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Szabó Sarolta&Bánóczki Tibor『White Plastic Sky』ハンガリー、50歳で木に変えられる世界で

2023年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。サボー・シャロルタ&バーノーツキ・ティボル監督コンビによる長編一作目。全編ロトスコープのディストピア・アニメ映画。舞台は2123年のブダペスト。深刻化した環境破壊と資源不足の解消のため、住民は50歳になると心臓に種を植えられて木になることで、辛うじて種の存続を保っていた。主人公シュテファンは精神科医。近親者が木になってしまった人々を多く患者として受け持っていたが、妻ノーラがあと18年の猶予を捨てて"心臓に種植えてきた"といきなり報告してきたことで物語が動き始める。本作品は大きく三部構成になっていて、ノーラを"プランテーション"と呼ばれる農園から救い出すパート、彼女の心臓から種を取り出せる博士に会いに行くパート、博士の研究所のパートの順に展開される。特に世界観が視覚的に語られる第一部は衝撃的で、人間が文字通り"植えられ"て、葉脈の代わりに故人の指紋が浮き出るなどキモい設定も登場する。そこまでは良かったのだが、ノーラが意識を取り戻してからは一本調子だったように思える。特にノーラが若くしてプランテーションに行くことを決意した動機のようなものは一切語られないので、物語の根幹が空洞のまま枝だけ増えていってるような印象を受ける。人間を木に変えるという倫理的なテーマや50歳で木に変えられるために生きるという哲学的なテーマにも半歩踏み込んで逃げ出してしまう感じが勿体ない。後半のディストピア描写も、ロトスコープの手法が悪い方に作用して、あまり現実味を感じなかった。終盤の白い花のシーンで盛り返すが、少々遅すぎた感。

・作品データ

原題:Műanyag égbolt
上映時間:111分
監督:Szabó Sarolta, Bánóczki Tibor
製作:2023年(ハンガリー, フランス, スロバキア)

・評価:60点

・ベルリン映画祭2023 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
1 . エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン『20,000 Species of Bees』スペイン、ルチアとその家族について
2 . クリスティアン・ペッツォルト『Afire』ドイツ、不機嫌な小説家を救えるのは愛!
3 . リウ・ジエン『アートカレッジ1994』中国、芸術と未来に惑う青年たちの肖像
5 . マット・ジョンソン『BlackBerry』カナダ、BlackBerry帝国の栄枯盛衰物語
6 . Giacomo Abbruzzese『Disco Boy』正面から"美しき仕事"をパクってみた
8 . アイヴァン・セン『Limbo』オーストラリア、未解決事件によって時間の止まった人々
10 . アンゲラ・シャーネレク『ミュージック』人間に漸近する神話のイデア
12 . セリーヌ・ソン『Past Lives』輪廻転生の恋と現世の恋
17 . 新海誠『すずめの戸締まり』同列に並ぶ被災地と遊園地
19 . リラ・アヴィレス『Tótem』メキシコ、日常を演じようとする家族の悲しみ

★エンカウンターズ部門選出作品
1 . Wu Lang『Absence』中国、"不在"を抱えた都市への鎮魂歌
2 . ダスティン・ガイ・デファ『The Adults』大人になった三人の子供たち
9 . ホン・サンス『in water』ほぼ全編ピンボケ映画
12 . ポール・B・プレシアド『Orlando, My Political Biography』身体は政治的虚構だ
13 . ロイス・パティーニョ『Samsara』ラオスの老女、ザンジバルの少女に転生する
16 . Szabó Sarolta&Bánóczki Tibor『White Plastic Sky』ハンガリー、50歳で木に変えられる世界で

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