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夏目漱石論2.0

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2022年8月の記事一覧

『三四郎』の謎について40 何故檜が不愉快なのか、「男」とは誰?

『三四郎』の謎について40 何故檜が不愉快なのか、「男」とは誰?

 夏目漱石作品には時々不意に謎の文句が現れます。たとえば、

 この「目に触れるたびに不愉快な檜」「檜に秋が来たのは珍しい」は意味が解りません。檜に何の恨みがあるのでしょう。悪戯でもされましたか? 夏目漱石作品の中で檜が明確にマイナスのイメージの中て捉えられている場面はここだけです。檜については散々調べましたが不吉な因縁などは見つかりません。

 あえて言えば、

 この場面で檜を貧相に描いている

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『三四郎』の謎について39   記憶は何故書き換えられたのか

『三四郎』の謎について39 記憶は何故書き換えられたのか

 そとばこまちさんというパズル作家が『名作「楢山節考」に隠された謎を解く みんな深沢七郎にダマされていた!六十年の誤読 あの名作の真実』という本を出してらっしゃって、なかなか変わった切り口で、深沢七郎の作品を読み解いていらっしゃるのですが、やはり作品ごとに出来不出来がありますね。

 夏目漱石に関しては究極のトンデモ解釈を書いているのが、ダミアン・フラナガンという人で、この人は日本人には漱石作品は

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『三四郎』の謎について38 なぜ急にそんな事を言いだしたのか

『三四郎』の謎について38 なぜ急にそんな事を言いだしたのか

 単純な他者と複雑な自己について考えたことがあります。

 認知のバイアスというやつで、どうもこの感覚からはなかなか脱出できません。他人は自分より馬鹿に見えるんです。お互いに。

 この感覚は『三四郎』を読んでいても同じで、比較的三四郎に寄り添っている話者のお蔭で、大したことを考えている訳でもない三四郎よりも、どういう具合か与次郎の方が単純に思えてきます。しかし本当によくよく考えてみると、単純に見

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『三四郎』の謎について37    これは何処の方言だろう?

『三四郎』の謎について37 これは何処の方言だろう?

 漱石全集の編纂に当たっては、小宮豊隆らが夏目漱石独特の文法に苦慮したそうですが、「ぶれ」とも「間違い」とも判別できない独特な表現というものが『三四郎』にも見られますね。

 中国系の外国人の方がよく助詞をぬかしますね。語順でなんとか意味を決めようとして時々戸惑わされます。

 そしてここ、

「二階にいる」
「二階に何をしている」

 は、

「来て、二階にいる」
「二階で何をしている」

 …

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『三四郎』の謎について36  のっぺらぼうとは誰か?

『三四郎』の謎について36  のっぺらぼうとは誰か?

 『三四郎』は、ある意味では「偉大なる暗闇」こと広田がまだ大学教授になれないでくすぶっている話でもあります。そう考えてみるとこのヘーゲルに対するべた褒めは妙に面白いのです。

 ヘーゲルが教授になるのは1816年、ハイデルベルク大学においてですが、ここでは敢て「ヘーゲルのベルリン大学に哲学を講じたる時」とベルリン大学時代にフォーカスしています。フンボルト大学ベルリン、いわゆるベルリン大学におけるヘ

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『三四郎』の謎について35 ミスなのか洒落なのか。

『三四郎』の謎について35 ミスなのか洒落なのか。

 養子に行く前後で「K」という呼称には変化がありません。従って「K」は姓ではありません。ですから「K」を幸徳秋水や工藤一だという作家には文章読解力がないことになります。あるいは飛ばし読みをする癖があるのでしょうが、飛ばし読みをしておいて「K」は誰かなどと単独モデルを考察すること自体がナンセンスなのではないでしょうか。平たく言えば無茶苦茶な話です。言っていること自体は「ニシキヘビは首を切ってもまた生

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『三四郎』の謎について34     何故美味しいですねと言わないのか?

『三四郎』の謎について34 何故美味しいですねと言わないのか?

 私はこれまで近代文学1.0は所詮文豪飯と顔出しパネルだと批判してきました。

 残念なのは少なくない人々が文学作品をグルメ本として読んでしまうことです。いや、冗談でもなんでもなく、一部の人はそうとしか読めないのです。

 この記事の中で「橡の実うまそう あたりが楽しむポイントでしょうか」とツイートされている方は、なんと新潮新書から『食魔 谷崎潤一郎 』という本を出版されているのです。ここが近代文

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『三四郎』の謎について32    「このあいだのもの」とは何か?

『三四郎』の謎について32 「このあいだのもの」とは何か?

 夏目漱石の『こころ』が好きだとして名刺代わりの小説十選の一冊として挙げる人がいる。夏目漱石の『こころ』を読んだと言い張る人はたくさんいる。あなたもそんな一人では? ではKの髪形を覚えていますか?

 こんなイメージですか?

 それとも、

 こうですか?

 実際はこうです。

 五分刈りです。

 そしてこの場面でも例によってあえて書かないというレトリックが駆使されていますね。

 この場

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『三四郎』の謎について31   与次郎と美禰子はグルではないのか?

『三四郎』の謎について31 与次郎と美禰子はグルではないのか?

 前回の記事でちらりと觸れているところですが、そもそも佐々木与次郎っていろいろ他人を巻き込みすぎですよね。トリックスターすぎます。そしてかなり謎の存在です。家族のことなどが作中では一切書かれていません。こういう人物は『三四郎』以降なかなか現れません。門野はトリックスターにまではなれませんでした。敢えて言えば小林がそうなりかけていました。しかしなり切れませんでした。佐々木与次郎はかなり性格は陽気で人

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『三四郎』の謎について30   三四郎の母は何故野々宮に金を送るのか?

『三四郎』の謎について30 三四郎の母は何故野々宮に金を送るのか?

 私は初見でこんがらがったのですが、皆さんはいかがだったでしょうか。何故小川三四郎の母親は野々宮宗八にお金を送ったのか解りますか。というより野々宮に三四郎が呼び出されて、そこに母親から送られた三十円があったというところで、話の流れがちょっと複雑になり過ぎていませんか。

 流れとしては美禰子が与次郎には信用がないから直接金は渡せない、三四郎になら渡すということと、三四郎は信用ならないから野々宮に金

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『三四郎』の謎について29  与次郎は何故美禰子に惚れないのか?

『三四郎』の謎について29 与次郎は何故美禰子に惚れないのか?

 ここにも書きましたが、これもあまり指摘されることがない要素です。

 原口もモデルとしての美禰子に魅力を感じているだけで、自分が美禰子を嫁にもらおうとは積極的に考えないようです。例えば浜辺美波さんとか、今田美桜とかが身近にいて、嫁に貰うかどうかは別として、客観的に評価できるなんて男がいるんですかね。大抵は目が眩むのではないでしょうか。

 どうも美禰子はその域にありませんよ。精々オセロのレベルで

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『三四郎』の謎について28   美禰子は何故金を持っているのか?

『三四郎』の謎について28 美禰子は何故金を持っているのか?

 これもこれまで殆ど言われてこなかった話です。

 近代文学1.0において、やたらと「高等遊民」の代表とされる『それから』の代助ですが、『それから』の中で代助が「高等遊民」を自称した事実はなく実は「上等人種と自分を考えているだけ」なんです。こうした事実は事実としてきちんと整理していかなくてはならないと思います。

 すごくシンプルに言えば、柄谷行人なんか読むのを止めて、ちゃんとしようよ、ということ

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『三四郎』の謎について 27    何故三四郎は他人の死に冷淡なのか?

『三四郎』の謎について 27 何故三四郎は他人の死に冷淡なのか?

 二度目は偶然ではない、と思いませんか。

 電車の中で同じ人に二回足を踏まれたら怒りませんか。私は怒ります。わざとだと思うからです。

 轢死体の場面、その翌朝の「きょうはいい天気だ。世界が今朗らかになったばかりの色をしている」という感覚は何なんだろうと思いましたが、その時点では答えはありませんでした。明らかにおかしいと思います。全然尋常じゃないですよね。あるいは真面ではないです。

 それでも

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『三四郎』の謎について26    どうすればそんなことが出来るのか?

『三四郎』の謎について26 どうすればそんなことが出来るのか?

 今回は短めにやります。さして深い内容ではありません。

 皆さん『三四郎』の読後、直ぐに変だと感じませんでした?

 ここです。ここは「呟いた」のか「囁いたのか」解らないわけですが、「口の中で」は変じゃないですか?

 やってみてください。

 私もやってみましたが、口を閉じると言えないんですね。言葉は口に出すものと云いますが、実際には口から出すものなんですよね。「口の中で」にはならないんです。

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