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人工生命から生命の謎に迫る

前回触れたチューリングの発想は、後世の研究者たちによって機械だけでなく生命にまで発展します。

前回触れた人工生命の立役者の一人クリストファー・ラングトンにも栄光と挫折がありました。

当初所属していた研究所が財政難となってしまい、指導教授も大学を去ってしまい自身の境遇もカオスになります。
そんな窮地に救いの手を差し伸べたのがサンタフェ研究所です。

従来の細分化された科学の枠組みを突破すべく、「複雑系」をテーマにして多様な分野のスペシャリストを集めたユニークな研究施設です。
※超余談ですが、40代以上の方は宮沢りえ写真集を連想すると思います☺

今まで「人工」生命の話をしましたが、自然の「生命」のふるまいもやっと20世紀後半からその複雑さが分かってきます。

大きなエポックは2つあります。

1つは、1940-50年代に起こったDNAの二重らせん構造とそれを踏まえた「セントラルドグマ」の解明です。
これによってあらゆる生命体は、DNAがRNAを媒介にたんぱく質を形成して生命を継承することが明らかになります。

これで一見生命の謎は解けたかに感じました。(実際ドグマ解明後にもうやることはない、と脳科学などに転向した研究者もいます)

次に2つ目。

DNA自身をスイッチのように調節する役割(エピジェネティクス)もあり、そんな単純なシステムではないということが分かってきます。

このあたりの過程に興味のある方は、過去の投稿を紹介しておきます。

最後に書いている通り、生命のリレーを繋ぐ遺伝子というのは「複数の物質の相互作用からなるダイナミックなシステム」かもしれません。

そんな不思議な生命現象に果敢に挑んだのが、スチュアート・カウフマンという研究者です。

カウフマンも上述のとおり、生命は単なる記号処理の手続きではないのでは?と疑問を感じます。

彼は各遺伝子をモジュールと見立てて、それらがどのようにつながるのかを数学で解析しました。

すると、安定する(生命が存続)のが疎でも密でもない塩梅で、それが遺伝子の数の平方根当たりになることに気づきます。

この発見は、以前に登場した形式ニューロン創始者ウォーレン・マカロックも興味を示します。(カウフマンはマカロックを崇拝しており自称後継者)

そしてカウフマンは導かれるように、サンタフェ研究所に入り、多様な専門家との交流を通じて驚くべきことに気づきます。

上記で触れた疎と密の間というのが「カオスの縁」に相当していたのです。

つまり、思い切って言えば、
自然の生命現象は(人工生命研究で考案された)カオスの縁で生じる
のかもしれません。

意外なことにカウフマンはその後、自身の研究を経済・ビジネス方面にシフトしています。
転向したわけではなく、このダイナミズムは、生命だけでなく人間の知的な営みでもどうも内在しているようです。

これらはあくまで仮説であって、定説とまではなっていません。

いずれにしても非生命の研究が生命の根源に迫るという流れは極めて示唆的です。

<参考リソース>

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