夜について

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パーティーガール

喉が熱くなるほど飲んだ夜 力尽きて真冬の公園でうずくまって眠った 初めて飲んだお酒のほろ苦いオレンジジュースの味 思い出せるのは、もうそれだけになってしまった 特別に陽気な性格というわけではないが なぜか友達は多い方だった。 きっちり20歳になるまで飲酒をしなかった。 絶滅危惧種少女は今や、限界キッチンドランカーへと成り果てた。 楽しかった夜の記憶は段々と薄れて 炭酸の抜けたぬるいレモンサワーみたいになっている。 好きだったバンドマンにおすすめのお酒を教えてもらった日から

    • 2023年の記憶と2024年の記録

      頬があつくなるほど飲んだ 何か意味はあっただろうか 無意味になった片手で数えられるほどの愛 158.7cmから見える澄んだ青 いくら着飾っても敵わないあの子と同じラブレットの穴は 開ける前に塞いだ コンプレックスを煮詰めた皮肉な性格と無条件の肯定的配慮 過去も現在も未来も同時並行な私の世界は ずっと同じところで地団駄を踏んでいる 買って欲しかったお菓子の代わりに握りしめた10円ガムの味は今も変わらない 鋭利な冬の気温が突き刺さる パンクロックに救われた夜と急性アルコール中

      • 3つの夜を通した私の日々

        ぶっ飛んでるときに私を思い出した話 ぶっ飛んでた君を抱きしめたときの温もり 澱みの中に落ちた一点の滴のような存在だったのだろうか 会うたびに私を忘れていた人の曲が、偶然流れてきた 私の一人称が、私ではなかった時の話 個として存在することを深く理解する 集団に飲み込まれた概念が己であるという自覚を持ち始めた 遠くにいる自分が、いつまで経っても近づかない 捕まえたと思ったら、指の間をすり抜けて消えていく 止まった時間を過ごしていた夏休みは 今はもう静けさの中に置いてきた 私の

        • 散文3

          時々、自分の心は凍てついているのではないかと思う 度を超えた優しさは、人をダメにするなら 私は人類みんなダメにしてやりたい 世界に嫌気がさした頃 自分の存在が揺らいだ夜 駆け足で送られた現在地に向かっていた この優しさがぬるま湯なら そのうちに冷え切ってしまうのだろうと感じてた 君をすり抜ける私の言葉が地面に落ちる音がした 飲み干した缶チューハイを置く音が 地獄の鐘だとしたら 余程早くそちらに行きたかった 数回のキスでは足りなかった愛情について考える日々が続いていた 掬い

        パーティーガール

          流行病のような恋だった

          一夏の恋と呼ばれるものが蔓延る中 私だけが永遠を探してる 強くなるまでに飲んだお酒を無駄にしないため 明ける夜を待つ前に眠りにつく 覚えのある香水とすれ違うとき 思い出すのが君でよかったと思う いつも遅れる終電も その日だけはピッタリに来る 寝過ごしてしまった日だって 久しぶりの感情を抱きしめて30分歩いた もう二度と会いたくない人 もう二度と戻らない世界 握りしめた両手の力をゆっくりと緩めてみる 息を吸って吐く間に考えたことはもう考えない そう教えてくれた人はきっと私の

          流行病のような恋だった

          ネオン街とぬるいコンクリート

          蝉が死んでいた 確かに7月は7日を過ぎていて もう一つの夏が終わってしまったのかと思った いくつも打ち上がる花火の一つも見れないまま 私の夏は終わる 正直、花火は得意じゃない 一種の強がりから生まれた劣等感を肥大させる 大輪がなんなんだよ 冷凍みかんを頬張りながら見た地元の花火がもう何年も前の話だと言うことすら怖い つまりはあれは単なる爆発なわけで 呑気に上を見ている周りの人間がよほど恐ろしく思える そんなのは全て、前述した強がりであり こんなに屁理屈なヤツと花火を見たいだ

          ネオン街とぬるいコンクリート

          雨粒BPM

          乱雑に貼られた爪先の絆創膏を眺める 次の日の筋肉痛すら厭わない 痛くて変になる歩き方がバレないように 己を律して背筋を伸ばし 通りやすくなった空気を吸い込む 足を痛めるたびに愛おしさが増す 何枚にも重ねた絆創膏が意地になった自分の瘡蓋に思えた 女の子の靴は大体痛い 君が付けてる香水を知らない 付けているのかすら知らない 風に吹かれた私をいい匂いだと言ったことは覚えているけれど 君はきっともう忘れてしまっているし 私も香水を教えていない 夏の香りがした頃 君の面影に囚われた

          雨粒BPM

          便利な日々とたまの不条理

          気まぐれに開いたNetflixに新しい履歴が増えていた もう誰にアカウントを貸したかも覚えてない でも確かに、誰かが私の恩恵を受けて生きているという事実がそこにあった 押し付けがましい優しさが欲しいわけじゃない ただ私は、私が生きていた日々を 誰かがふとした時に思い出してくれることを 愛と呼び続けたい わかりもしないことについて議論を続ける哲学のように君が好きだった 過去形にできる幸せを噛み締めながら泡風呂の泡が潰れていく様を眺めている 難しい言葉は好きじゃない まだ遠い七

          便利な日々とたまの不条理

          親しい友達リストを作れない

          ホームに落ちた毛糸の塊が、誰かが置いていった命に見えた朝 もう誰に教えてもらったかも覚えていないアルバムの一曲目を再生したとき 自分に近い音が流れて、何も変わらないことに安堵した 八分休符ほどのスピードの呼吸を深めることに集中する日々を過ごし 速い曲を追い越した ませた口紅を塗った朝 いつもと違う場所に帰る 轢いてくれと願って渡った赤信号も 結局は死にすら見捨てられた私の一部だった いつだって自分の機嫌をとることを最優先した結果 誰のことも否定しない優しい怪獣になった 君が

          親しい友達リストを作れない

          同じシャンプー使ってたらもう家族だよね

          昔使っていた柔軟剤の香りがした こんな思いをするならマスクをしておけば良かったと ほんのりとした後悔を冷たい空気と一緒に吸い込む 年末の大掃除をするノリでSNSのアカウントを作り直した 心にはほんの少しの空白が必要なんだ 敷き詰められた思い出は 蝋燭が燃え尽きるように消えていくだろう 芯が倒れた頃 下北沢も私にとって何でもない場所になる 高層ビルの光は誰かが寝ずに働いているだけなのに 呑気にプレートのチョコレートをフォークで掬って眺めてる人間たちを思いながら 180円の品

          同じシャンプー使ってたらもう家族だよね

          a.m. 1:59

          知らない電車に乗った 好きな映画の主人公がいつも乗る電車の反対方面に乗ってみて 無駄に時間を過ごしたことをふと思い出す 雨の日に新しい靴をおろすことを教わった 最近は、視界が明るい 車線が何本もある交差点を歩く 信号機が横向きなことにも慣れて 東京の景色が殺風景に思えた いくら見渡しても山や木しかない地元の方が よほど豊かだと気づいた頃 何も持たないことが、最も豪奢だと言ったのは誰だっただろうか 心にできた余白に何を詰め込もうか考えている 痺れるほどに強く握られた右手の感

          a.m. 1:59

          高円寺に住んでる人は高円寺から出られないとかそういう話

          それはありふれた話で 一度目が合った ふたりになるには事足りる刹那 君の隣で君の夢を見た 浸かりすぎたぬるま湯にいる心地が もう少しだけ続けばいいと思った 胸騒ぎの行方を追いかけるのは先延ばしに 時計の針が一周したら 長い髪をあとひと撫でしたら くだらない言い訳を考える間に 何も知らないホームのアナウンスは 無感情に流れ続けていた 例えば コインランドリーを待つ30分間に読んだ本の一節だったり 夜中眠れずに観た映画のワンシーンだったりを 君に教えたくなった これを恋と呼ば

          高円寺に住んでる人は高円寺から出られないとかそういう話

          五畳半とロフト

          好きになるには十分な距離だった 吹きかけられた煙草の香りを纏って歩いた夜 星を隠すほどのネオンライトをくぐり抜けて 東京に出てきたことを痛感した 初めて降りる駅 徒歩数分の地下一階 あまりにも耳触りのいい声で 囁くというには少し乱暴な会話を数回 シャワーと一緒にその日の思い出も流れてしまうようで とびきり可愛くした自分が消えてしまうのが勿体無くて メイクも落とさずに寝た 10代がもうすぐ終わる そんな日だった ショートが好きだと言われたらすぐに切った ロングが好きだと言

          五畳半とロフト

          追憶

          時刻表も見ないで待つ電車 いつから渋谷から何も見ないで家に帰れるようになったっけ すっかり東京で暮らすのも慣れたはずなのに 人の中に紛れることは未だにできずにいて 誰かの手を必死に探している バケツをひっくり返したような雨に濡れた朝 びしょ濡れのスカートが脚に張り付いていた こういうとき 私は決まって一人きりで 雨の止んだ空は一点に落とした絵の具のように 青空が見えていた 運命というほど簡単ではなくて 偶然というほど単純でもなかった 6畳の部屋はほと

          追憶

          散文2

          膝を擦りむいて 泣かなかったら、偉いと褒められた 我慢するのを覚えたのは もう遠い昔の話 重ねた嘘が厚塗りのファンデーションのように重たくなる 綺麗に舗装された道路を歩くのが少し後ろめたくて、 通り過ぎる車の横暴さに嫌気が差す 肺に入れることのできない煙草の煙 風に乗った誰かの香水に咳き込む 好きなものには好きと言えるのに 嫌いなものには嫌いと言えない私は 屈託もなく笑うあの子になりたかった 大人ぶった自分の 子供じみた嘘 午前3時半 帰路に向か

          散文2

          大きな人

          春風が横切り 木々が頬を染める。 自販機のあったかい飲み物が消えてしまうのが寂しくて買ったコーンポタージュ。 ダブルベッドは相変わらず広すぎて 端っこで寝る癖はきっと直らない。 時間の流れが早くなったのか 私の足取りが重くなったのか いつの間にか重ねた歳を数える。 いよいよ両手足でも指を折れなくなった。 成人式の前撮りもしていなければ 今年やるらしい2年越しの式の日程すら把握していない。 もう大人だっていうのに 大人になるのが酷く怖い。 「こんな大人

          大きな人