右手で席に座るよう促し
隣の車両へ歩いていった

あんな風に
器用に スマートに
これから僕は
キミのために 誰かのために
何かを 真っ直ぐにしてあげられるのかな
「してあげる」
という上から目線を拭い去れるのかな

何1つ不自由なんてないのに
何1つ不自由なんてないからこそ
些細なことで苛立ってばかり
そんな自分にタメ息ばかり

それでもキミは
この心の奥を知って知らずか
狐の嫁入りのような声で
「また、いっしょに行こうね」と
この手をそっと握ってくれた



澄み切った青を見上げる午前 可能性の渦が西の彼方によぎる
単調な予告を告げる明日が東の彼方に漂う

変化の乏しい迷路の中で残り時間を地図をなくして消化
秋の風の中 飛ぶトンボに優しく語る
どこに行きたいのかわからない もう明日にときめかない
どうすればいいのかわからない 昨日の積み重ねを繰り返している

意味があるのかないのか2択ならば「ある」と答えるしかない日常
「ない」と答える権利はあると言われるが
言わずもがなと暗黙の了解を強要される

憧れは明確なのに方法論を掴みにいく勇気を持てずに過ごしている
遅すぎることはないと言い聞かせたところで夢は夢物語のまま
変えれない過去に捕らわれたまま

渋り出される未来 欠片に託された無数の光
針に触れようとする仕草 それは中枢を握るようにも見える

どんなに遠く投げられても どんなに深く掠れても 美しさは永遠に

時よ流れてしまえ 願い続けた9月の2限
屋上に駆け上り 仰向けで抱きしめた秋空
浮遊する 手を広げ 滑空するかのよう

最果てがあるのなら今すぐ飛んでいきたい
辿り着ける確証があるのなら歩いてでもいきたい
始まりも終わりもない世界に


知らずに済んだフクシマ


ミリシーベルト、ミリシーベルト、ミリシ・・・
一生、知るはずのなかった言葉
ベクレル、ベクレル、ベクレル、ベクレル・・・
一生、知らずに済んだはずの言葉
一大キャンペーンのように
バラ撒かれた
バラ撒かれた
津々浦々にバラ撒かれた

無知は黙認に等しく
無関心と何ら変わりないこと
痛切に実感した
福島がフクシマになってしまってようやく

数値に求められ
毒気を抜かれたリスクとコスト
一つの天秤に乗せられ
維持を前提とし
見え透いた古典原能を誇大踏襲

「今、福島原発はどうなってるの?」
夕方のニュースを見ながら
上の空で答えながら、ふと気づく
「よくわからない・・・」
いつの間にか
あんなに溢れていた関心が薄れている
あれから
まだ5ヶ月しか経っていない蝉時雨


ニ大政党制


いっぺん委ねてみましょう
ダメもとでいってみましょう

少しは褒めてあげましょう 
たまにはいいでしょう

褒めれば伸びるか縮む
どちらにしても何らかの反応は測定されるでしょう

勇気を与えてやりましょう
調子に乗っているなら
いっぺん鼻をへし折りましょう
最終的にはどちらのためにもなるでしょう

いっぺんそっぽ向きましょう
積極的に示してみましょう

少しは冷たくしてあげましょう
たまにはいいでしょう

冷たくすれば伸びるか縮む
どちらにしても何らかの刺激は観測されるでしょう


休息を与えてやりましょう
意気込みがあるなら
いっぺん鼻を高くしてやりましょう
最終的にはどちらのためにもなるでしょう

いちいちやってあげましょう
そうしないと気づかないでしょう
そうしないと気づけないでしょう
そうしないと落ち込んだままでしょう
そうしないとあぐらをかいたままでしょう

めんどくさいもんでしょう
世話がやけるもんでしょう
まあ そんなもんでしょう


あの日から


「大丈夫ですか?」と聞かれ
「大丈夫ですよ」と答えるばかり

勢いで
喜怒哀楽を漏らして
記憶の海原に投げ出されるくらいなら
1つも残さず
グッと呑み込み
しまっておいた方がまだいい

何もかも 誰も彼も
つけられる
はずだった無数の句読点を置き去りにして・・・

いっそ
あの日に物語という物語が
     おわってくれていたら
          楽になれたのかな・・・

不謹慎?
そうかもね。
でもね。
そう、思わずにはいられないんだよ・・・

前を見つめる眼差しに
上を見据える歩幅に
ついていけるほどの折り合いを
まだ
つけられそうにない (ゴメンナサイ・・・・・・)

声なき声がする
どうしても、声にならない声が聴こえる
  あえて、声にされない声が聴こえる
    五感を通して 響き渡る
     その1つ1つを静かに受けとめる
      その日が来るまで
       その日を信じて


時事


世界は昨日もこんなに泣いていました
1人  リビングでコーヒーをすすりながら目を通す

相変わらずこんなにもひどいままです
良くも悪くも映像は気軽に教えてくれる


1人  リビングで蓄えていく
話のタネにでもなればと思いながら
世界は昨日も泣いていた
そして今日もまた泣くのだろう


1人  リビングで物思う
世界の中でどう映ってるのだろう

あんなにも泣いている場所があれば
こんなにも笑っている場所がある

あの場所から見れば
僕は笑っている場所にいるのだろう


でも僕自身は
その中間のような場所にいると感じている


だから時々
笑っている場所よりも

ずっと泣いている場所に
憧れに近いものを感じる


夜明けの食卓


きらびやかな回路 敷設する真夜中過ぎ
2LDK 奥深く 冷たい重低音

書き表せない感情を言葉にする矛盾


月明かりを蹴散らすかのようにライトアップ
暗闇知らず 闇夜知らず

哲学とは何なのかから始まる自己実現


寝転がるホームレス 悪気はないのに隅へ隅へ
ありふれた朝が摩天楼に霞む


喰い散らかす残飯 
遅ればせながら収集車
あふれ始めるスクランブル

あの頃が今も続いていたなら 仮定は現実よりも鮮明


飛び出した黄色い太陽  広がる白いキャンバス
手馴れた手つきで揺らし とれかけのまぶた 精一杯くっつけて


傷つけてしまった面影 取り戻せはしないけれど
今朝も眠気覚ましで 小さくとも重い太陽をいただきます


民は広場へ


しわ寄せは民に向かう
大誤算は最下層が被る
根本的な歪みが
少しでも露わになればあまりにも脆い
「文明」とはもはや呼べぬ文明

責任はなすりつけ合いの道具
いつからかそれが当たり前となり
原因は入り組みすぎて
解明は将来世代にまで持ち越し

世界平和を願いつつ
自国さえよければ闊歩
余裕がある時は 自然と上から施し目線
余裕がなくなれば 堂々と「構ってられるか!」宣言

地球は回る
あきらめることなく

地球は回る
期待することもなく

行き場を失くした民は
怒りを持て余した民は
大きな 大きな 広場へと向かう

この世界のおかしさを分かち合うため
この世界の貧しさを改善するため

利口ぶった
政治と経済の肩を叩くんだ
「 もっとマシな方法があるはずだろ? 」と


何才からでも研修中


胸に【 研修中 】の札
「 いらっしゃいませ 」と、深々としたお辞儀

ゆっくりと
「 一点、二点・・・ 」
声に出しながら
ミスのないように丁寧に

傍らには先輩社員
さり気なく袋詰めのサポート
列に並ぶお客のあたたかな眼差しの中で

店内アナウンスは方言全開
「 一人暮らしを始めてすぐにアルバイトを始めました 」
そう言わんばかりに
何にも染まっていないイントネーション

商品の陳列はテキパキ
商品の質問をされるとドギマギ
迷ったり、焦ったり
泣いたり、笑ったり、行ったり来たり

何才でも研修中
何才からでも研修中

時にハラハラさせる初々しさ
段々と目を見張るほどのなめらかさ
その過程はただただ美しい

過去の
未来の
現在の
自分のような
あなたを見かけるたび
心の中で ( がんばれ! ) と応援


だからこそ


声にならない
だからこそ 叫んでいく

言葉にならない
だからこそ 綴っていく

少し振り返ると
とてもよく似ている
混沌としていたあの時代に
行きつ戻りつしていたあの転換点に

お金があるかないか
夢があるかないか
有名であるかないか
偉いか偉くないか
性別とか年齢とか出身とか経歴とか

一番気にしているのは
その時々の自分自身でしかない

声にならないこと 叫んでいく
言葉にならないこと 綴っていく
生きている土壌に構わず

そこから  また  何かが・・・
そこから  また  誰かが・・・

君の声が  私の言葉が
私の声が  君の言葉が

この世界の
その世界の
希望 と 絶望 を左右してゆく


パラノイア・セッション


ずっと
近づけば近づくほど
絡まって
離れれば離れるほど
解けてゆく
そう、信じていた

それが突然、真逆へと雪崩れこむ
近づけば近づくほど
解けて
離れれば離れるほど
絡まってゆく

深い窓を見つめながら
ネオンの背中を撫で
懐かしい あたらしい 自分と出逢い
細い夜を越えながら
涅槃の吐息を重ね
知らなかった 知っていた あなたと出逢う

幸せとは何かと
考えられる幸せに包まれたまま
この時の代償を
今日も世界のどこかで
誰かが 何かが 被っていること
忘れそうになる

ベールを脱いだ
青白い空をキャンバスに
「恋とは、かくも不思議なものですね」と
わかったような
茶化したような口で幕を引く
嫌味のない笑みを添えて

その場面を
その日々を
今でも、忘れられずにいる


【初出】 電子書籍『 詩展2012 Shallow Blue in Orange 』

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