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高円寺に住んでる人は高円寺から出られないとかそういう話

それはありふれた話で
一度目が合った
ふたりになるには事足りる刹那

君の隣で君の夢を見た
浸かりすぎたぬるま湯にいる心地が
もう少しだけ続けばいいと思った
胸騒ぎの行方を追いかけるのは先延ばしに
時計の針が一周したら
長い髪をあとひと撫でしたら
くだらない言い訳を考える間に
何も知らないホームのアナウンスは
無感情に流れ続けていた

例えば
コインランドリーを待つ30分間に読んだ本の一節だったり
夜中眠れずに観た映画のワンシーンだったりを
君に教えたくなった
これを恋と呼ばない世界なら
滅んで仕舞えばいいとまで思った

愛と恋の狭間にある小さな心に名前をつけたい
随分と肩身が狭そうで
しかし救い出すにも、窮屈で届かない
両の手の平は
心配性で持ちすぎた荷物で埋まっている
何かを得る為に何かを捨てなければいけないのなら
私は自分を捨てるだろうし
君はそんな私を拾ってくれるんだろう

先の見えない将来について考えると
いつも目の前が真っ暗になる
1秒先も読めない私は
よく何もない道でつまずく
そんな風にして過ごした日々の断片を
誰が知るわけでもなしに

これ見よがしな愛情を甘受して
紅茶に沈むシロップを眺める
氷が溶ける音が
静かに後ろ髪を引いた夏
秋を目の前に
握り返せなかった手について

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