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記事一覧

「ジョーイ あるイギリス人脳性麻痺者の記憶」について

最近、脳性麻痺のかたの自伝のような本を続けて読んでいるけど、このジョーイさんはイギリスの人。発声が困難でほとんど理解してくれる人がいなかったけど、同じ脳性麻痺で出会った友人が彼の発語を理解してくれて、そこで一気に世界の幅が広がったそう。この本も、そうした彼の発語をその友人アーニーが解し、2人の仲間も含め、知的障害の程度も様々な4人のグループで文字化して、少しずつ少しずつ作成して完成させたそうだ。「

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坂井聡さん著「知的障害や発達障害のある人とのコミュニケーションのトリセツ」

とても読みやすく、エッセンスがぎゅっと詰められた本だった。自己決定を支援する。言葉にこだわらない、やり取りの成立を大事にする。合理的配慮とは、特別扱いすることである。あるいは、同じ土俵に上がることである。

1,おしゃれかっこよさについて。 「かっこいい」というのはこれからの特別支援教育を考える上で重要なキーワードである、という。障害のある人だって、持ち物はかっこいいほうがいいし、過ごす場所もおし

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井手英策さん「どうせ社会は変えられないなんて誰が言った?」

最近感銘を受けている井手英策さんの議論。共著の新書を何となく読んで、「何で消費税増税???」と、訝しく「幸福の増税論」を読んだのがきっかけでしたが、読む前と後では増税への見方が180度変わったかもしれないです。続いて、最新刊のこちらを読みました。(反対論も知っておこうと思い、正反対っぽい題名の菊池英博さんの「日本を滅ぼす消費税増税」も読みましたが、)

この本は、井手さん論じるベーシックサービスの

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医療観察法開始当初の反対論者の本を今になって読んだ ー”動き出した「医療観察法」を検証する”(2006年)

医療観察法開始当初に出た本だけど、

いやあ・・・ 医療観察法って、こんなに大反対されていたのか。。。

中島直先生も反対論者だったのか。。。

反対論の柱は自分の理解によれば、

・軽微な傷害によっても”とじこめ”保安処分が生じうる
・指定入院医療機関の数が少なく、遠い病院に入れられてしまうと、社会復帰がかえって困難
・鑑定入院の位置づけが曖昧

といったところだろうか。

少なくとも現在の現場

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幸福の増税論vs日本を滅ぼす消費税増税

井手英策さんの「幸福の増税論」を読んだ後、思考を相対化する目的で、対極に位置するように見えるこちらの本「日本を滅ぼす消費税増税」を読んでみました。ただ、2012年とやや以前の本。

読んでみたところ、意外と、菊池さんの議論は井手さんの議論と乖離しているわけではなかった。
新自由主義や小泉構造改革への批判など、立ち位置が重なっていたのは意外な発見でした。
分岐点となるのは、「消費税増税なしで、社会保

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熊谷晋一郎さんの取組む「雑誌」

本のような形だけど、雑誌という扱いのよう。熊谷晋一郎さんがリーダーをつとめる、定期刊行物。たまたま図書館の一角で見つけた。
今回のテーマは「みんなの貧困問題」。

障害がないとは、周囲から十分な配慮を受けている状態のこと。
「多様な人がいる社会、すばらしいよね。でも、近くには来ないでね」ではなく、敢えて関わる。配慮をする。

山森亮さんのベーシックインカム論も。所得が一定程度保障されれば、わるい「

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「障害者介助の現場から考える生活と労働」ー介助という深淵

「障害者介助の現場から考える生活と労働」ー介助という深淵

何気なく手に取ったけど、面白かった。障害者介助に関わる人たちによって、「介助」の本質に迫る様々な悩みや、ストーリーが描かれている。自分の中で統合しきれていないけど、非常に印象的な断片が数々あった。

たとえば、複数の方々が実名・匿名で、影響を受けたと名前を挙げていた新田勲さんの話。重い言語障害があるため、足文字を使って介助者に言葉を発声させる。そして足文字で闘う新田さん。

たとえば、野宿と介助の

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中島隆信「刑務所の経済学」を読んだ

排除するとかえってコストがかかりますよ、という観点から、失敗を赦す社会、再チャレンジを認める社会を構築していきましょうよ、と呼びかける本。結論としては、これも、優しさの本です。
逮捕、送検、懲役6月の実刑、満期出所、この流れの間、概算で130万円の税金がかかる。受刑者一人当たりの年間収容費用は300万円。他方、年間の生活保護費は単純計算でおよそ170万円。刑務所に入れてはいおしまい、ではなく、確実

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「ハームリダクションとは何か」薬物問題に対する一つの社会的選択。

「ハームリダクションとは何か」薬物問題に対する一つの社会的選択。

薬物依存に対しては、「処罰より支援を」。
この考え方自体は目新しくは感じないが、ハームリダクションは、断薬を目指さない。清潔な注射器等の器具を提供し、安全に薬物使用できる施設を用意し、健康的な窃取方法に関する情報を提供する。「ドラッグの使用自体は止まってもいいし止まらなくてもよい」と捉え、使用による被害(健康被害、感染症、失職・孤立・差別等)を減らすことを目的とする。
この考え方が衝撃的でした。例

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井手英策「幸福の増税論」。いつか直接お話を伺いたい

読む前の私「へー消費税増税論者? なんで増税が幸福につながるのか全然?????」
読了後の私「消費税増税は非常に有効な手段である」

読む前はなんで消費税増税なのか全くわかっていなかったですが、読んで説得されてしまいました。。。非常に勉強になりました。「成長」頼み、自己責任をうたう社会がいまどんな状況になっているかを著者は客観的に示し、成長に頼らなくても幸せに暮らしていける社会を目指そう、とよびか

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加藤博史・水藤昌彦編著「司法福祉を学ぶ」――連携のゴールは難題

この手の本はなかなかゴールが難しいのか。

それぞれ実務を担っている・担った多くの執筆者によって書かれているが、それだけ、いろんな話の寄せ集め・試食一覧という感もぬぐえなかった。どれも深入りまではできず、ダイジェストのようになってしまって誰向けの本なのか、いまいちわからなかった。

司法福祉の目指すところとしては、やはり今まで縦割りで終わっているところを横断的に多職種連携にやっていく方向かなと漠然

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越智啓太著「司法犯罪心理学」

司法犯罪心理学の教科書という位置づけだと理解しています。司法犯罪心理学といっても範囲が広いようですが、この本は犯罪原因論と犯罪者行動論を中心に扱っているとのことです。
前半は、ロンブローゾなどよく聞くっ犯罪人類学などの歴史的経過から。既知のものも多かったですが、様々な研究が整理されて紹介されておりわかりやすかったです。
「犯罪の原因としての大気中鉛濃度」(コラム1.3)の研究、大気中の鉛濃度の増減

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<責任>の生成を読んで

ふたりは、「自分の意思でやりました」と、過去を切断して責任をとったことにして、おしまいにするのは無責任だと言います。過去の遮断の解除が責任の前提条件になるという。これは「今後はもうしないようにする」という更生の観点がある「責任」観を前提にしているからこそ、出てくる考え方だと思います。責任を引き受けられる主体であることを前提に、「やったことに見合う罰を受ける」という応報の意味に留まる「責任」では出て

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死刑制度の無責任体制ー小坂井敏晶著「増補 責任という虚構」を読んで

死刑制度は、誰もが責任を感じさせないシステムになっているからこそ、維持可能である。
この指摘が、本当にショッキングでした。
 
第1章で、ホロコーストは、高度な組織化のもと作業分担が行われ、責任が分散化することによって可能だったということを具体的かつ丁寧に論じた後、第2章(表題は「死刑と責任転嫁」)で、終局的な死刑執行場面のまざまざしい描写にはじまり、死刑制度も分業体制がこれを支え責任が分散化され

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