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2023年 上半期ベスト

社会人も三年目となって着実に映画を観る時間は減っているのだが、そこはクオリティで維持しようと奮闘している…はず。鑑賞本数自体は昨年の現時点(482本)より100本近く少ない373本だが、新作旧作ともに満足感は高めなので良しとしよう。今年も上半期ベスト発表が8日だったのをいいことに勝手に延長戦をしていたら、昨年の『ノースマン』みたいなやらかしは防げて惜しい滑り込みに出会えたので、これも良かった。今年も例年通り、

①2023年製作の作品 (41本)
②2022年製作だが未鑑賞/未公開 (77本)
③2021年製作だが未鑑賞/未公開 (8本)

の三つを条件に作品を集めまくった。結局総数は128本となった。昨年は133本だったので減ったのは旧作の本数のようだ。昨年と同じく旧作ベストも盛り上がっているので、そちらもどうぞ。

1 . 夜のロケーション (マルコ・ベロッキオ)

今年はこれが圧倒的だった。アルド・モーロ誘拐殺人事件を様々な視点から眺めるドラマ。それぞれの確固たる信条に疑念を持ちながら、事件に対してなにも出来なかった人々の物語をモザイク的に構成する。旅団の丸星マークと聖体が重なるシーンが暗示するのは、共産主義者もキリスト教徒も根本的には等しいのではないか?ということ。そんなモーロの問いかけをベロッキオが証明していく。

2 . Trenque Lauquen (ラウラ・チタレラ)

失踪した同僚、図書館の本に隠された恋文、湖で見つかった謎の生命体を巡って謎が謎を深めていく奇妙なミステリー。そこには謎と謎が転写された現実世界が混在しており、謎を調べることで新たな謎が生まれ、調べる側の関係性も深まっていく。その上で"人間"という謎を260分かけて濃密に語っていく。

3 . Music (アンゲラ・シャーネレク)

オイディプス神話を現代的に換骨奪胎しつつ、省略的に描くことで、未知なるものに名を与えるという意味での神話化を行わせる奇妙な一作。裸足=死のイメージと手="家族"のイメージが反復されることで、一家は崩壊と出会いを繰り返す。

4 . BlackBerry (マット・ジョンソン)

世界を席巻したBlackBerry帝国の栄枯盛衰。オタク技術者たちとゴリゴリ体育会系営業マンの少年漫画のような出会いから、互いに背中を任せきったことで次第にコントロールを失って崩壊していくまでを臨場感たっぷりに描く。三部構成は"上手くいった例"、"上手くいっちゃった例"、そしてこれらを反省しなかった結果"上手くいかなかった例"として教訓物語のようにも見えてくる。

5 . The Wall of the Dead (ウジェーヌ・グリーン)

現代のパリで、青年は死没した兵士に出会う。当然のように過去と現在が交わる中で、青年は兵士の不在によって世界に絶望する人々に"愛"を説いて繋ぎ止める。まるで我々の世界を挟み置くような正面ショットと刺し貫くような視線の美学。

6 . Kunstkamera (ヤン・シュヴァンクマイエル)

シュヴァンクマイエルのスタジオにある膨大な数の収集物/製作物をヴィヴァルディ"四季"と共にひたすら映し続け、紹介や記録といった枠を超えた"想像力の極地"まで誘う一作。前作『蟲』が遺作なら、本作品は死亡記事だ、という評にも納得なほど濃密に、彼の頭の中、そして人生そのものが垣間見える。

7 . Revoir Paris (アリス・ウィンクール)

テロ事件に巻き込まれたミアは、3ヶ月経っても事件当時のことを思い出せない。そんな彼女は他の生存者たちと交流することでトラウマと向き合っていく。被害者たちが現場で週一のミーティングを開いたり、SNSで当時の状況を集合記憶として共有していたり、決して一人で抱え込むなという思想が徹底されている。そして、繰り返される"手を握る"という最も単純で無武装の行為に希望が重ねられる。ともすると絵空事のようになりそうな物語に生命を吹き込むヴィルジニー・エフィラの上手さが光る。

8 . Other People's Children (レベッカ・ズロトヴスキ)

高校教師のレイチェルが目下付き合っているバツイチ男の連れ子と親しくなる過程から、自分の子供が欲しいという思いの流動性を描く。"他人の子供"だから出来ることと"他人の子供"だから出来ないことの描き分けが上手い。

9 . How to Blow Up a Pipeline (ダニエル・ゴールドハーバー)

若者たちによるエコテロリズムの一部始終。エコテロリズム映画界の『オーシャンズ11』なんて呼ばれ方もしていた。エコテロリズムをカルト宗教的に描いた『ザ・イースト』や内ゲバと道徳的妥協に終わった『ナイト・スリーパーズ』と異なる、"衝撃と拡散"への緻密な計画が中心にある。それが成功するか否かという緊張感、切実で強烈な怒りを共有するスピード感ある時制操作が抜群に上手い。

10 . Enys Men (マーク・ジェンキン)

コーンウォールの沖合にある孤島で、崖の上に咲く白い花と古井戸をたった一人で観測し続ける女に、自らの過去と島の歴史そのものが襲いかかり、時間が混ざり合っていく。一人で『ウィッカーマン』とか『ライトハウス』やってるみたいな孤独と恐怖がある。

・旧作ベスト

今年は年初の『千葉ルー』出版記念ルーマニア映画特集を皮切りに東欧映画スペースで扱う作品を優先的に観ていたので、数が少なくても満足感は高め。『死ぬまでに観たい映画1001本』のラスト20本から2本もランクインしてるのも嬉しい。1位は東欧映画でも1001関連でもないんだけども。

1 . アラン・キュニー『The Annunciation of Marie』"見えないこと"の反復の中にある"見えること"の神聖さについて
2 . バフティヤル・フドイナザーロフ『コシュ・バ・コシュ』タジキスタン、恋はロープウェイに乗って
3 . Binka Zhelyazkova & Hristo Ganev『Life Quietly Moves On...』ブルガリア、パルチザン神話の果てしなき重さ
4 . アンドレイ・タルコフスキー『アンドレイ・ルブリョフ』
5 . Mircea Săucan『Meanders』ルーマニア、鉛筆の宮殿を建てましょう
6 . タリア・ラヴィ『ゼロ・モティベーション』
7 . ヴェルナー・ヘルツォーク『フィツカラルド』
8 . Mikhail Doronin『The Second Wife』ウズベキスタン、豪商の第二夫人になったら…
9 . ルチアン・ピンティリエ『The Oak』ルーマニア、セクリターテと不条理の波状攻撃
10 . メーサーロシュ・マールタ『マリとユリ』ハンガリー、互いに手を差し伸べあうシスターフッド

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