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エネルギーは伝染する

ご存じの方も多いと思いますが、今年のラグビー大学選手権は天理大学が初優勝し幕を閉じました。二連覇を狙った名門早稲田大学を圧倒し、決勝としては史上最多得点で関西勢として36大会振りの優勝でした。私が大学に入る前の年(1984年)に故平尾選手、大八木選手といった日本代表の主力となる選手達を擁した同志社大学が優勝して以来、ずっと優勝は関東勢でしたので、関西のラグビー関係者の方々にとっては感慨深いものがあったと思います。

天理大学ラグビー部は秋シーズンの開幕直前にコロナのクラスターが発生してしまい、約一ヶ月も全く練習が出来ない状況に追い込まれました。それを乗り越えて優勝するまでにチームを強化出来た要因は色々あると思いますし、ここではラグビーの技術論を語ることが目的ではありませんのでそこは省きますが、私はチーム全体、特に主将の松岡大和選手のエネルギーレベルの高さが、ひとつの大きな要因だったのではないかと考えています。

松岡選手は試合中もプレーが止まった時に大きな声を出して味方を激励するなど、最近のラガーマンには珍しいほど感情やエネルギーを前面に出す選手です。テレビで観ていて、思わず笑ってしまいそうになるほど表情豊かに大声を出していました。準決勝で対戦し敗れた明治の選手にも、決勝の早稲田の選手にも、そのようなスタイルの選手は見当たりませんでした。松岡選手の雰囲気や迫力に、明治や早稲田の選手が次第に気圧されていくような気がしたのは私だけではないと思います。

紳士のスポーツと言われるラグビーにおいてプレー中に大声を出すことは、ルール違反ではないにしても眉を顰められてもおかしくない行為であることは事実です。その意味で、ラグビーの伝統校であり日本ラグビーの「正統派」である早稲田や明治においてはそういった選手がいないことは頷ける話です。

もちろん技術や体力の裏付けのない単なる虚勢の大声は何の意味もありません。天理大の選手たちは、技術や体力の裏付けがあったうえで、相手を圧倒するエネルギーを持ち、それを大声という形で表に出していたのです。味方はその声に勇気づけられ気持ちが高まりアドレナリンが湧いて来て自信や迫力が一層高まっていき、普段以上の力が出せるようになります。それがチーム全体に広がって、チーム全体のエネルギーが高まり、実力以上のプレーが出来るようになります。逆に相手は次第に気圧されてトーンダウンしていってしまう。結果的に、実力以上の差がついてゲームが終わるのです。

つまり、エネルギーは伝染するということです。これはラグビーやスポーツに限った話ではありません。企業や団体においても全く同じことです。特にリーダークラスの人材がどのくらいのエネルギーを持ち、それを表に出しているかどうかは、組織全体のエネルギーレベルを大きく左右します。もちろん職場で大声を出すのはナンセンスです。しかし仕事への取組み方、姿勢、発言、表情などを見ればエネルギーレベルが高いか低いかは一目瞭然です。これは在宅ワークがメインになっても全く同じことです。ウエブの打合せでも、相手のエネルギーレベルの高低はかなり分かりますし、やはり伝染することは実感出来ます。

私が最も尊敬する経営者である日本電産の永守社長は、昔アメリカに出張して体調を壊した際に医者に状況を聞かれ「具合が悪い」と答えたところ、「君は経営者なんだから具合が悪いとか言ってはいけない。常に『アイムファイン!』と言わないといけないんだ」と諭され、以後常に「アイムファイン!」の精神でいるそうです。

この話は経営や組織の本質を突いていると思います。経営者が元気なく暗い顔をしていたら、社員も不安になりますし会社全体に暗い雰囲気が伝染し、活力が低下していきます。おそらくその会社はさらに業績が低下するでしょうし、状況によっては長くもたないことでしょう。逆に、非常に厳しい環境下でも経営者やリーダークラスの人材がエネルギーに満ち溢れ、元気に働いていたら社員も勇気づけられ、生き残りの道が拓ける可能性も高くなります。

何を単純なと思われるかもしれませんが、人は誰しも環境や周囲に影響されやすいものです。周囲が元気なら、よほど天邪鬼な人を除けば自分も元気になるし、なんとなく明るく前向きな気持ちになるのです。

リクルートでの営業マン時代から通算すると、おそらく数千社の会社を訪問して来ました。それだけの経験を積むと、オフィスに入って職場の雰囲気を感じると、だいたいその会社の業績や状況が分かるようになります。きっとこの会社はこのあと成長するだろうなとか、今は儲かっているらしいけれどこの会社は先が不安だな、といった予想はたいてい当たるようになりました。

裏付けのない空元気でも、エネルギーが低いよりは遥かにマシです。経営者はもちろんのこと、管理職やリーダーの人たちは常に自分自身のエネルギーが周囲に伝染し、良くも悪くも職場の雰囲気を左右していることを意識すべきです。

「笑う門には福来る」とはよく言ったものです。最近はコロナで外出もままならず陰々滅々としてしまいがちですが、自分のエネルギーレベルを常に意識して、松岡選手のように周囲に前向きな影響を与えるようにしたいものですね。

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