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ドゥニ・コテ『Social Hygiene』三密を避けた屋外舞台劇

すっかりベルリン映画祭の常連となったドゥニ・コテが今回はエンカウンターズ部門に登場した。物語よりも先に本作品で目に入るのは、屋外(草原やら森やら)でソーシャルディスタンスを守って立ち並ぶ役者たちの姿だろう。コロナ禍の遥か前(2015年頃)に書いた作品だというが、今回の映画化は実際にパンデミックを迎えたことで撮れる作品に制限がかかってしまったことにも起因しそうだ。そんな形で語られる物語は、皮肉屋で哲学的な小悪党アントニンと彼の周りにいる女性たち(姉ソルヴェイ、妻エグランティーヌ、恋人カシオペー、徴税人ローズ、盗難被害者オーロラ)との言い争いで構成されており、ワンシーンワンカットで延々と喧嘩を繰り返していく。話そのものは現代を舞台としているが、役者陣の服装とは年代がちぐはぐであり、恐らく服装の豪華さによる身分差というのが人物の背景を知る一つの手がかりになっているのだろう。

それらの間に、森の中で静かに踊り狂うオーロラの映像が挿入される。これはフィックスで撮られている本編とは異なり、手持ちカメラで追い回すように撮られている。また、オーロラは他の四人の女性たちとは異なり、明らかに一人だけ現代的な服装にスポーツカットなので、これらも対比として機能しているのだろう。

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・作品データ

原題:Hygiène sociale
上映時間:75分
監督:Denis Côté
製作:2021年(カナダ)

・ベルリン国際映画祭2021 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
1. ラドゥ・ジュデ『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』コロナ、歴史、男女、教育
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7. マリア・シュラーダー『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』ガール・ミーツ・アンドロイドボーイ
8. ホン・サンス『Introduction』ヨンホとジュウォンのある瞬間
9. ジョアナ・ハジトゥーマ&カリル・ジョレイジュ『メモリー・ボックス』レバノンと母娘を結ぶタイムカプセル
10. マリア・シュペト『Mr. Bachmann and His Class』ぼくたちのバッハマン先生
11. ナジ・デーネシュ『Natural Light』ハンガリー、衝突なき行軍のもたらす静かな暴力性
12. ダニエル・ブリュール『Next Door』ベルリン、バーで出会ったメフィストフェレス
13. セリーヌ・シアマ『Petite Maman』一つの家二つの時間、小さなお母さんと私
14. アレクサンドレ・コベリゼ『見上げた空に何が見える?』ジョージア、目を開けて観る夢とエニェディ的奇跡
15. 濱口竜介『偶然と想像』偶然の先の想像を選び取ること

★エンカウンターズ部門選出作品
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2. Andreas Fontana『Azor』レネ・キーズはどこへ消えた?
4. ユリアン・ラードルマイヤー『Bloodsuckers』もし資本主義者が本当に吸血鬼だったら
6. Silvan & Ramon Zürcher『The Girl and the Spider』深い断絶と視線の連なり
7. Jacqueline Lentzou『Moon, 66 Questions』ギリシャ、女教皇と力と世界
8. ファーン・シルヴァ『ロック・ボトム・ライザー』ハワイ、天文台を巡るエッセイ
9. ダーシャ・ネクラソワ『The Scary of Sixty-First』ラストナイト・イン・ニューヨーク
10. ドゥニ・コテ『Social Hygiene』三密を避けた屋外舞台劇
11. Lê Bảo『Taste』原始的で無機質なユートピアの創造
12. アリス・ディオップ『We』私たちの記録、私たちの記憶

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