チューリングマシンと人工生命
前回、ChatGPTブームでチューリングが再注目されている話をしました。
今回は、その思わぬ副産物の1例として「人工生命」との繫がりについて触れてみたいと思います。
チューリングが計算可能性を考察するために設けた仮想機械「チューリングマシン」には、それ自身を模倣出来る上位概念「万能(ユニバーサル)チューリングマシン」も存在します。
チューリングの計算理論は、ウォーレン・マカロックという神経科学者にも影響をあたえます。
当時脳内にある神経系は、神経細胞間でのスイッチのような機構ではないか?と考えられ始めていました。
マカロックは、共同研究者の数学者ウォルター・ピッツと、どうもこれは論理演算で表現できるのでは?ということで、今の深層学習の先祖にあたる「形式ニューロン」という数学モデルを考案します。
その研究にさらに刺激を受けたのが、デジタルコンピュータの父とも言われるジョン・フォン・ノイマンで、その薫陶を受けた面々が人工知能(AI)という造語含めて第一次ブームを生んでいくわけです。(ジョン・マッカーシ・マーヴィン・ミンスキーなど)
ノイマンが刺激を受けて考えたのが、生命的なふるまいを持つ「セルオートマトン」という概念です。
ざっくりいうと、生命と機械の関連性を探求したというわけです。なかなか刺激的ですね。
残念ながらノイマンは若くして亡くなってしまいますが、後年にスティーブン・ウルフラムがその研究を深めます。
ウルフラムは「神経細胞(ニューロン)の動きは万能チューリングマシン」であることを示します。
そして、特定条件下に置いたセルオートマトンの動きを体系的に分類し、その研究成果を踏まえて、クリストファー・ラングトンが「人工生命」という概念を提唱する、というわけです。
このあたりの経緯は、過去にも触れたので引用しておきます。上記で割愛したセル・オートマトンを生命体のように動かす「ライフゲーム」にも言及しています。
上記記事文中でいきなり登場した「チューリングマシン」がこれで繋がると思います。チューリングが定義したその計算能力が最も高くなるのが、秩序と無秩序が入り乱れたいわゆる「カオス状態」だった、というのが非常に示唆的です。
飛躍すると、生命とは効率的に計算しようとする機械、と言えるのかもしれません。
もう少し飛躍すると、生命含めた「自然」にも当てはまるかもしれません。
物理学者コンラート・ツーゼもセル・オートマトンに関心を示し、計算可能性という枠組みの中で宇宙の作用と法則を解釈しようとする「デジタル物理学」を1969年に提唱します。(内容関心ある方はこちら)
要は、「自然(地球含めた宇宙)はデジタルで構成されているのではないか?」という野心的な仮説です。
この仮説を支持する人は今でもおり、その1つである「シミュレーション仮説」については過去にもちょっぴり触れました。
話が広がりすぎましたのでここまでにしておきます。
伝えたいことは、機械だけでなく生命も自然も(そして宇宙全体も!)チューリングマシンを元に研究が進んだわけで、いかにチューリングの業績が凄いかが少しでも感じられたら幸いです。
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