ＪＷ６４８　柏峡の大野

【景行征西編】エピソード19　柏峡の大野

第十二代天皇、景行けいこう天皇てんのうの御世みよ。

西暦82年、皇紀こうき742年（景行天皇12）10月。

景行天皇こと、大足彦忍代別尊おおたらしひこおしろわけ・のみこと（以下、シロ）の一行は、五人の土蜘蛛つちぐもを討伐とうばつするため、来田見邑くたみ・のむら（大分県竹田市たけたし久住町くじゅうまち仏原ぶつばる）に行宮かりみやを設もうけた。

後のちの宮処野みやこの神社じんじゃである。

地図（来田見宮→宮処野神社）

宮処野神社（拝殿）

筑紫行幸参加者名簿

そして、この物語のオリジナル設定で、日下部くさかべの君きみの大屋田子おおやたこ（以下、おやた）が、北を討うつと見せかけて、南を討つという策さくを披露ひろうしたのであったが・・・。　

いっくん「オリジナル設定！？　どういうことやねん！」　

おやた「『日本書紀にほんしょき』では、誰が言い出したのか、詳くわしく書かれておりませぬゆえ・・・。」　

シロ「とにかく、南に向かうにしても、道なき道を進むほかないのであったな？」　

おやた「御意ぎょい。」　

タケ「して、どのようにして、道なき道を進むのじゃ？」　

おやた「海石榴つばきの木きを採とり、それを以もって、椎つちを作りまする。」　

椎

ナッカ「海石榴つばきって、何なんすか？」　

おやた「椿つばきの別の書き方にござる。」　

椿の木

えっさん「して、その椿つばきの木で、椎つちを作るのであらしゃいますか？」　

おやた「うむ。その椎つちで、山を穿うがち、草や木を切り払い、道を作ってゆくのじゃ。」　

シロ「ふむ・・・。面白おもしろい・・・。やってみても、良いかもしれぬのう・・・。」　

こうして、急遽きゅうきょ、海石榴つばきの椎つちを作り、勇いさましい者を選えらんで、それを授さずけたのであった。　

やぁちゃん「なにゆえ、勇ましい者を選んだのです？」　

シロ「力ちからの要いる務つとめじゃ。勇ましくなくては、捗はかどらぬであろう？」　

ヤヌシ「ちなみに、時の人は、椎つちを作った処ところを海石榴市つばきちと呼ぶようになったなり！」　

百足ももたり「それは、二千年後の地名で申もうせば、何処いずこになりまするか？」　

ヤヌシ「きっと、行宮かりみやの近くなり！」　

夏花なつはな「ロマンということか・・・。」　

シロ「よし！　では、我われらは南へと進む。妃きさきや皇子みこたちは、行宮かりみやに残れ。して『タケ』先生には、行宮の護まもりを御願おねがい致いたしまする。」　

タケ「かしこまりもうした。」　

もち「大王おおきみ！　戦勝せんしょう祈願きがんも必要やじ！」　

シロ「戦勝祈願？」　

もち「大富おおとみ神社じんじゃにて、平定へいていを祈いのったんや。」　

大富神社（鳥居）

大富神社（拝殿）

影媛かげひめ「して、何処いずこに鎮座ちんざしているのです？」　

もち「福岡県豊前市ぶぜんし四郎丸しろうまるやじ。」　

地図（大富神社）

シロ「かなり、離はなれた地ではないか！」　

たっちゃん「まことに、この伝承と絡からむ社やしろなのか？」　

もち「そんげなコツ、言われても、岩窟いわやの土蜘蛛つちぐもを討うった折おり、こちらの社やしろに対し、平定を祈いのるよう、勅命ちょくめいが下くだされたと・・・(;^_^A」　

シロ「さようなれば、致いたし方かたなし・・・。では『ヤヌシ』よ。汝なれは、大富おおとみ神社じんじゃに向かうべし。」　

ヤヌシ「わかったなり。頑張がんばるなり！」　

準備が整ととのった一行は、道なき道を進みながら、南へと向かった。

地図（道なき道を）

そして・・・。

シロ「ついに、辿たどり着ついたぞ！」　

野見のみ「ここが・・・柏峡かしわおの大野おおの・・・。」　

ナッカ「二千年後の大分県竹田市たけたしは、荻町おぎまち柏原かしわばるの辺あたりと言われてるっす。」　

地図（柏峡の大野→竹田市荻町柏原）

シロ「ん？　大きな石が有るぞ。」　

小左おひだり「ふむふむ・・・。長さ六尺ろくしゃく、広さ三尺さんしゃく、厚さ一尺いっしゃく五寸ごすんの石ですな・・・。」　

シロ「二千年後の言いい方かたに直なおすと、どうなるのじゃ？」　

小左おひだり「そうですなぁ・・・。長さが、約180㎝、広さが、約90㎝、厚さは、約45㎝になりますなぁ。」　

ワオン「して、この石が、どうしたのでござるか？」　

シロ「うむ。この石を以もって、誓約うけいをおこなおうと思う。」　

ワオン「誓約うけい？」　

シロ「この石を蹴ける。土蜘蛛つちぐもを滅ほろぼすことが出来できるなら、柏かしわの葉はのように舞まい上あがれ。」　

柏の葉

夏花なつはな「あっ！　舞い上がりましたぞ！」　

いっくん「信じられへん！」　

シロ「よし！　この石を『蹈石ほみし』と名付なづけようぞ。」　

モロキ「このようなことが、起おこり得うるのですな・・・。」　

シロ「神々が味方しておる証あかしじゃ。して、三柱みはしらの神に、祈いのりを捧ささげようと思う。」　

えっさん「何なんという神様にあらしゃいますか？」　

シロ「志我神しがのかみ、直入物部神なほりのもののべのかみ、直入中臣神なほりのなかとみのかみじゃ。」　

ウナ「聞いたことが有りませぬな。」　

シロ「後のちに、この地は、直入県なおいり・のあがたになったという・・・。もしかすると、地元に根差ねざした神なのやもしれぬのう。」　

いっくん「物部もののべと中臣なかとみの字じも、気になりますわ。わてら、物部一族や、中臣一族が祀まつってた神を分祀ぶんししたのかもしれませんねぇ。」　

シロ「うむ。ロマンじゃのう。」　

討伐に先立って、祭祀さいしは続くのであった。