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ホン・サンス『水の中で』ほぼ全編ピンボケ映画

2023年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。2020年から3年連続でコンペに選出され、なんらかの賞を取っていたのだが、今回でその記録はストップしたようだ。さて、本作品は男女三人組が済州島を駄弁りながら歩き回るという60分の中編である。ソンモは長年俳優をやってきたが、今回は短編を撮りたいということで、知り合いの女優ナミと元カメラマン?のサングクを呼び出してロケハンをしているのだ。全財産をはたいて二人を呼び出したわりに、脚本も何も決まっておらず、いたずらに時間だけが過ぎていく。映画についてサングクに聞くわけでもなく、テコンドーをやっていたというナミにも見向きもせず、ただただフラフラしている。なんといっても特徴的なのはほぼ全編ピンボケということだろう。"ほぼ"と書いたのは、顔すら判別できず観ているコチラまで目が悪くなりそうなピンボケ映像から、ちょっとボケてる…?くらいの映像まで含まれているためである。ベルリン映画祭公式HPには"印象派の絵画のようなイメージ"とあるが、そこまで大仰な表現はあまりそぐわない。顔の判別を出来なくしているのかと思ったら、序盤でパキパキにピント合ってるとこもあったので違うか。寧ろ、ホン・サンスの視力の衰えを反映しているという説の方がしっくりくる。生まれてきたいと願ったことはないが、生まれたからには何かを成し遂げたい、映画を撮って名誉が欲しいと言う主人公は、虚構の虚構の中で海へと入っていくわけだが、そのBGMが元カノに送ったバースデーソングというのがなんとも。ちなみに、キム・ミニは登場しないが、プロデューサーとして名前は出てくる(エンクレまでピンボケ)。

・作品データ

原題:물안에서
上映時間:61分
監督:Hong Sang-soo
製作:2023年(韓国)

・評価:50点

・ベルリン映画祭2023 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
1 . エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン『20,000 Species of Bees』スペイン、ルチアとその家族について
2 . クリスティアン・ペッツォルト『Afire』ドイツ、不機嫌な小説家を救えるのは愛!
3 . リウ・ジエン『アートカレッジ1994』中国、芸術と未来に惑う青年たちの肖像
5 . マット・ジョンソン『BlackBerry』カナダ、BlackBerry帝国の栄枯盛衰物語
6 . Giacomo Abbruzzese『Disco Boy』正面から"美しき仕事"をパクってみた
8 . アイヴァン・セン『Limbo』オーストラリア、未解決事件によって時間の止まった人々
10 . アンゲラ・シャーネレク『ミュージック』人間に漸近する神話のイデア
12 . セリーヌ・ソン『Past Lives』輪廻転生の恋と現世の恋
17 . 新海誠『すずめの戸締まり』同列に並ぶ被災地と遊園地
19 . リラ・アヴィレス『Tótem』メキシコ、日常を演じようとする家族の悲しみ

★エンカウンターズ部門選出作品
1 . Wu Lang『Absence』中国、"不在"を抱えた都市への鎮魂歌
2 . ダスティン・ガイ・デファ『The Adults』大人になった三人の子供たち
9 . ホン・サンス『in water』ほぼ全編ピンボケ映画
12 . ポール・B・プレシアド『Orlando, My Political Biography』身体は政治的虚構だ
13 . ロイス・パティーニョ『Samsara』ラオスの老女、ザンジバルの少女に転生する
16 . Szabó Sarolta&Bánóczki Tibor『White Plastic Sky』ハンガリー、50歳で木に変えられる世界で

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