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五畳半とロフト

好きになるには十分な距離だった
吹きかけられた煙草の香りを纏って歩いた夜
星を隠すほどのネオンライトをくぐり抜けて
東京に出てきたことを痛感した

初めて降りる駅
徒歩数分の地下一階
あまりにも耳触りのいい声で
囁くというには少し乱暴な会話を数回
シャワーと一緒にその日の思い出も流れてしまうようで
とびきり可愛くした自分が消えてしまうのが勿体無くて
メイクも落とさずに寝た

10代がもうすぐ終わる
そんな日だった

ショートが好きだと言われたらすぐに切った
ロングが好きだと言われたら懸命に伸ばした
意地になってた黒髪だって簡単に染めた
馬鹿の一つ覚えのように
好きだと言われたら好きだった
不確かな未来より
目の前にある幸せが大事だった
秋の空を知るには若すぎたかもしれない

これが運命じゃなかったら
2人をなんて呼んでいいのだろう
偶然にしては良く出来た愛だ
継ぎ接ぎだらけの心にある隙間に
溶け込むように
ずっと無くしていたパズルのピースが
見つかったように
笑ったときの目元が
初恋によく似ていた

慣れた手つきで窓を開ける
濡れた髪を撫でる風が心地よい
左肩にできたアザは
もう治りかけている

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