河野通和

編集者・読書案内人。1953年生まれ。雑誌編集の世界に身を置き、「婦人公論」「中央公論…

河野通和

編集者・読書案内人。1953年生まれ。雑誌編集の世界に身を置き、「婦人公論」「中央公論」(中央公論新社)、「考える人」(新潮社)編集長を歴任。2017年、株式会社ほぼ日に入社し、2021年10月末まで「ほぼ日の学校長(學校長)」を務めた。アイコンのイラストは二宮由希子さん。

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記事一覧

第7回 先人の肩に乗って(2)

 前回書き残したこと——白瀬南極探検隊の話――を書こうとしていたら、6月4日、海洋冒険家の堀江謙一さんが元気な姿で帰ってきました。世界最高齢(83歳)での、小型ヨ…

河野通和
1年前
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第6回 先人の肩に乗って(1)

 若いビジネス・リーダーの人たちと一緒に本を読む機会がありました。選んだ本は、本多勝一『アムンセンとスコット』(朝日文庫)です。  いまからおよそ100年前、1911…

河野通和
2年前
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第5回 遠い声が、夜明けの歌を

 昨年末に読んで、たいへん感動した本です。「2021年のベスト1だ!」と、まわりに強く「推し」たほど。感想は著者に会ってから書きたいと思い、今年に入って連絡を取りま…

河野通和
2年前
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第4回 指揮者という夢

 こんなに笑える書き出しだったっけ? と思いながら、徐々に記憶がよみがってきました。  岩城宏之『森のうた――山本直純との藝大青春記』(河出文庫)——朝日文庫…

河野通和
2年前
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第3回 誰もが、静かに泣いていた

 『南の島に雪が降る』——タイトルに惹かれて、小学校2年生の時に映画を観ました。どんな話だったのか、すっかり中身は忘れましたが、主演俳優が「原作を書いた人だ」と…

河野通和
2年前
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第2回 古本屋の時間

 ちょっと変わった本を手にしています。『野呂邦暢 古本屋写真集』(岡崎武志&古本屋ツアー・イン・ジャパン編、ちくま文庫)——。  まさか、この本までが文庫になる…

河野通和
2年前
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第1回 「男おひとりさま」 朋友とともに山を下る

 「人生100年時代」と、なにげなく言われるようになりました。   私が社会人になった頃、というのは1970年代の半ば過ぎ、多くの企業は55歳が定年でした。それが次第に…

河野通和
2年前
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第7回 先人の肩に乗って(2)

第7回 先人の肩に乗って(2)

 前回書き残したこと——白瀬南極探検隊の話――を書こうとしていたら、6月4日、海洋冒険家の堀江謙一さんが元気な姿で帰ってきました。世界最高齢(83歳)での、小型ヨットによる単独無寄港太平洋横断を達成しての帰港です。

 この2人——白瀬矗(のぶ)と堀江謙一。私の記憶のなかでは、ほとんど同居しています。子ども時代の思い出の引き出しに、たまたま一緒に入ったというか……。

 そこで、今回は堀江さんの話

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第6回 先人の肩に乗って(1)

第6回 先人の肩に乗って(1)

 若いビジネス・リーダーの人たちと一緒に本を読む機会がありました。選んだ本は、本多勝一『アムンセンとスコット』(朝日文庫)です。

 いまからおよそ100年前、1911年から12年にかけて、人類初の南極点到達一番乗りを競ったノルウェーの探検家ローアル・アムンセン(38歳)とイギリスの海軍大佐ロバート・スコット(42歳)との、国の威信と名誉を賭けた、熾烈な対決の物語です。

 結果は周知の通り、アム

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第5回 遠い声が、夜明けの歌を

第5回 遠い声が、夜明けの歌を

 昨年末に読んで、たいへん感動した本です。「2021年のベスト1だ!」と、まわりに強く「推し」たほど。感想は著者に会ってから書きたいと思い、今年に入って連絡を取りました。

 奈倉有里『夕暮れに夜明けの歌を――文学を探しにロシアに行く』(イースト・プレス)

 ロシア詩、現代ロシア文学の研究者・翻訳家である著者が、20歳でロシアに留学した時の回想記です。

 茶目っ気もユーモアもたっぷりの、軽快

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第4回 指揮者という夢

第4回 指揮者という夢

 こんなに笑える書き出しだったっけ? と思いながら、徐々に記憶がよみがってきました。

 岩城宏之『森のうた――山本直純との藝大青春記』(河出文庫)——朝日文庫、講談社文庫に続いて、今回が3度目の文庫化です。

 「藝大のタイコの二年生だった」という“ぼく”が、著者の岩城さん。1932年東京生まれ、東京藝術大学在学中にNHK交響楽団副指揮者になり、2年後の1956年にN響を指揮して24歳でデビュ

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第3回 誰もが、静かに泣いていた

第3回 誰もが、静かに泣いていた

 『南の島に雪が降る』——タイトルに惹かれて、小学校2年生の時に映画を観ました。どんな話だったのか、すっかり中身は忘れましたが、主演俳優が「原作を書いた人だ」と教えられ、以来、加東大介という名前と顔はしっかり記憶に刻みました。

 その、半世紀以上も前に書かれた本を、いま初めて読んで驚嘆しています。少しも古びていないばかりか、文章はみずみずしく、切々と物語が胸に響きます。太平洋戦争の実体験を描いた

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第2回 古本屋の時間

第2回 古本屋の時間

 ちょっと変わった本を手にしています。『野呂邦暢 古本屋写真集』(岡崎武志&古本屋ツアー・イン・ジャパン編、ちくま文庫)——。

 まさか、この本までが文庫になるとは! 親本は万の値のつく古書になっていましたので、勇んで買いに走りました。シブいけれども、おもしろい!

 野呂邦暢(くにのぶ)さんは、1980年に42歳の若さで急逝した作家です。いまだに、熱烈なファンが少なくありません。

 1973

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第1回
「男おひとりさま」
朋友とともに山を下る

第1回 「男おひとりさま」 朋友とともに山を下る

 「人生100年時代」と、なにげなく言われるようになりました。 

 私が社会人になった頃、というのは1970年代の半ば過ぎ、多くの企業は55歳が定年でした。それが次第に、60歳定年制に移行します。当時の日本人の平均寿命は、女78.33歳、男72.97歳(1978年内閣府)でした。

 ところが、昨夏の厚生労働省の発表によると、2020年の平均寿命は、女87.74歳、男81.64歳となり、過去最高

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