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2024年 上半期ベスト

社会人も四年目となってしまい、着実に映画を観る時間は減っているのだが、今年もそこはクオリティで維持しようと奮闘している…はず。鑑賞本数自体は一昨年より100本近く少ない去年よりも更に少ない343本で、しかも今年は去年頑張りすぎた影響でギリギリまで好みの新作に出会えない辛い年となった。毎年恒例の発表日をズラすというズルを今年も行い、滑り込みでランクインした作品もあって、これも良かった。今年も例年通り、

①2024年製作の作品 (41本)
②2023年製作だが未鑑賞/未公開 (82本)
③2022年製作だが未鑑賞/未公開 (15本)

の三つを条件に作品を集めまくった。結局総数は138本となった。昨年は128本だったので減ったのは旧作の本数のようだ。昨年と同じく旧作ベストも盛り上がっているので、そちらもどうぞ。


1 . I Saw the TV Glow (Jane Schoenbrun)

今年は本作品が圧倒的だった。TVドラマをきっかけに出会った孤独な二人の物語。自分の身体/人生が自分のものではない感覚/経験を"TVを見ている"という構造に落とし込み、一歩踏み出す恐怖をホラー映画的なそれに置き換え視覚化する見事さ。作中におけるTV画面の役割が、我々とスクリーンの関係性にも似ている。あまりの力強さに涙が止まらなかった。

2 . Sleep with Your Eyes Open (Nele Wohlatz)

前作『The Future Perfect』では、新たな言語を習得することで新たな概念まで習得を可能にするという希望を描いていたが、本作品ではそれが裏返る。母国語の違う人間の言葉は100%の

3 . 違国日記 (瀬田なつき)

薄暗い室内からは外界が真っ白に輝いていて、ありえないとこに光が反射して、ありえないとこから光が降ってきていた。それは希望が予想もしないところから訪れることの証左なのかもしれない。勢いで原作漫画も買ったけど、過激なファンが映画をこき下ろしてたので読むのがとても怖い。

4 . 美と殺戮のすべて (ローラ・ポイトラス)

写真/生活と政治について別々の軸で語るように見せて、1990年代にそれらが交差するという作りがまず上手い。ナンの語る全ての物語が、彼女よりも先に姉が見てしまった世界を辿り直すように、語りかけるように紡がれていくのが、ペトラ・コスタ『Elena』を思い出して泣いてしまった。長らく本作品しかベスト級の作品に出会えずに心配していたのも懐かしい。

5 . チャレンジャーズ (ルカ・グァダニーノ)

全員がボールを目で追う中でタシだけがボールから目を離す冒頭から、テニスコートに三人目のプレイヤーが現れる。基本偶数プレイ推奨なので奇数になるのは奇妙だが、試合自体が多義的に現実へ拡張され、現実が試合に侵食していくことで、その奇妙さは映画の醍醐味となる。パトリックが長年のHEADユーザーなのに対して、アートがWilsonユーザーだったタシに言われてBabolatからWilsonに変更してるのがもうね。

6 . けもの (ベルトラン・ボネロ)

AIが支配した世界で、人間の感情を消すために過去を見せられる男女の物語。前作『Coma』から似たような骨格を引き継いで、コロナ禍と折り合いをつけたと思ったらAIの爆発的発達によってまたも実存的危機の訪れた人類の行く末を案じている。三つの時代でモチーフが色々と重ねられているが、何度登場しても新鮮に驚けるのがボネロの凄み。これは人類に向けたフォークト=カンプフ検査ですよ。

7 . The Empire (ブリュノ・デュモン)

いつものフランドルで、善悪や聖俗といった二項対立を極限まで煮詰め、広義SF映画のカリカチュアを全部乗せした欲張りな一作。徹底して人物を概念化した『フランドル』の再来である。単調さや退屈さすら飲み込む恐るべき映画だ。

8 . Bad Living (João Canijo)

母娘三代の経営するホテルに閉じ込められた愛憎。二人の娘はそれぞれの母からの愛を求めるが、愛し方が分からずすれ違い続ける。ホテルは空間把握もままならないほどの迷宮と化し、複雑に入り組んだ蟻地獄のような心象風景を視覚化し続ける。姉妹編『Living Bad』は同じ時期に宿泊していた客たちの物語を三部構成で描いたもの。似たような血みどろの親子喧嘩を三回もやる。つらい。

9 . Shambhala (ミン・バハドゥル・バム)

ネパールの山間地帯で暮らすペマは一妻多夫の伝統から三兄弟と結婚するが、長兄夫が留守の間に姦通を疑いをかけられ、妻を信じられなかった彼は失踪する。目視出来るのに絶対に届かない山々が背景に君臨していて、そのすり鉢状に閉じた世界を強烈に刻み込む。シャンバラはどこにあるんだろうか。

10 . 異人たち (アンドリュー・ヘイ)

全てが主人公の頭の中で起こっていることなんだろう。両親にカムアウトしていたらどうなっていたんだろうか?両親との再会は、無数のifの中から本人の考える最も良い形で彼らとの関係に決着を付ける、過去と新たな関係を気付くためのものなのだ。一方のハリーも、"生き延びられなかった自分"という分身のような存在で、自分が選ばなかったifすらも抱えて、共に生きる道を選んだのだ。

10 . Slow (Marija Kavtaradzė)

コンテンポラリーダンサーのエレナと手話通訳のドヴィダスは出会うが、後者がアセクシャルであるとカムアウトしてから関係性は変化する。物語は二人の関係性を手探りで進めていき、決してニヒリズムや不必要な残酷さを経由することなく、互いに最善を尽くしても同調しきることのできないリズムを描いている。人間を観る絶妙な距離感に見覚えがあったが、これはドゥシャン・ハナークだ。ハナークがあの頃のまま映画製作を続けていたら、こんな映画を撮っていただろう。

・旧作ベスト

今年は特にテーマを定めず、興味の赴くままにフラフラと観ていた印象がある。結果的に当たりは少ないけど満足度はそれなりにという謎の状態に。あと、ジャン=シャルル・フィトゥーシに出会えたのは本当に大きな収穫だった。わざわざ仙台まで行った甲斐があった。

1 . ジャン=シャルル・フィトゥーシ『私は死んでいない』時間も輪廻も幻想も生者も死者も混ざり合う温かな愛の旅
1 . ジャン=シャルル・フィトゥーシ『私が存在しない日々』1日ごとにしか存在できない男の物語
2 . Hüseyn Mehdiyev『Strange Time』アゼルバイジャン、父を介護する娘を襲う悪夢
3 . Nele Wohlatz『The Future Perfect』アルゼンチン、新言語習得のもたらす新たな可能性
4 . 増村保造『青空娘』
5 . フレディ・M・ムーラー『山の焚火』
6 . ジャック・リヴェット『パリでかくれんぼ』
7 . アラン・タネール『Messidor』スイスに降り立った二人のアナーキー女神
8 . クローディア・ウェイル『ガールフレンド』
9 . アル・ウォン『Twin Peaks』あるトラック運転手の見た宇宙
9 . レイモンド・リー『ドラゴン・イン』やたら血の気の多い"龍門の宿"
10 . ダルデンヌ兄弟『サンドラの週末』

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