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ロイス・パティーニョ『サムサラ』ラオスの老女、ザンジバルの少女に転生する

2023年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。ロイス・パティーニョ(Lois Patiño)長編三作目。英題"サムサラ"とは輪廻転生を指している。本作品は二部構成になっており、前半はラオス、後半はザンジバルを舞台としている。ラオス篇では数十人のティーン僧侶が共同生活する風景が描かれ、その一人ベアンがある使命を帯びた少年アミドに出会うところから始まる。その使命とは高齢で目が悪くなってしまった老女にチベット仏教の経典を読み聞かせることである。その言葉を道標のように、映画は真っ暗なインターバルに入り、生きても死んでもいない、次の生まれ変わりを待つ"バルド"という状態を観客と共有する。目を覚ますと、そこはザンジバルだった。前半と後半で撮影監督が変わっており、見える風景もまた変わってくるという感覚が良い。ラオス篇のマウロ・エルセもザンジバル篇のジェシカ・サラ・リンランドも、オリエンタルな視線や観光的な視線を一切廃し、まるでそこで共に生活しているかのような親密さを以て映像を構築していく。人は動物に転生するのを嫌がるが、それは人間状態で動物たちに酷いことをするからだ、という老女の言葉の通り、本作品では様々な生き物が、様々な魂の通り道のように配されていて、どこかミケランジェロ・フランマルティーノ『四つのいのち』を思い出させる。

・作品データ

原題:Samsara
上映時間:117分
監督:Lois Patiño
製作:2023年(スペイン)

・評価:60点

・ベルリン映画祭2023 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
1 . エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン『20,000 Species of Bees』スペイン、ルチアとその家族について
2 . クリスティアン・ペッツォルト『Afire』ドイツ、不機嫌な小説家を救えるのは愛!
3 . リウ・ジエン『アートカレッジ1994』中国、芸術と未来に惑う青年たちの肖像
5 . マット・ジョンソン『BlackBerry』カナダ、BlackBerry帝国の栄枯盛衰物語
6 . Giacomo Abbruzzese『Disco Boy』正面から"美しき仕事"をパクってみた
8 . アイヴァン・セン『Limbo』オーストラリア、未解決事件によって時間の止まった人々
10 . アンゲラ・シャーネレク『ミュージック』人間に漸近する神話のイデア
12 . セリーヌ・ソン『Past Lives』輪廻転生の恋と現世の恋
17 . 新海誠『すずめの戸締まり』同列に並ぶ被災地と遊園地
19 . リラ・アヴィレス『Tótem』メキシコ、日常を演じようとする家族の悲しみ

★エンカウンターズ部門選出作品
1 . Wu Lang『Absence』中国、"不在"を抱えた都市への鎮魂歌
2 . ダスティン・ガイ・デファ『The Adults』大人になった三人の子供たち
9 . ホン・サンス『in water』ほぼ全編ピンボケ映画
12 . ポール・B・プレシアド『Orlando, My Political Biography』身体は政治的虚構だ
13 . ロイス・パティーニョ『Samsara』ラオスの老女、ザンジバルの少女に転生する
16 . Szabó Sarolta&Bánóczki Tibor『White Plastic Sky』ハンガリー、50歳で木に変えられる世界で

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