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ジュスティーヌ・トリエ『落下の解剖学』転落に至るまでの結婚生活を解剖する

2023年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品、パルムドール受賞作。ジュスティーヌ・トリエ長編四作目。英題"Anatomy of a Fall"から想像するのは、1959年公開のオットー・プレミンジャー『或る殺人 (Anatomy of a Murder)』であり、本作品でも同作のデューク・エリントンによるスコアを模倣した曲が登場するらしい(私には分からん)。どちらも上映時間が2時間半クラスの映画というのも意識してるんだろうか。物語はグルノーブルのにある雪に囲まれたシャレーにて、人気作家ザンドラが大学生からインタビューを受ける場面から始まる。すぐに上階にいる夫サミュエルが大音量の音楽を流してそれを邪魔し、インタビューは中断される。そして、盲目の息子ダニエルと大学生が同じタイミングで家を出た数時間後、犬の散歩から帰宅したダニエルは軒先で死んでいるサミュエルを発見する。以降は、サミュエルの死因を巡る裁判が延々と展開される。それによって、人気作家だったザンドラの影に隠れて、やりたくもない教職を続けながら執筆も進まず、ダニエルが盲目になった事故の責任を押し付けられて窒息死しかけているサミュエルの姿が浮かび上がってくる。そして、録音されていた喧嘩、バイセクシャルであるザンドラが浮気した過去、インタビュワーを誘惑していたんじゃないかという疑惑、ダニエルの事故、サミュエルの草稿をザンドラがパクった疑惑など様々な過去を掘り返すことで、検察側は必死に陪審員にザンドラ=悪女アピールをする。ただ、これは相互理解のない夫婦喧嘩の焼き直しというか、死んだ夫の代わりに弁護士を持ってくることで、"だってそう言ってたんだもんww"と取り付く島もないような返しをする面白みのない喧嘩を延々と続けているだけのように見えてくる。それが裁判じゃないかと言われたらそうなのかもしれないが、似たようなショットを繋ぎながら堂々巡りで結論の出ない会話を延々と続けるのは流石に退屈すぎるし、バカみたいなズームとか嘘くさいフィルムグレインとか含めて映像で語ることに興味がなさそうで引いた。しかも、検察の指摘する論点が若干ズレている気がして、どうでもいい会話で時間を消費するせいで、猛烈に怪しいリディア・ターみたいな人物であるザンドラ(弁護士とのやり取りを見る感じで、彼女がmanipulativeな人物であるとわかる)の魅力すら引き出せていないように感じた。作中ではダニエルの証言が重要となっているわけだが、彼が盲目なのもかなり記号的に扱われていて、正直"盲目の目撃者"とか言わせたいだけだろと思ってしまった。母親と父親の間で揺れる子供の感情やザンドラの善悪の曖昧さを二転三転する証言で表現する上で、見えないことがその簡単な説明になるから採用しただけでは。マジで褒める要素がほぼないんだが、みんな何を褒めてるんだろう?と思って海外評を見て回ったが、海外批評家もあらすじ書いて題名で遊んでるだけで、しっくりくるような説明はなかった。

・作品データ

原題:Anatomie d'une chute
上映時間:152分
監督:Justine Triet
製作:2023年(フランス)

・評価:40点

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