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桐貴清羽(きりたかきよは)
2021年2月27日 07:08
「お母さんおおきに。行ってきます」兎の結は、タクシーにのって、街から少し遠い料理屋のお座敷へ向かった。 料理屋につくと、すでに地方の姉さんがたがついていて、一番下っ端の卯の結(うのゆう)は慌てて挨拶をした。どうやら今日は、舞妓は卯の結一人だけらしい。お座敷はいつもどおり進んでいき、5、6人の客も、芸妓の姉さんも酔いが回ってきたころ、卯の結は、自身に向けらている熱い視線に気がついた。
2021年3月7日 02:44
「結婚したんだってね。おめでとう」電話口。少し声が震えてしまったけれど、平静を装えていたと思う。かつて、本気で愛してしまったセフレは、どうやら結婚するらしい。私が初めて家に行って、シャワーを浴びたとき、女性物のケア商品が浴室にあったので、他にも女がいることは知っていた。だから、この人には本気になっちゃだめだと自分に言い聞かせていた。それでも、好きになってしまった。好きといってほ
2021年3月14日 03:52
「バレンタイン、一緒に過ごせないのなら、ホワイトデーは私にちょうだい」あなたは仕事だからと言っていたけれど、他の女性と約束をしていることなんて、わかってた。あなたは嘘をつく時、三秒見つめるのよ。「いいよ。ホワイトデーは一緒にいよう」「約束?」「ああ。約束」クロワッサンを食べる手を止めて、三秒の間の後、あなたは言った。わたしは、これで最後なのかもしれないと悟った。けれど、
2021年4月28日 10:37
気がつけば夜が明けていた。カーテンから漏れる光に、汗だくになった彼が照らされて、キラキラしている。あまりにも美しかったので、光を取り込むように、彼の額にキスをした。「悔しいんだ。世に出ている天才たちは、みんな幼少期に苦労している。苦労した奴はその後、例外なく輝くんだ。そういう風に作られているんだろう。どう頑張ったって、普通に幸せに育ってきた僕みたいなやつは勝てないんだよ。だから僕は、平凡
2021年6月18日 15:08
女は銀座に立つ料亭の裏で煙草を吸っていた。いつもはどんなに最悪な機嫌をも直し、心を落ち着かせるものであるそれが、ここ最近は、心を乱すものになっていた。「そろそろ辞め時かしらね」火が消えたことを確認し、料亭の中へと戻る。二階と一階に、常連の団体客。二階の客は都々逸やさのさを嗜むのが好きで、この女でなければ相手ができない難客だった。「〽憎らしい 憎い仕打ちは虫が好く 花を愛して嵐を憎
2021年8月6日 16:00
月曜日。夫のスーツに、銘柄の違う煙草が入っていた。私はセックスのあと、夫が放つバニラの香りが好きだった。今はただただ臭いだけ。火曜日。鏡台に並べた香水が減っていることに気がついた。ジュエリー販売の仕事をしていたとき、あえて男性向けのシャネルをつけていた。もう何年もつけていない。水曜日。子供が「おかあさん、これなぁに?」と聞いてきた。手に持っていたのはショッキングピンクのダサい紐パ