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夏目漱石論2.0

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#柄谷行人

岩波書店『定本漱石全集』注解を校正する110 夏目漱石『こころ』をどう読むか487 無理な話だ

岩波書店『定本漱石全集』注解を校正する110 夏目漱石『こころ』をどう読むか487 無理な話だ

 今回はもっと本が売れてから、第二弾として書く予定だったところを書いてみたいと思う。本当に人間と云うのはいつ事故に遭うとも限らないので、勿体ぶって待っている場合でもないと思うからだ。
 実際七年くらい待ったが、夏目漱石の『こころ』でさえ、誰一人理解できないのだから仕方ない。
 その勿体ぶって待っていたもののうち『行人』『道草』に関しては、既に明かした。

 一郎は父の子でない不安の中にあり、健三は

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読み誤る漱石論者たち 阿刀田高⑥ 『こころ』は読みやすい話ではない。

読み誤る漱石論者たち 阿刀田高⑥ 『こころ』は読みやすい話ではない。

 こう書いている時点で阿刀田高は「自分には夏目漱石作品を理解する能力がありません」と宣言しているようなものだ。『こころ』を文字として読むことはそう困難ではない。実際、漱石全集では細かく注釈が振られているので三島由紀夫作品や谷崎潤一郎作品を読むよりむしろ「楽」と感じるかもしれない。しかし実に多くのプロが夏目漱石作品を読み落とし、読み間違いをしているというのは、どうにも誤魔化しようのないゆるぎない事実

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文章を正確に読むとはどういうことか②

文章を正確に読むとはどういうことか②

 こんなことを私が書いても「いや、そんなはずはない」で通り過ぎる人しか存在しないだろうが、やはり柄谷行人は夏目漱石に関して何か述べようとする度にとんでもない勘違いを露呈させる。

 この書きぶりからすると柄谷行人は田川敬太郎という名前を思い出せなかったようである。そのことはよいだろう。しかし「高等遊民」の意味まで忘れて、なぜこのように持ち出してきたのか、その神経が分からない。

 残念ながら『それ

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文章を正確に読むとはどういうことか  あるいは柄谷行人という病

文章を正確に読むとはどういうことか  あるいは柄谷行人という病

 柄谷行人は誤読の達人である。よくぞここを読み間違えるかという間違いを繰り返している。「明治の精神」を明治十年代が持っていた多様な可能性だと決めつけたり、Kというライバルの出現によって先生は御嬢さんへの愛を意識し始めるなど噴飯物の解釈が何故か夏目漱石作品関してだけ現れるようである。確かに『行人』には、こういう台詞がある。

 しかしその直後、引き続いて、 

 このようにすかさず選択肢が二つ消され

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創作世界の発見

創作世界の発見

訂正を肯んじえない読み誤り

大正五年に書かれた夏目漱石の『明暗』では、主人公・津田由雄の元恋人らしき女・清子が昔飛行機に乗ったことになっている。

日本で民間の飛行機利用が始まるのは第二次世界大戦後のことであり、これは私が確認できる史実とはあからさまに矛盾する。大正五年以前に清子が飛行機に乗るなど、けしてありえないことなのだ。

当時の飛行機は旅客機ではなく曲芸飛行機であり、おそらくまだ将来的に

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江藤淳の漱石論について① 漱石作品の変容について

江藤淳の漱石論について① 漱石作品の変容について

 漱石作品の変容について 自分自身がやればできたかもしれないことをやらなかったという深い反省の意味を込めて、いま改めて江藤淳の漱石論について考えてみたい。

 自ら自著を引用し、論を建てる時、引かれた引用文は、揺るがぬ自分のロジックであるべきだろう。長い時間をかけて繰り返し主張しているのだから、そのロジックには自信があるべきだ。しかしこの江藤淳の漱石論はいささか乱暴なものではなかろうか。

 朝日

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近代文学2.0

近代文学2.0

 夏目漱石作品は杜撰に読み誤られてきました。

 私はその悲惨さに唖然とします。

 まさか? 漱石が?

 そう思う人は少なくない筈です。

 では以下の質問に答えてください。

①『吾輩は猫である』の吾輩は短毛ですか? 長毛ですか?

②『坊ちゃん』の親はどんなところが無鉄砲ですか?

③『虞美人草』の藤尾はいつどこで毒を用意しましたか?

④『三四郎』の美禰子の着物の色は何色ですか?

⑤『

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