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#120 リエゾン学級経営 第3章 「多数派にも少数派にも居心地のよいクラスづくり」

リエゾン学級経営とは?

中教審答申「令和の日本型学校教育」実現への課題

令和の日本型学校教育は、2020年代を通じて目指すべき学校教育の姿として、中央教育審議会において答申されたものです。
この答申では、全ての子供たちの可能性を引き出すために、個別最適な学びと協働的な学びの実現を重視しています。

個別最適な学びとは、一人ひとりの子供の興味・関心や学習状況に応じて、最適な学びを提供することです。
そのためには、子供の理解度や習熟度を把握し、その結果に応じて指導内容や方法を調整することが重要です。
また、子供自身が自分の学びを主体的に考え、計画・実行・評価できるような環境を整えることも大切です。

協働的な学びとは、子供同士が協力しながら学び合うものです。
そのためには、子供同士が協力し合うためのルールやマナーを身に付け、お互いに尊重し合いながら学び合えるような環境を整えることが重要です。
また、子供たちが主体的に学び合うことができるような課題や活動を設定することも大切です。

令和の日本型学校教育が目指す個別最適な学びと協働的な学びは、いずれも子供たちの主体性を育むことにつながります。
子供たちが自分の興味・関心や学習状況に応じて学び、お互いに協力し合いながら学び合うことで、自ら考え、行動できる力を身に付けることができるのです。

個別最適な学びは、「個に応じた指導」の理念を具体化するものとして位置づけられています。
支援を必要とする少数派の子どもたちは、診断の有無にかかわらず、さまざまな特性や課題を有しています。
そのため、一人ひとりの特性や課題に応じて、学習内容や方法を調整することが重要です。

協働的な学びは、「共生社会」の実現に向けた重要な取り組みとして位置づけられています。
支援を必要とする少数派の子どもたちは、多数派の子どもたちと共に学校生活を送ることになります。
したがって、多数派と少数派が互いに寄り添い合いながら学び合っていかない限り、共生社会の理解や共感力を育むことはできません。

この個別最適な学び・協働的な学びの実現の障壁となる課題が2つあります。
①特別支援教育のスキルアップ。
②多数派と少数派が互いに寄り添いあい、共感しながら学び合うことのできる学級づくり。

この2つを解消しない限り、令和の日本型学校教育は実現は絶対にできないと確信しています。

この2点を解消する学級経営手法が、リエゾン学級経営です。

このような現状や課題をふまえ、多様性を尊重し共に学び成長する新たな教育アプローチとしてリエゾン学級経営を考案しました。

この考え方のベースとなっているのは、多数派が使う「ふつう」という言葉の違和感からです。

多数派が使う「ふつう」には、どんな意味があるのでしょう?
「みんなと同じ」
「多くの人と同じ」
ではないでしょうか?

「ふつう、チャイム鳴ったら座るよね」
「ふつう、発言したいときは手を挙げるよね」
といったような使い方を、多数派の人達は無意識にしています。

そして、みんなと同じであることを「ふつう」としてしまったのが、日本の教育システムです。

ここで多くの人が使う「ふつう」には、おそらく悪意はありません。
「ふつう」であることで居場所を確保し、みんなと同じという安心感を抱きたいだけなのです。
ですが、結果的にみんなと同じようにできない子たちを少数派として追い込み、居場所をなくしていったことも事実です。
同調圧力という言葉は、まさにこの多数派優位の社会の状況が生み出した負の遺産と言えます。

日本は学制以降、一斉指導スタイルを原則として指導をしてきたため、一人の教師が、同じ課題を40人近くの子どもに教えてきました。

それゆえに、
「みんなと同じであること」が強要されてきた歴史があります。
それが積み重なって大きな負の財産となってしまいました。
令和時代の教育においては、この負の財産を払拭すべく、「ふつう」のパラダイム変換をしていかない限り教育の未来はありません。

「ふつう」という概念のパラダイム変換については↓をご覧ください。

リエゾン学級経営とは、
「少数派と多数派が互いに寄り添い合い、共に学び、クラス全員が成長するための教育的なアプローチのことです。」

※少数派とは学級で個別の支援を要する児童
※多数派とは個別の支援を必要としない児童

全員が多様性を尊重し、誰にとっても居心地のよい場、楽しく学びながら互いを認め合う学習環境を築き、目標に向かって努力しながら成長できることを目指します。

学級経営(ゴール設定)×心理的安全性(居場所づくり)×特別支援理解教育(多数派及び保護者への理解)=リエゾン学級経営

リエゾンとは、もともとフランス語からきた言葉です。
連携や結びつきを意味していて、医療現場でよく使われています。

これからの学級経営において、多数派と少数派の連携や保護者や校内外の人材との結びつきを強化し、互いの理解を深め合うことが必要不可欠であると感じ、

リエゾン学級経営と名付けました。

次の学習指導要領改訂では、特別支援教育の理解が一層求められる内容となることが予想されます。

そういう意味で、このリエゾン学級経営の理論は、令和時代における学級経営の基本となっていくはずです。

これまで
第1章:教室で困り感を示す子ども達が増加の原因
第2章:不登校児増加問題

について説明考察してきました。
さて今回は、

第3章 誰にとっても居心地のよい居場所づくり

について考察します。

クラス全員が居心地よくなるためには、心理的安全性が高くないといけません。
心理的安全性とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことです。
組織行動学を研究するエドモンドソン氏が1999年に提唱した心理学用語で、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義しています。

心理的安全性が高い組織では、メンバーは失敗や間違いを恐れずに新しいことに挑戦し、多様な意見を積極的に発言することができます。そのため、イノベーションや生産性の向上につながると考えられています。

心理的安全性を高めるためには、以下の3つの要素が重要です。

  • 信頼: メンバー同士が信頼し合い、互いの意見を尊重する関係を築く

  • サポート: メンバーが失敗や間違いを恐れずにチャレンジできる環境を整える

  • 共感: メンバーが自分の考えや気持ちを安心して発言できる雰囲気を作る

心理的安全性を高める具体的な方法としては、以下のようなものが挙げられます。

  • チームビルディングの実施: メンバー同士が顔を合わせ、お互いの価値観や考えを理解する機会を提供する

  • フィードバック文化の醸成: メンバーが建設的なフィードバックを受けられる環境を整える

  • 失敗を許容する文化の醸成: 失敗や間違いを学びの機会と捉える文化を根付かせる

心理的安全性は、組織のパフォーマンスを向上させるために重要な要素です。企業は、心理的安全性を高めるための取り組みを積極的に行うことで、イノベーションや生産性の向上を目指すことができます。

以下に、心理的安全性の高さを表す5つの特徴を紹介します。

  • メンバーが自分の考えや意見を率直に表現できる

  • メンバーが失敗や間違いを恐れずにチャレンジできる

  • メンバー同士が互いに協力し合う

  • チーム内に活発な議論が交わされる

  • チーム全体のパフォーマンスが向上する

心理的安全性が高まると、このような特徴が現れるようになります。

この考え方を、30人の学級における学級経営にあてはめて考えてみます。

心理的安全性を高めるためには、30人全員にとって居心地がよいクラスでないといけません。
仮に29人が居心地がよく、1人だけ居心地が悪いと感じているクラスがあったとします。
一人でも居心地が悪いと思っているのであれば、それは居心地のよいクラスとは言えません。
クラス全体の心理的安全性も高まることはありません。

この状態では、居心地が悪いと思う原因が、クラスに潜んでいます。
さらに、29人の中にも、同調圧力から居心地がよさそうに振舞っている子もいるはずなので、実際には、居心地がよいとは思っていない子はもっといます。

企業では、30人中1人、居心地がよくないと思ってる社員がいるからといって、そこに焦点をあてることはありません。
しかし、学校は教育の場です。一人も取り残さず成長させるという使命があります。

教育基本法には、

第一条 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。

第四条 すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。
2 国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。
3 国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない。

教育基本法

とあります。
どんなことがあってもこれを忘れてはならない原点です。
一人を取り残した状態で、人格の完成など目指せません。

全員が居心地がよいクラスと思えない限り、心理的安全性は高まらないのです。

そのためには、以下4つの前提条件が必要となります。

1.失敗から学ぶ姿勢を育む: 間違いや失敗を恐れず、それらから学ぶ意識を育みます。同調圧力を抑え、誰とでも自由な意見交換ができるようになることを目指します。
「おなじで~す」といった同調圧力につながる言葉は徹底的に排除していきます。

2.違いを受け入れる: 互いの価値観や考え方を尊重し、多様な意見や視点を受け入れる心を育てます。
「えっ?」という疑問から「あっ」という気付きのできる子を育てていきます。


3.助け合いを奨励する: 友達の困り感の原因が何か考え、寄り添うことのできる子の育成します。トラブル対処を絶好のチャンスと捉え、困り感に寄り添える子を増やしていきます。

4.嫉妬や妬みを排除する: 特別な支援をしている子に対して抱くずるいという感覚や、特別な個性をもつ子に対して抱くねたみの心を排除します。
特別支援理解教育を新学期すぐに実施します。

上記4つが浸透していないクラスにおいて、心理的安全性が高まることは絶対にありません。

リエゾン学級経営は、少数派と多数派が協力し合い、お互いを理解し合う教育的アプローチです。
心理的安全性の概念とも連動し、子どもたちが自己肯定感を高め、多様な価値観を尊重しながら学び成長する環境を創り出すのです。

特別支援理解教育は、学級経営のスタート地点であり、子ども達が安心して学べる土台を築く基盤となります。

リエゾン学級経営は、居心地の良さだけでなく、異なる背景やニーズを持つ少数派と多数派が共に学び合うことで、より大きな成長を遂げる学級環境が実現できる新しい経営手法なのです。

少数派を力で抑えこみ、多数派中心の学級経営をしてクラスが安定しているからといって、満足していてはいけません。
恥ずかしながら、なにを隠そう、若い頃の私です。

当然ながら少数派から大きな反発をもらったことがありました。
当然といえば当然の結果です。
少数派に寄り添わずに追い詰めたのですから。
今こうして振り返ってみると、なんて傲慢でひどいことしていたんだろうと反省しています…
お互いにとって大きなダメージでした。
そこで目が覚めたのです。
特別支援教育などほとんど関心がありませんでしたが、それ以降、本を読んだり、研修に参加するなど、必死に勉強しました。
そして20年の経験をもとに、このリエゾン学級経営を考案しました。

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一人でも多くの方がこのリエゾン学級経営に賛同し、実践していただけることを願います。
すべての子どもの幸せを祈って!

参考資料

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