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クリスティアン・ペッツォルト『水を抱く女』現代に蘇るウンディーネ伝説

ウンディーネとは水を司る精霊であり、女性の姿をしていることが多く、人間男性との恋愛にはかなり大きな代償がある。この情報を知った上で本編を見始めると、いきなりウンディーネと恋人ヨハネスの別れ話から始まる展開に驚く。しっかりウンディーネはヨハネスに"別れたら死ぬど?"と言っており、その設定は守っているのだが、それを知らないとただの重い女にしかなっていなくて実に滑稽。続いて、彼女は潜水士のクリストフと出会い、彼こそが本当の運命の人であると悟るのだが、中盤でウンディーネ設定が思い出したかのように登場し、物語を一気に片付けてしまう。これはこれで嫌いじゃない。

彼女はベルリンの都市開発資料館(?)に勤めており、台詞のほとんどはベルリンの成り立ちや発展の歴史、二度の敗戦と東西統合という20世紀の混乱を圧縮した近代史などが語られている。中盤で語られるベルリン王宮の再建工事が、時を越えて復活する旧時代の遺物という意味で、現代のウンディーネ伝説を支えているのだと思うが、思考が追いつかず放置。

短尺ならではの小気味よさはあるのだが、ベルリンの解説について薄ぼんやりとしか理解できなかったので、もしかすると傑作だったのかもしれないなどと思いつつ、唯一見た監督作『未来を乗り換えた男』には及ばないな、と。何度か登場する列車のドアに空間が遮られるショットが印象的だった。

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・作品データ

原題:Undie
上映時間:90分
監督:Christian Petzold
製作:2020年(フランス, ドイツ)

・評価:70点

・ベルリン国際映画祭2020 その他の作品

コンペティション部門選出作品
1. マルコ・ドゥトラ&カエターノ・ゴタルド『All the Dead Ones』奴隷制廃止後も生き残る旧時代の価値観
2. ダミアーノ&ファビオ・ディノチェンツォ『悪の寓話』世にも悲しいおとぎ話
3. ブルハン・クルバニ『ベルリン・アレクサンダープラッツ』フランツはまともな人間になりたかった
4. イリヤ・フルジャノフスキー&エカテリーナ・エルテリ『DAU. ナターシャ』壮大なる企画への入り口
5. ツァイ・ミンリャン『日子』流れ行く静かなる日常
6. ブノワ・ドゥレピーヌ&ギュスタヴ・ケルヴェン『デリート・ヒストリー』それではいってみよう!現代社会の闇あるある~♪♪
7. ケリー・ライヒャルト『First Cow』搾取の循環構造と静かなる西部劇
8. ジョルジョ・ディリッティ『私は隠れてしまいたかった』ある画家の生涯
10. リティ・パン『照射されたものたち』自慰行為による戦争被害者記録の蹂躙
11. ヴェロニク・レイモン&ステファニー・シュア『My Little Sister』死にゆく兄と戦う妹
12. エリザ・ヒットマン『17歳の瞳に映る世界』自己決定と選択の物語
13. サリー・ポッター『The Roads Not Taken』ごめんパパ、何言ってるか分からないよ
14. フィリップ・ガレル『The Salt of Tears』優柔不断な男の末路
15. アベル・フェラーラ『Siberia』悪夢と記憶の荒野を征く者
16. モハマド・ラスロフ『悪は存在せず』死刑制度を巡る四つの物語
17. クリスティアン・ペッツォルト『水を抱く女』現代に蘇るウンディーネ伝説
18. ホン・サンス『逃げた女』監督本人が登場しない女性たちの日常会話

エンカウンターズ部門選出作品
1. Camilo Restrepo『Encounters (Los conductos)』髭面ノ怪人、夜道ヲ疾走ス
2. ティム・サットン『Funny Face』地域開発業者、ヴィランになる
3. Victor Kossakovsky『Gunda』豚の家族を追う親密なホームビデオ
5. マリウシュ・ヴィルチンスキ『Kill It and Leave This Town』記憶の中では、全ての愛しい人が生きている
7. クリスティ・プイウ『Malmkrog』六つの場面、五人の貴族、三つの会話
8. Catarina Vasconcelos『The Metamorphosis of Birds』祖父と祖母と"ヒヤシンス"と
9. Melanie Waelde『Naked Animals』ドイツ、ピンぼけした青春劇
10. アレクサンダー・クルーゲ & ケヴィン『Orphea』性別を入れ替えたオルフェウス伝説
12. Pushpendra Singh『The Shepherdess and the Seven Songs』七つの歌で刻まれた伝統と自由への渇望
13. ジョゼフィン・デッカー『Shirley』世界は女性たちに残酷すぎる
14. サンドラ・ヴォルナー『トラブル・ウィズ・ビーイング・ボーン』小児性犯罪擁護的では…
15. C.W.ウィンター&アンダース・エドストローム『仕事と日(塩谷の谷間で)』ある集落の日常と自然の表情

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