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【ショートショート】夫の変化

月曜日。夫のスーツに、銘柄の違う煙草が入っていた。
私はセックスのあと、夫が放つバニラの香りが好きだった。
今はただただ臭いだけ。

火曜日。鏡台に並べた香水が減っていることに気がついた。
ジュエリー販売の仕事をしていたとき、あえて男性向けのシャネルをつけていた。
もう何年もつけていない。

水曜日。子供が「おかあさん、これなぁに?」と聞いてきた。
手に持っていたのはショッキングピンクのダサい紐パン。
もちろん私にそんな趣味はない。
子供の手からそっと抜き取って「お掃除しよっか」
頭がジンジンするのを無視しながら、割り箸に結びつけた。ピカピカになったはずの排水溝は何も流してはくれなかった。

木曜日。スーツがうっすらと白くなっていた。雑に拭き取ったのか、スーツが毛羽立っている。胸ポケットにはピンクの名刺。キラキラの名刺には「夢美雨まろん」と書かれていた。趣味は悪いが、夫らしいなと思った。

金曜日。「遅くなる」とのLine。夜食をつくる手が震えた。最近の帰宅は午前2時。もうしばらく、夫の夕食は作っていない。何時に帰ってこようがさほど変わりはなかった。でも、もう簡単には眠りにつけない。

土曜日。「お昼には帰ってきなさいね」子供を見送った後、夫が帰宅した。
「ごめん。潰れてた」スーツも髪も乱れた姿で言った。
とりあえず風呂に入ってもらい、出てくるのをリビングで待つ。コーヒーが冷めきった頃、パンツ一枚で出てきた夫は、唐突に「離婚しよう」と言った。思いつめた表情に胸が痛くなる。でも、ちゃんと話し合いたい。このまま終わりにはしたくない。今は冷めきっていたとしても、かつては確かに、愛し合っていたはずだから。

日曜日。子供を親に預け、名刺に書かれた店に来た。深呼吸をして扉を開く。
「はじめまして。夢美雨まろんです」アリュームオムエディシオンの、オリエンタルな香りを身にまとったその人は、真っ赤な口紅がよく似合っていて、照れ臭そうに笑う。
カルフォルニアレモネードでグラスを揺らし、戸惑いを飲み込んだ。
朝まで語らったのは、新婚以来だろうか。

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