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アベル・フェラーラ『Siberia』悪夢と記憶の荒野を征く者

ウィレム・デフォーがアベル・フェラーラの分身となって監督の若妻と愛娘の自慢に参加する一連のシリーズ最新作。シベリアの奥地で山小屋を経営してるおっさんの話。本作品は一次大戦を前に精神が不安定になったカール・グスタフ・ユングが著した『赤の書』を知っておくと良いという記述を見かけて、そのスピリチュアールな画風の挿絵を覗いて妙に納得してしまった。開始20分くらいで犬ぞりに乗った妊婦の若妻が登場し、バーでいきなり全裸になってそのままデフォーとセックスを始めるので、前作『Tommaso』と一緒じゃねえか!と。なんかリアルな『奇跡の海』を見てるようで気味が悪い(デフォーと妻のセックス見てるの好き、という発言はマジなのか?)。その後も意味深なスピリチュアール展開が続くが、展開の唐突さや脈絡の無さは確かに本物の悪夢っぽい。シベリアの雪原や灼熱の砂漠は、荒れた心象風景としてはそのまんますぎる実にチープな連想だが、ここまで来ると潔い。騎乗位してたらいつの間にか老母が上に乗ってたのは悪夢を通り越して爆笑した。

5年前にKickstarterでクラファンやってたと聞いて調べてみたところ、4%も集まらずに失敗してた。それだけ金と労力のかかる映画製作を、若妻/愛娘自慢のためだけに行えるのは素直に凄いのかもしれない。ちなみに、本作品のベルリンプレミア上映時のインタビューやデフォーの参加した過去作品の本編映像、コロナ以降に撮った映像などをコラージュして作られた最新作『Sportin’ Life』でもお二人の映像が所狭しと登場し、うんざりさせられる。

5年前のクラファン跡地↓

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・作品データ

原題:Siberia
上映時間:92分
監督:Abel Ferrara
製作:2020年(ドイツ, イタリア, メキシコ)

・ベルリン国際映画祭2020 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
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15. アベル・フェラーラ『Siberia』悪夢と記憶の荒野を征く者
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17. クリスティアン・ペッツォルト『水を抱く女』現代に蘇るウンディーネ伝説
18. ホン・サンス『逃げた女』監督本人が登場しない女性たちの日常会話

★エンカウンター部門選出作品
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