JW598 千本剣
【垂仁経綸編】エピソード20 千本剣
第十一代天皇、垂仁天皇の御世。
ここは、伊勢国の五十鈴宮。
二千年後の三重県伊勢市に鎮座する、伊勢神宮の内宮である。
天照大神の御杖代、倭姫(以下、ワッコ)の元に、ある人物が、帰還の挨拶に訪れていた。
その人物とは、大若子こと、大幡主(以下、ワクワク)である。
ワクワク「・・・ということで、大幡主の名前を貰ったんだよね。」
ワッコ「左様か・・・。つつがなく、反乱は平定されたのじゃな・・・。」
ワクワク「・・・ということで、阿彦平定に使った剣を祀っちゃうよ!」
ワッコ「そ・・・そうなるのか?」
ワクワク「当たり前でしょ! その名も、草奈伎神社だよ!」
ワッコ「剣の神霊を祀り、国の鎮護に役立てようと申すのじゃな?」
ワクワク「その通り!」
ワッコ「して、大幡主よ。鎮座地は、何処になるのじゃ?」
ワクワク「三重県伊勢市の常磐だよ!」
ワッコ「左様か・・・。して、社の名は、如何なる意で、名付けられたのじゃ?」
ワクワク「剣と言えば、草薙剣ってことで、その名に肖って、名付けられたみたいだね。」
ワッコ「草薙剣? 聞いたことが無いが?」
ワクワク「当たり前でしょ! 日本武尊が産まれてないんだから・・・。」
ワッコ「異国の言の葉で言う、フライングじゃな?」
ワクワク「その通り!」
こうして、なにはともあれ、草奈伎神社が創建されたのであった。
そして、時は流れ、西暦10年、皇紀670年(垂仁天皇39)10月。
ここは、茅渟(大阪府南部)の菟砥川上宮。
二千年後の大阪府阪南市の菟砥川上流・・・。
この宮は、垂仁天皇の皇子、五十瓊敷入彦(以下、ニッシー)の住まいであった。
そこに、稚城瓊入彦(以下、カキン)が訪れていた。
カキン「兄上? ニッシー兄上?」
ニッシー「河上! あと少しだよ! 頑張って!」
河上「ははっ。」
カキン「兄上?」
ニッシー「おお! 『カキン』じゃないか! いつから、そこに居たんだ?!」
カキン「かなり前から・・・。」
ニッシー「それで? どうしたの?」
カキン「久しぶりに兄上に会いたいと思い、罷り越しましたる次第にござりまするが、これは、如何なることにて?」
ニッシー「見れば、分かるでしょ? 剣を造ってるんだよ。」
カキン「我が言いたいのは、なにゆえ、剣を造っているのかと・・・。」
ニッシー「なにゆえって、戦には、剣が要り様でしょ?」
カキン「は・・・はぁ・・・。」
ニッシー「そうそう・・・。こいつは、河上って言うんだ。腕のいい鍛冶なんだよ。」
河上「お初にお目にかかりまする。」
カキン「こ・・・こちらこそ・・・。」
ニッシー「さぁさぁ、あと少しだよ! 河上! 頑張れ!」
河上「ははっ。」
カキン「兄上? かなりの数の剣にござりまするが、何本、造られる、おつもりにござりまするか?」
ニッシー「何本って、一千口に決まってるでしょ!」
カキン「一千口?! 千本も造られると?!」
ニッシー「そうだよ。剣の名前も、決めてあるんだ。」
カキン「何という名で?」
ニッシー「川上部だよ。またの名を、裸伴だ!」
カキン「川上部とは、兄上の名代部のことでは、ありませぬか?」
ニッシー「名代部?」
カキン「読者のためですな・・・。名代部とは、兄上の身の回りの世話をする者たちのこと・・・。舎人や采女といった者たちのことですな・・・。」
ニッシー「なるほど・・・。分かりやすく言えば、僕の家来ってことだね?」
カキン「まあ、とにかく、兄上の名代部である、川上部が造った剣ゆえに、川上部と名付けられたのでしょうな。」
河上「皇子! ついに、最後の一口にござりまするぞ。」
ニッシー「おお! ようやく・・・。ようやく、一千口、出来たか!」
こうして、なぜか、千本の剣が造られたのであった。
つづく
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