マガジンのカバー画像

芥川龍之介論2.0

1,040
運営しているクリエイター

#芥川龍之介

近代文学2.0の中間報告

近代文学2.0の中間報告

読んでる人いる?

 一応そろそろこれまでやってきたこと、これからやることを整理しておきたいと思います。

 この記事で述べたように近代文学2.0では「丁寧に読む」という信条によってこれまで、

・谷崎潤一郎の初期作品が極めて政治的なもの、体制批判的なものであり、ドミナとは捏造されるものであること
・夏目漱石作品もまた明治政府・明治天皇制に批判的であり、その粗筋がほぼ読み誤られたまま多くの人々に論

もっとみる
「ふーん」の近代文学26  坪内逍遥の「ふーん」

「ふーん」の近代文学26 坪内逍遥の「ふーん」

 近代文学に「ふーん」した大物を一人忘れていた。坪内逍遥こと春のや
おぼろ、春廼舎朧だ。

 近代文学の始まりを紅葉露伴、饗庭篁村あたりに見出すとして、それはまさに「元祿文學の復興」であり、近代という時代に根差したものは坪内逍遥の『当世書生気質』が嚆矢であり、言文一致の端緒は二葉亭四迷の『浮雲』だと考えた場合、その近代文学の祖たる坪内逍遥の文学の完成がシェイクスピア全集の単独訳という「復興」にあっ

もっとみる
芥川龍之介の『邪宗門』をどう読むか22 引っ掛けに注意して読もう

芥川龍之介の『邪宗門』をどう読むか22 引っ掛けに注意して読もう



天皇批判か?

 もう一度この関係性を確認してみよう。摩利信乃法師は地上界にあり、単なる伝道者であった筈だ。

 しかし「大天狗が、地獄の底から魔軍を率いて、この河原のただ中へ天下った」とはまさに天孫神話そのものではないか。摩利信乃法師は天上皇帝になり切ってはいまいか。そして今更のように「天上皇帝」という名前そのものが明確な由来を欠き、「天帝、玉皇大帝、天皇大帝」ではない何かを指し示す言葉で

もっとみる
芥川龍之介の『偸盗』をどう読むか②   これはその答えではないのか 

芥川龍之介の『偸盗』をどう読むか②   これはその答えではないのか 

夏目文学の継承

 何度も似たような事を書いているが、今日現在に於ける私自身の最大の関心事は、

・何故夏目漱石作品はあんなに何かを隠し殆どヒントを示さなかったのか
・夏目漱石作品を誰も読んでいないのに、何故人気があるのか
・芥川龍之介はどこまで漱石作品を理解していたか
・芥川龍之介は漱石文学を継承したか
・芥川の文学的失敗というものがあるなら、それは漱石作品を理解も警鐘も出来なかったことではない

もっとみる
芥川龍之介は漱石文学を継承したか? ①

芥川龍之介は漱石文学を継承したか? ①

 私はこれまで繰り返し、太宰治が芥川龍之介文学を継承する様を指摘してきた。

 しかしいかに憧れがあったとは言え、太宰は芥川に対してさえ遠慮がない。

 芥川が激賞する芭蕉の句をスルーして天狗になる。芥川の場合、夏目漱石文学に対してはもう少しクールなところがあり、勿論速読の芥川なら主要な作品は読んでいたと考えられるものの、その直接的な影響を見出すことは困難である。やっと昨日になって、

 漱石の『

もっとみる
太宰治の『天狗』は何故天狗か?

太宰治の『天狗』は何故天狗か?

 太宰治の『天狗』は何故天狗か? といっても何しろ芭蕉の付け方を批判しているのだから天狗なんじゃないかということに一応はなるが、そればかりではない。この太宰が指摘した『猿蓑』の巻四の、

ゆがみて蓋のあはぬ半櫃 凡兆
草庵に暫く居ては打やぶり 芭蕉
いのち嬉しき撰集のさた 去来

 ……の芭蕉の付け方を芥川龍之介が「徳山の棒が空に閃くやうにして息もつまるばかりなり。どこからこんな句を拈して来るか、

もっとみる
何故か女癖が悪いと言われない芥川の不思議

何故か女癖が悪いと言われない芥川の不思議

 私は基本的に作家のスキャンダルには興味がなく、なかなか信じられないことかもしれないが、三島由紀夫が自衛隊に突っ込んだことすら知らず、その主要作品を読んできた。夏目漱石、三島由紀夫についてはその後あれこれ読んだが、今芥川のことを調べていて呆れてしまった。ともかく女好きかと思えば、ホモセクシャルな恋文もある。

 比較は難しいが、浮気の相手は太宰より多く、三島由紀夫よりホモ、…両刀使いである。夏目漱

もっとみる
芥川龍之介の『歯車』をどう読むか⑫ そう単純な話ではない

芥川龍之介の『歯車』をどう読むか⑫ そう単純な話ではない

そう単純な話ではない

 たとえば『歯車』には物語性がないというとき、評者は具体的にはどういった点をさしているのだろうか。たとえば「ふり」と「おち」があったらどうなのだろうか。「も」の強調によって現れる「書かれていないこと」をどう見るのだろうか。主人公が次第に追い詰められていく流れをどう見るのだろうか。
 
 いやしかし一方では『歯車』が『罪と罰』という表紙に綴じ間違えられた『カラマーゾフの兄弟』

もっとみる
芥川龍之介の恋文と性的嗜好

芥川龍之介の恋文と性的嗜好

 芥川龍之介の恋文と言えば女性にあてたものが有名だが、男性に向けたものの方が強烈である。

 あゝ 僕は君を恋ひ候 君の為には僕のすべてを抛つを辞せず候 人は僕の白線帽を羨み候へども君に共にせざる一高の制帽はまことに荊もて編めるに外ならず候 笑ひ給はむ嘲り給はむ 或は背をむけて去り給はむ されども僕は君を恋ひ候 恋ひせざるを得ず候 君の為には僕は僕の友のすべてにも反くんをも辞せず候 僕の先生に反く

もっとみる
ライズィングジェネレエシヨンの爲めに

ライズィングジェネレエシヨンの爲めに

 この手紙では久米との海水浴の話がつづられる。芥川龍之介とって夏目金之助は師でもあり、どこかに畏怖があった筈なのだが、この手紙は妙に慕わしい。

 こんなシーンはあたかも大正三年に書かれた『こころ』の冒頭の海水浴を思わせるが、残念、このライジングジェネレーションの手紙は、漱石の晩年、大正五年の八月一宮から出されたものであろうとされている。漱石に『鼻』を絶賛された直後である。『こころ』の冒頭の海水浴

もっとみる
芥川龍之介の『羅生門』のウイキあら捜し

芥川龍之介の『羅生門』のウイキあら捜し

 今、高校生に『羅生門』の続きを書かせるという課題があるという話を知って唖然としています。『こころ』のKの代わりに遺書を書かせるとか、本当に高校の国語教師は楽をしていないですか?

https://togetter.com/li/1895778

 そもそも『羅生門』は「下人の行方ゆくえは、誰も知らない」で閉じられる「書かれえない話」なので、その続きを書かせようという発想自体がナンセンスだと思うの

もっとみる
『羅生門』の謎

『羅生門』の謎

 芥川龍之介の『羅生門』にはいくつか解らないことがある。思いつくままに箇条書きにしてみると、

①猿のような老婆はいつから楼(二階)にいたのか?

②老婆は火をどこから持ってきたのか?

③何故わざわざ二階に死体が運ばれたのか?

④これまで下人は聖柄の太刀を何に使っていたのか?

⑤死人の毛で作った鬘に需要があるほど当時は女性に禿が多かったのか?

⑥餓死する前に人を食うことを考えないのか?

もっとみる
白のズボンに白靴

白のズボンに白靴

 この『爲介の話』は大正十五年一月『婦女界』に発表された作品である。「支那問題」が論じられているのは、

 ……と云った情勢を背景にしており、というわけでもない。いやこれは、震災の後、有馬に避暑に行くというだけの話だ。

 前年一月に発表されている芥川龍之介の『馬の脚』にも偶然こんな記述がみられる。

 これだけ比べると芥川龍之介が「筋のある話」を書いていて、谷崎潤一郎が「筋のない話」を書いている

もっとみる
帝国ホテルの壁を蹴る人

帝国ホテルの壁を蹴る人

 谷崎と芥川と佐藤春夫が文芸談をしていて、それを壁を蹴って止めさせたのは一体誰なのか? これが奈良から上京していた志賀直哉だったとしたらなんとなく面白いが、それにしても、小田原事件による谷崎潤一郎と佐藤春夫の「絶交」ってなんだったの?

 なかよさそうじゃん。