Marija Kavtaradzė『Slow』リトアニア、親密さと身体について
傑作。2024年アカデミー国際長編映画賞リトアニア代表。マリア・カフタラーゼ(Marija Kavtaradzė)長編二作目。コンテンポラリーダンサーのエレナは聾の若者に向けたダンス教室を開いており、そこで手話通訳のドヴィダスと出会った。エレナはこの物静かな青年をすぐに気に入るが、彼からアセクシャルであることを告白される。物語は二人の関係性を手探りで進めていき、決してニヒリズムや不必要な残酷さを経由することなく、互いに最善を尽くしても同調しきることのできないリズムを描いている。ダンスするエレナ、手話通訳するドヴィダスの姿が頻繁に挿入されるのは、それらが彼らの言語そのものであることを示し、身体の隅々まで用いた感情表現の躍動を具に捉えようとカメラは身体に近付いていく。そして、それぞれが身体を用いた言語で他者との距離を測ってきたからこそ、互いの距離感を互いの方法で測ることが出来ないという問題が浮かび上がる。エレナの口から飛び出す"普通にしてよ"という言葉がドヴィダスの胸に突き刺さる。しかし、二人の身体的接触が直ちに互いの距離を測りきれないことへとの不安や困惑に繋がるわけではなく、寧ろ親密さを感じさせ安心させるような優しい映像が多かった。その点で二人とカメラとの距離感も、距離だけ見ると近いが、二人と一緒に適切な距離を考えているようでもあって非常に良かった。この距離感、そして属性で語られがちな題材を個人の視点で描く手法、ドゥシャン・ハナークっぽい。ハナークがあの頃のまま映画製作を続けていたら、こんな映画を作っていただろう。
・作品データ
原題:Slow
上映時間:108分
監督:Marija Kavtaradzė
製作:2023年(リトアニア)
・評価:80点
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