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ヴェロニク・レイモン&ステファニー・シュア『My Little Sister』死にゆく兄と戦う妹

優秀な劇作家だったリサは、家族とともにスイスに移住して以来作品を書いていない。夫マルティンの運営する学校で教師を務めながら二人の子供と生活しているが、彼女の心はベルリンで舞台俳優として活躍する双子の兄スヴェンの方に向いている。彼は白血病を患っており、いつも以上に不安定になっていて、双子兄妹の結束は平時以上に強まっていく。しかし、それは夫やスイスとの関係性が反比例的に悪化していくことと相関していた。仕事にも復帰できず、妹に迷惑ばかりかけて自暴自棄が加速するスヴェン。そんな兄を心配するあまり夫や子供たちを脇に置いてしまうリサ。そんな二人を心配しながら、タイミング悪く"家族の未来のために"と称して引っ越しを提案するマルティン。というありがちな図式は、病状だけが進行する中で何も変わらず、兄が死にかけている現状を受け入れられないリサは全ての選択肢を塩漬けにし、蔑ろにされたマルティンまでも意固地になっていく。

夫婦喧嘩の描写は両成敗的に描きたかったのかもしれないが、バランスを取るための過剰さが目立ちすぎて、途中からスヴェン本人が(死んでもないのに)映画から滑り落ちていくのが苦しかった。ふとした瞬間に胸が詰まることはあるのだが、演技演出物語画面構成など、どれを取っても平均的で特筆すべき部分がない。

本作品はベルリン映画祭のコンペ部門に選出された作品なのだが、いつか観たMelanie Waelde『Naked Animals』と同じく開催国枠だろう。公開当日はニーナ・ホスとラース・アイディンガーというトップ俳優共演とあって盛況だったらしい。

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・作品データ

原題:Schwesterlein
上映時間:99分
監督:Véronique Reymond, Stéphanie Chuat
製作:2020年(スイス)

・ベルリン国際映画祭2020 その他の作品

コンペティション部門選出作品
1. マルコ・ドゥトラ&カエターノ・ゴタルド『All the Dead Ones』奴隷制廃止後も生き残る旧時代の価値観
2. ダミアーノ&ファビオ・ディノチェンツォ『悪の寓話』世にも悲しいおとぎ話
3. ブルハン・クルバニ『ベルリン・アレクサンダープラッツ』フランツはまともな人間になりたかった
4. イリヤ・フルジャノフスキー&エカテリーナ・エルテリ『DAU. ナターシャ』壮大なる企画への入り口
5. ツァイ・ミンリャン『日子』流れ行く静かなる日常
6. ブノワ・ドゥレピーヌ&ギュスタヴ・ケルヴェン『デリート・ヒストリー』それではいってみよう!現代社会の闇あるある~♪♪
7. ケリー・ライヒャルト『First Cow』搾取の循環構造と静かなる西部劇
8. ジョルジョ・ディリッティ『私は隠れてしまいたかった』ある画家の生涯
10. リティ・パン『照射されたものたち』自慰行為による戦争被害者記録の蹂躙
11. ヴェロニク・レイモン&ステファニー・シュア『My Little Sister』死にゆく兄と戦う妹
12. エリザ・ヒットマン『17歳の瞳に映る世界』自己決定と選択の物語
13. サリー・ポッター『The Roads Not Taken』ごめんパパ、何言ってるか分からないよ
14. フィリップ・ガレル『The Salt of Tears』優柔不断な男の末路
15. アベル・フェラーラ『Siberia』悪夢と記憶の荒野を征く者
16. モハマド・ラスロフ『悪は存在せず』死刑制度を巡る四つの物語
17. クリスティアン・ペッツォルト『水を抱く女』現代に蘇るウンディーネ伝説
18. ホン・サンス『逃げた女』監督本人が登場しない女性たちの日常会話

エンカウンターズ部門選出作品
1. Camilo Restrepo『Encounters (Los conductos)』髭面ノ怪人、夜道ヲ疾走ス
2. ティム・サットン『Funny Face』地域開発業者、ヴィランになる
3. Victor Kossakovsky『Gunda』豚の家族を追う親密なホームビデオ
5. マリウシュ・ヴィルチンスキ『Kill It and Leave This Town』記憶の中では、全ての愛しい人が生きている
7. クリスティ・プイウ『Malmkrog』六つの場面、五人の貴族、三つの会話
8. Catarina Vasconcelos『The Metamorphosis of Birds』祖父と祖母と"ヒヤシンス"と
9. Melanie Waelde『Naked Animals』ドイツ、ピンぼけした青春劇
10. アレクサンダー・クルーゲ & ケヴィン『Orphea』性別を入れ替えたオルフェウス伝説
12. Pushpendra Singh『The Shepherdess and the Seven Songs』七つの歌で刻まれた伝統と自由への渇望
13. ジョゼフィン・デッカー『Shirley』世界は女性たちに残酷すぎる
14. サンドラ・ヴォルナー『トラブル・ウィズ・ビーイング・ボーン』小児性犯罪擁護的では…
15. C.W.ウィンター&アンダース・エドストローム『仕事と日(塩谷の谷間で)』ある集落の日常と自然の表情

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