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地下鉄サリン事件

この週末、ずいぶん報道されていたので改めて地下鉄サリン事件を思い出した方も多かったのではないでしょうか。26年前の3月20日、オウム真理教の信者たちが起こした事件の詳細は何度も報道されていますので省きますが、この事件は私にとっては全く他人事ではありませんでした。被害者・加害者双方に、近しい人が関わってしまっていたのです。

私が初めてオウム真理教に触れたのは大学一年生の時、当時確か五反田にあった「オウム神仙の会」の車内広告を東急池上線の車内で見た時です。「麻原尊師の空中浮遊術」と称する写真が掲載されており、なんとも怪しい団体だなと感じたのを覚えています。ヨガ教室という触れ込みでしたが、いくらなんでもヨガで空中浮遊とはイカサマすぎると思いました。

その後わずか数年の間に、オウム真理教はさまざまな社会問題を起こす集団となっていましたが、結果的には日本の政府はサリン事件を止めることが出来ませんでした。被害に遭った中の一人は、私の大学のクラスメイトです。彼は極めて頭脳明晰で将来を嘱望された某官庁のエリートでしたが事件でサリンを浴びてしまい、一命こそ取り留めましたが深刻な後遺症に悩まされ続けました。そして実行犯の一人豊田亨元死刑囚は直接の面識こそありませんでしたが、私の旧友の近しい友人でした。

なぜ東大卒、医学部卒といった一般的には頭が良いと言われている人達が、オウム真理教のようなインチキ臭い怪しい宗教にはまってしまったのか。そして集団で殺人を犯すといった信じがたい暴挙に出てしまったのか。このことに関しては散々様々な議論が尽くされていますし本も沢山出ていますが、私がひとつの有力な理由だと思って居ることがあります。

それは、オウム真理教の教えが、世の中の矛盾をすべて説明でき、解決するような建て付けの教義となっていたことです。言うまでもなく現実の世の中は矛盾や葛藤に満ち満ちていて、不条理・不公平・不平等なことに溢れています。一般に、人は、世の中はそういったものであり、仕方ないとある程度受け入れ、またある程度諦めつつ日々を過ごしています。

オウム真理教が信者を勧誘し洗脳する上で最も優れていたのは(優れていたとは言いたくありませんが、実際に多くの信者を獲得していたのは事実です)、その矛盾や不条理な事象がすべて説明出来るように教義を構築していたことです。いわば、オウムの教義を信じることで「世の中が完璧に説明できる」状態を作っていたと言われています。つまり「オウム真理教の教義の中で世界が完結していた」のです。

言うまでもなく大学入試の世界は基本的にはロジックの世界です。芸術系の大学でもない限り、感性や感覚の入り込む余地はほとんどなく、論理的に説明のつく問題しか出題されません。そこで優秀な成績を収める人は、やはり相当程度まで論理的であることはもちろんですが、逆に論理的に説明のつかないことを嫌う傾向がある人が多いことも事実です。

こうした人達からすると、世の中の矛盾や不条理を解決する考え方としてオウムの教義が魅力的に見えたことは想像に難くありません。ロジックの世界では高く評価され褒め称えられて来たであろう方々が、実社会の厳しさ、不条理さ、理不尽さに触れ深刻な挫折や無力感を味わったとすると、オウムの世界にすがろうと思ったのは理解できなくもありません。教義を学ぶにつれますます魅力的に見えて次第に深みにはまっていってしまい、気がつくと取り返しがつかないところまで進んでしまったのではないかと考えています。

その意味では、生きていく上では矛盾や不条理に立ち向かい解決する力、受け入れる度量、飲み込んで忘れる能力、あるいは弱い自分を直視する勇気といったものが必要なのだと改めて感じます。もちろん論理的思考能力は重要ですし仕事によっては不可欠ですが、それで全てを解決しようとすると、時に悲劇的な結果を招く気がしてなりません。

世の中が矛盾や不条理に満ちているからこそ、そして人間は時に弱い存在だからこそ、まともな起業家やビジネスマンは新しいビジネスやサービスを創り出すことでそれを解決しようとします。オウムはそこを悪用して人の弱さに付け込み、取り込んで勢力を拡大して行き、ついに破滅的な事件を起こしたと言えるのではないでしょうか。

二度とオウムの様な存在を許さないためにも、私達一人一人が論理的思考を大切にしつつ世の中の矛盾や不条理と向き合い、正面から受け止め対峙する強さ、対処していくスキル、場合によってはそれを受け流しやり過ごすスキルを身に付けるべきと感じるのです。

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ベリタス・コンサルティング(株)代表取締役。東京生まれ広島育ち。東京大学法学部卒業後、(株)リクルート入社。’00年にベリタス・コンサルティング(株)設立。大学ラグビー部でのポジションはフロントロー。座右の銘は「鶏口牛後」。www.veritas-consulting.co.jp