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アキ・カウリスマキ『枯れ葉』ある男女の偶然の出会いと偶然の別れ

2023年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。2024年アカデミー国際長編映画賞フィンランド代表。アキ・カウリスマキ6年ぶりの最新作。1986年製作の『パラダイスの夕暮れ』から『真夜中の虹』『マッチ工場の少女』へと連なる"労働者三部作"、に連なる第四篇という立ち位置らしい。物語は現代のヘルシンキ、スーパーで働くアンサと防塵マスクで何かを混ぜる仕事に就くアル中のホラッパが偶然に出会う、というもの。現代が舞台だが二人は『めぐり逢い』レベルのすれ違いを何度も繰り返す。かと思ったら、全く意図しない瞬間に呆気なく再会したりする。この絶妙な外し方は映画に緊張感を生み出している。とても良い。『見上げた空に何が見える?』とか『Here』とか、そういった作品が大好きなのだ。ただ、主人公男女が解雇されるのとか、救急車で運ばれたから会えなかったとかは『パラダイスの夕暮れ』で同じことやってたので、なんだかなぁと。前者については、労働者を取り巻く環境が変わってないことを示してるのかもしれないが、正直本作品はラジオからウクライナ侵攻のニュースが流れる以外で現代性があまり感じられない上に(天安門事件のニュースを見ていた『マッチ工場の少女』を思い出す)、言ってしまえばカウリスマキが作ってきたスタイルに則って作られているので、過去作の再生産と言った方が良さそうだ。カウリスマキ作品を観る度に感じる、わざとらしさへの嫌悪感と、あと一歩のところでハマりきらない物足りなさを、やはり今回も感じた。優しいアルモドバルみたいな色彩とかデッドパンコメディっぽい作劇とか好きな要素もあるんだが…カウリスマキは好きな人は多分全部好きで、苦手な人は多分全部苦手でしょ。あと、個人的に邦題は"落葉"の方が風情あっていいと思う。

・作品データ

原題:Kuolleet lehdet
上映時間:81分
監督:Aki Kaurismäki
製作:2023年(フィンランド, ドイツ)

・評価:70点

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