ＪＷ５７７　淡い塩

【伊勢遷宮編】エピソード36　淡い塩

第十一代天皇、垂仁すいにん天皇てんのうの御世みよ。

紀元前4年、皇紀こうき657年（垂仁天皇26）。

天照大神あまてらすおおみかみ（以下、アマ）の御杖代みつえしろ、倭姫やまとひめ（以下、ワッコ）は、御膳御贄みけおおみにえの処ところを定さだめ、伊勢いせ神宮じんぐうへの帰路きろに就ついた。

地図（御贄地：国崎嶋：鳥羽市国崎町）

地図（帰路）

垂仁天皇こと、活目入彦五十狭茅尊いくめいりひこいさち・のみこと（以下、イク）たち家族が同行し、大神主おおかんぬしの大若子おおわくご（以下、ワクワク）と、舎人とねりの乙若子おとわくご（以下、乙若おとわか）が付き従う中、伊波戸いわとという場所に差し掛かった時、ワッコは、唐突に宣言するのであった。　

系図（大王一行）

ワッコ「よし！　決めたぞ！　戸嶋としま、志波崎しばさき、佐加太岐さかたきの島しまを、御贄地みにえどころに定さだめようぞ！」　

ニッシー「それって、何処どこなの？」　

ワッコ「よく分かりませぬ。」　

ニッシー「えっ？」　

マス子「佐加太岐さかたきは、酒滝島さかたきしまとも書くみたいですねぇ。」　

ワッコ「三重県みえけん鳥羽市とばしの対岸に浮かぶ、坂手島さかてじまや答志島とうしじまの西側に有るようなのですが・・・。」　

地図（戸嶋、志波崎、佐加太岐の島）

シロ「詳つまびらかな処ところまでは、分からぬと申もうすか？」　

ワッコ「左様さようにござりまする。」　

イク「まあ、仕方しかたないね。海岸線も、二千年の間に、いろいろ変わってると思うし・・・。」　

カキン「父上？　ロマンにござりまするな？」　

イク「そういうことだね。」　

ワクワク「じゃあ、よく分かんないってことで、そろそろ、一休ひとやすみしない？」　

ひばり「どうして、そうなるの？」　

ワッコ「何なにか、意図いとするところが有るのでしょう。」　

こうして、一行が船を留め、休んでいると・・・。　

シロ「ん？　これは、どうしたことじゃ！」　

ワッコ「シロ兄上？　如何いかがなされましたか？」　

シロ「鰭ひれの大きな魚や、小さき魚が、船に群むらがり集あつまっておるのじゃ！」　

ワッコ「あっ！」　

乙若おとわか「貝津物かいつものも集あつまって参まいりましたぞ！」　

ニッシー「貝津物かいつもの？」　

ロミ子「貝かいのことにござりまするよ。」　

ダッコ「ひいおばあさま！　そんなことを言っていたら、沖おきの藻もや、岸部きしべの藻もまで、寄よって参まいりましたぞ！」　

マス子「気味きみが悪いわぁ。」　

イク「まるで、食べてくださいと言ってるみたいだね。」　

ワッコ「これは、神意しんいなのでしょうか？」　

イク「そうかもしれないね。ワッコ・・・海の塩を舐なめてごらん。」　

ワッコ「えっ？　なにゆえにござりまするか？」　

イク「これだけ集まってくるということは、潮しおの流れが和やわらいでいるってことだと思うんだ。だから、舐なめてみると・・・うん。やっぱり、薄うすくて、淡あわいね。」　

ワッコ「えっ？　で・・・では、私も・・・あっ！　淡あわい！」　

ワクワク「こうして、この海のことを『淡海おうみの浦うら』と呼ぶようになったんだよ！」　

ひばり「このために、一休みしようと申したのですね？」　

ワクワク「その通り！　ちなみに、二千年後の鳥羽市とばし小浜町おはまちょう付近の海だと言われているよ！」　

地図（淡海の浦）

そして、一行は、西へと進んでいった。　

ワッコ「あっ！　七つの島が有りまする。」　

ひばり「ホントね。なんて言う名前なのかしら？」　

乙若おとわか「それが、良く分かりませぬ。作者は、飛島とびしまではないかと考えておりまするが・・・。」　

イク「ロマンってことだね。」　

シロ「そこから、南へ行くと、海の塩が、淡あわく、甘あまくなって参まいったぞ。」　

ワクワク「そこで、ここにあった島を、淡良伎島あわらきしまと名付なづけたんだよ！　何処どこに有るのかって？　聞いちゃダメだよ！」　

イク「ロマンってことだね。」　

マス子「ちなみに、海の名は、伊気いけの浦うらと名付なづけられたんですよ。」　

カキン「二千年後は、池いけの浦うらと書かれておりまする。」　

地図（伊気の浦→池の浦）

すると、そのとき、一柱ひとはしらの女神めがみが、一行の前に現あらわれた。　

女神めがみ「ついに、来たのね。」　

ワッコ「えっ？　汝いましは、何者なにものじゃ？」　

女神めがみ「そう！　私が！　私こそが！　須佐乃乎命すさのお・のみことの御玉道主命・みたまのみちぬし・のみことよ！　汝なれたちに御饗みあえを奉たてまつっちゃうわよ！」　

ワッコ「かたじけのうござりまする。それと、名が長いので、淡海子神おうみこのかみと名付なづけまする。通称は『ミーコ』で如何いかがでしょう？」　

ミーコ「いいじゃない。とっても、いいじゃない。」　

シロ「気に入ってくれたようじゃぞ。」　

ミーコ「さあさあ、食べていいのよ！」　

唐突な神の登場。

どうなるのであろうか？　

次回につづく