見出し画像

ジェーン・シェーンブルン『I Saw the TV Glow』自分のアイデンティティを否定し殻に籠もって生きること

超絶大傑作。ジェーン・シェーンブルン長編二作目。前作『We're All Going to the World's Fair』は超新星現ると話題になっていたのも記憶に新しく、二作目にしてA24製作の映画が撮れるなんて…と推しの出世を見守っております(今年は他にもアーロン・シンバーグティルマン・ジンガーも大手で新作を撮っていて推しの出世YEARとなった)。物語は『バフィー 〜恋する十字架〜』を彷彿とさせるYA向けTVドラマ『The Pink Opaque』を中心に展開される(同作に出演していたアンバー・ベンソンが本作品にも登場している)。このドラマはイザベルとタラという二人の主人公が、互いに交信しながらMr.メランコリーの送る怪人を倒していくというもの。監督は子供の頃、『バフィー』のようなドラマが好きだったのだが、女の子向けのドラマを観ているとは言い出せなかったらしい。そして、大人になってから考えてみたとき、実生活で自らのジェンダーアイデンティティを表現する準備が出来る前に、自分を表現する方法としてTVドラマを使用していたと気付いたとのこと。作中で『The Pink Opaque』は、恐らく監督と同じ性的違和に気付き始めた少年オーウェンと二つ年上のマディが出会うきっかけに始まり、孤独な二人を繋ぎ合わせる役割を負っていた。そして、マディは作品に感化されて一歩を踏み出したが、オーウェンは踏み出せなかったという対比を、現実世界と空想世界の線引を曖昧にすることで描き出している。"ずっと物語を見ているようでもあった"という自分の身体や人生が自分のものではない感覚/体験を"TV番組を見ている"という構造に落とし込み、一歩踏み出すことの恐怖をホラー映画的な恐怖に置き換えて視覚化するのも見事だ(個人的な好みとして辛い体験を辛いまま映像化するのは観ていても辛いのだ)。また、オーウェンが第四の壁を破る演出から作品自体が『The Pink Opaque』の一つのエピソードのようにもなり、作中における影響を画面外にも及ぼそうとする意図を感じた(実際にLBには本作品に勇気をもらってカムアウトしたというレビューがあった)。オーウェンやマディにとっての『The Pink Opaque』が、我々にとっての本作品であるというような関係性である。その意味で"画面"というのは、選ばなかった/選べなかった別の選択肢を提示する点で共通している。ちなみに、現代のオーウェンが焚き火を見るのは、マディが燃やしたブラウン管TVの炎とも重なる。VHSが見られなくなった時代に、選ばなかった選択肢を、果たしてそれで良かったのだろうかと問いかけているようでもあった。オーウェンはもう遅いというのも言い訳の一つと考えているようだが、遅すぎるなんてことはないはずだ(いつまでも勇気が出ないのは非常に理解できる)。

また、題名に"輝き"とある通り、本作品における光の存在は非常に大きい。自然光以外の人工灯は基本的にほぼ全て単色光を発していて、暗室の赤色灯やパトカーの回転灯に始まり、アクアリウムの緑のライトアップ、番組を見ている部屋に満ちるピンク色の光などマディの家のライティングはどれも"そこにいる人間にしか感知できていない輝き"を持っているようで素晴らしかった。ちなみに、DPはエリック・ユエという人で悪名高い『The Giant』のDPでもある(私は大好きです)。こちらもティーンエイジャーの物語であり、高校の風景など似ている部分も散見された。

追記
ちなみに、今年に入って"Pain Is Weakness Leaving The Body"というポスターを見るのはローズ・グラス『Love Lies Bleeding』に続き二回目。しかも、どちらもA24作品である。

・作品データ

原題:I Saw the TV Glow
上映時間:100分
監督:Jane Schoenbrun
製作:2024年(アメリカ)

・評価:99点

この記事が参加している募集

よろしければサポートお願いします!新しく海外版DVDを買う資金にさせていただきます!