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ダニエル・ゴールドハーバー『HOW TO BLOW UP』環境汚染への怒りはパイプラインに火をつける

めちゃくちゃ面白い。ダニエル・ゴールドハーバー長編二作目。アンドレアス・マルムによって書かれた同名ノンフィクション本に着想を得た一作。同作では、環境的正義の追求において財産破壊が有効な戦術であると主張しているらしく、本作品によってアジられた若者が同様の犯罪に走るのではないかなどと言われている。主義主張の面でもそうなのだが、計画が成功するかという緊張感が当事者であるかのような感覚を煽ってくるので、その指摘は間違いではない気もする。エコテロリズム映画界の『オーシャンズ11』なんて呼ばれ方もしていた(あれを観て泥棒を志す人はいないだろうから皮肉込みかもしれない)。環境テロリズムというと、真っ先にザル・バトマングリ『ザ・イースト』を思い出すが、テロリストたちがある種のカルト宗教のように描かれ、犯行そのものも経営層への断罪として世界へ衝撃を与えるように描いていた同作に比べると、メンバーの背景は切実だ。熱波で亡くなった母親を思うソーチー、幼少期から製油所の近所で生活したことで慢性骨髄性白血病になったテオ、先祖代々の土地を押収されてパイプラインを通されたドウェイン、ノースダコタの保留地に製油所を建てられたマイケルなど、彼らはエネルギー企業(ここではオイルカンパニー)の環境汚染をダイレクトに受けているのだ。集まった彼らはドウェインの土地にあるパイプラインを爆破することになるが、目的が混乱を起こすこと、そして後続者を生むことにあるため、被害は最小限に留めるのも計画に含めているのが興味深い。あまり大規模に実業家を"被害者"にしてしまっては国民感情を損なうから、まずは大衆を味方に付けて拡散させ先駆者になる、という考え方は現代っ子だなあと。更に本作品は、爆破計画を淡々と進める現在時制と、人物たちが如何にして怒りを抱いてここまで辿り着いたかという過去時制をスピード感を保ちつつ上手く混ぜ合わせている。それによって、計画が成功するかというサスペンスを持続させながら、彼らの痛みと怒りも共有する。『ザ・イースト』以外でよく比較されているのはケリー・ライカート『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』だが、ダムを爆破したテロリストたちのその後を描いた同作が内ゲバと道徳的妥協に至ったのに対して、本作品の若者たちは引き際まで"衝撃と拡散"計画の計算に入れている。それほどに切実で強い怒りを抱えているのだ。

・作品データ

原題:How to Blow Up a Pipeline
上映時間:104分
監督:Daniel Goldhaber
製作:2022年(アメリカ)

・評価:90点

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