見出し画像

カオスの縁を覗いてみる

前回の人工脳で「カオスの縁」についてちょっぴり触れました。

少々言葉足らずだったので、この脳や生命現象で聞く「カオスの縁」について歴史的な流れを補足します。

前回発見者については触れませんでしたが、「クリストファー・ラングトン」というコンピュータ科学者で、「人工生命」という言葉を作った方でもあります。

人工生命はいまや理屈だけでなく、部分的(臓器など)には実用が進み、過去取り上げたこともあります。

研究の材料になったのは、機械の自己複製を研究したジョン・フォン・ノイマンで、後に「セル・オートマトン」というアイデアに繋がります。
ちなみにノイマンは現代のデジタルコンピュータの設計方式(プログラム内蔵式)を考案した方としても有名です。

「セル(格子)」とある通り、空間に格子状に敷き詰められた多数のセルが、近隣のセルと相互作用をする中で自らの状態を時間的に変化させていく「自動機械(オートマトン)」のことを指します。

この相互作用ルールによって挙動が変わってきます。1つの例として「ライフゲーム」とも呼ばれるアニメーションを貼っておきます。

出所:User:Arbol01 - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=49740による

素朴に考えると、ルールを明確に決める(例:隣接セルが2個黒だったら黒にする)と完全に予測できそうに見えますが、いくつかパターンがあることに気づきます。

下記がスティーブン・ウルフラムが見つけた4つのパターンです。

クラスI:均一な一定状態に漸近する挙動
クラスII:周期的な状態に漸近する挙動
クラスIII:ランダムな状態を維持する挙動
クラスIV:他のクラスほど厳密に定義されないが、上記の3クラスに当てはまらない挙動(秩序と無秩序が入り混じった状態)

ラングトンは、この推移を示すパラメータ(λ)を考案し、Ⅱ→Ⅳ→Ⅲと変わるⅣの極めて限られたλの幅を「カオスの縁」と呼びました。

このパラメータの意味合いは「複雑性の度合い」を指し、カオスの縁はそれが最大値を取ります。

興味深いのが、元々オートマトンはコンピュータの自己複製から企図されたのですが、その計算原理(チューリングマシンと呼ばれます)に基づく能力がカオスの縁で高いことが分かります。

超ざっくりいえば、外部環境に対応する変化能力が高い、ということです。

何となく、ダーウィンの進化論が見え隠れしてきました。生物は「突然変異」によって種を多様化させ、リスク分散で生存能力を高めたというのはよく聞かれます。(この表現も厳密には仮説かもしれませんが・・・)

いずれにせよ、この奇妙な性質を知って、前回触れたカウフマンは、
「これは生物の進化にも適応できるのでは(ようは生命の力)?」
と思いつき、進化モデルを考案しました。

我々の脳の中での精神活動(記憶や認知・思考など)も、還元するとニューロン間をなにがしかのルールで電気信号を授受している機構です。

その組み合わせとルールが複雑になると、「カオスの縁」のような創発現象が起こる、と仮定するとなんとなくうなづいてしまいます。

前回の研究発表ではある程度「カオスの縁」が脳の特性としては認めているようです。(ここはもう少し知りたいところですが)

ただ、やや気になるのがこの「λの値幅が極めて狭い」ということです。

仮にカオスの縁が進化圧で精神活動もそうだとすると、生物の数十億年にわたる歴史は、極めて奇跡的な、うがっていうと超長い綱渡りをしてきたのかな?
と、やや神秘的ではありながら合理的にはしっくりこない点もあります。

この辺りはまだ仮説がありそうなので、何か面白そうなことがあれば投稿してみたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?