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地方中小企業の経営者に伝えたい、自社の表現に適した「社外デザイナー」の見つけ方

「良いものを作っているのに、なかなか伝わらない」「良い取り組みが世の中に広まっていない」。地方中小企業の経営者の中には、もどかしい思いを抱えている人もいるだろう。

僕もまさに同じ思いで、自ら代表を務める宮城県の工務店、株式会社あいホームでは約2年前から企業ブランディングに力を入れている。

その活動を大きく前進させた要因を語るうえで、社外デザイナーについて触れないわけにはいかない。

自社の魅力を広めるために、僕たちにデザインの力が必要なことは明らかだった。しかし、新しく社員を採用するほど常にデザインの仕事があるかというと、必ずしもそうではない。そこで社外デザイナーの出番だ。

どのように自社に合うデザイナーを見つけ、共に歩む関係を構築したのか。参考までに「Design office Ay」のフリーランスデザイナー青野哲也さんとの出会いを紹介する。


社外デザイナーの必須要件は「理解者」であること

デザインとはコミュニケーションだ。流行のデザインフォーマットに自社をはめ込むのではなく、自社を表現するためのデザインを新たに生み出す必要がある。

そのためには、社外デザイナーは「デザインのプロフェッショナル」であると同時に「自社の理解者」であることが不可欠だ。

そこで、あいホームが手がける地域活性化プロジェクト「東北ふるさと体験」でお世話になった、画家の古山拓先生にデザイナーを探していることを相談してみた。

プロジェクトを通して、あいホームの目指す姿や地元への思いを共有した古山先生なら、僕の考えに合うデザイナーを紹介してくれるのではないかと期待したからだ。

そうして出会ったのが、青野さんだった。

今回、僕は画家の先生を頼ったが、相談相手は必ずしもクリエイターではなくてもいい。古山先生は、青野さんを「(会社や個人の思いに)向き合うデザイナーです」と言って紹介してくれた。企業が社外デザイナーを探すうえで大事なのは、その一点に尽きるといってもいいだろう。

青野さんと一緒に仕事をするようになってからは、デザインへの感度が上がり、日常の中で「良いデザイン」を見つけたら誰が手がけたものかを持ち主に尋ねるようになった。

もしデザイナーが見つからず困っている経営者がいたら、まずは身近で琴線に触れるデザインを探すのもおすすめだ。

まずはデザイナー個人を知ることから始めよう

写真右:青野さん、左:僕の弟。

実は、青野さんに出会ってすぐにデザインの制作を依頼したわけではない。

青野さんに本格的にデザインを依頼する前に、まずはあいホームがどんな会社かを知ってほしくて、あいホームの注力エリアを車で案内した。今では社内の恒例行事となった「カレーの会」にも招待。僕自身を含めた当社メンバーの素の顔を見てほしかった。

結果的に、青野さんはあいホームを誰よりも知るデザイナーとなり、自社に最適なデザインを作ってくれている。

しかし、この進め方を全ての人におすすめするわけではない。企業がフリーランスデザイナーと付き合っていくうえで意識しなければならないのは、制作物にのみ報酬が発生するということだ。全てのデザイナーが報酬外のコミュニケーションを歓迎するわけではないだろう。

では、なぜ青野さんとはそのようなコミュニケーションをとったのか。理由は一つで、青野さん自身がそう望んでくれたからだ。

僕は、初めて相手と知り合うとき、出身や趣味に加え「最近、課題に感じていること」を尋ねるようにしている。その場限りではない、長く続く関係を築くには相手の本質を知ることが大切だ。

これは営業時代に身につけたコミュニケーションスタイルで、経営者となった今も、相手がお客様であるか否かに関わらず何か力になりたいという思いで続けている。その根底には、地元加美町に根付いた「(ゆい)」という助け合いの精神があるのかもしれない。

僕が課題感を尋ねたところ、青野さんは「クライアントを知る機会が少ない」「本質的に相手が求めているものが見えにくい」と話してくれた。代理店を経由してデザイナーが依頼を受けるケースも少なくないだろう。このスタイルは、クライアントと直接やりとりをするコミュニケーションコストを抑えられる反面、クライアントと距離が開いてしまいがちだ。デザインに対しフィードバックを受ける機会も少ないという。

それをメリットと感じるデザイナーもいるかもしれないが、青野さんは違った。クライアントをより深く理解し、最適なデザインを作りたいと考えるデザイナーだった。

デザイナーを探し始めた当初、チラシの制作を依頼するつもりだった。それに対し、「まずは御社を知りたい。本質的に御社を理解しない限りはデザインのしようがない」と青野さん。そもそもチラシが表現方法として正解かわからない、一緒に考えたいと言ってくれたのだ。

仮に初回のミーティングでチラシの制作を依頼し、作ってもらっていたとしたら、それきりの関係で終わっていたかもしれない。青野さんの言葉が、僕たちの関係をつないでくれた。

「依頼する側」「依頼される側」の壁を越えるには

僕が以前から注力している活動の一つに、端材を活用して新たな価値を生み出す「クリエイティブユース・プロジェクト」がある。その一環として、端材で作った家具を自ら直接販売している。

いつものように朝一で売り場に立っていると、その様子を見た青野さんがこう提案してくれた。

「謙さん、この取り組みを『SUTENAI』というちゃんとした取り組みにデザインしませんか?」と。

この言葉を聞いて、僕は感動した。「依頼する側」「依頼される側」という壁を越え、共に歩んでいる実感が得られたからだ。

もし社外デザイナーに踏み込んだ提案を期待するのであれば、互いを知り合うことに加え、フラットな関係の構築を意識するといいかもしれない。

僕は常々「依頼する側」「依頼される側」という立場は絶対的ではないと思っている。状況によっていかようにでも変わり得る。

では、そのたびに相手への接し方を変えるのか? 対お客様のときだけ丁寧なコミュニケーションをとり、相手によって自分を演じ分けるのか?

少なくとも僕は、誰に対してもフラットでいたい。ありがたいことに、周りからは「謙は裏表がない」と言われる。人間である以上、少なからず裏表はあるはずだが、僕は表の面積をできるだけ広くしようと心がけている。

自分自身が、演じ分けることに疲れを感じる性分だからだ。

そして、フラットに意見交換ができる関係性は、提案しやすい空気感を生み出す。共に歩む社外デザイナーを求めているのであれば、「依頼側」という自身の立場から抜け出すことも大切だ。

社外パートナーと共に作り上げたロゴデザインの効果

青野さんの提案を受け、生まれた「捨てない」ロゴがこちら。

端材家具の販売、子ども向けDIYワークショップの実施、燃料および多用途での無償提供を軸としたプロジェクト。

実は、ロゴのデザインは最初からこのかたちではなかった。青野さんと会話を重ね、共に理想のデザインを追求した結果だ。

最初はローマ字やカタカナ表記だったが、思いの強さを表すために漢字表記を採用した。

ロゴの効果は絶大だった。以前は「なぜ、そんなことをしているのかわからない」と言われがちだった活動に「捨てない」という名前が付き、デザインが加わることで「良い活動ですね」と言われることが多くなった。

デザインを公開して以降、活動に共感してくれる仲間も増えた。特別支援学校の工作の授業で端材を使いたいと申し出てくれた人。仙台市に新しくオープンするカフェに、端材の家具を置きたいと言ってくれた人。改めて、デザインの持つ力を肌で感じた出来事だった。

仙台市のカフェ「GOOD LUCK COFFEE ROASTERS」の店舗前に設置された、端材のサイクルスタンド。
「捨てない」ロゴの焼印が押されている。
店内の椅子も「捨てない」ブランド。シンプルながら安定した座り心地だ。

デザインによって得られた反響は、こまめに青野さんにフィードバックしている。それが、次のデザインアイデアやモチベーションの維持につながったら嬉しい。

社外パートナーを巻き込み、強固な関係を築けば、僕たちはもっと大きくなれる。ぜひ、自社に合う仲間を見つけてみてほしい。

編集/三代知香

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