Keiko-Y

人前でじぶんのことを語るなんて、堕落よ

Keiko-Y

人前でじぶんのことを語るなんて、堕落よ

マガジン

  • はなあそび 万華鏡

    まるいの、まるいの、

記事一覧

固定された記事

大罪の清算

「日比谷のエレベーターの中で刺されて死んじまったひとがいてさ」 夏の終わりの湖を背に父はそう言った。 小さな民宿を営む実家のお客用の食堂を私たち家族はホールと呼…

Keiko-Y
1年前
61

成果発表の原稿はただの思い出

職業訓練という選択とその成果 〜冒険の終わりと新たな旅のはじまり〜 『葬送のフリーレン』という美しい物語をご存知でしょうか。 この物語は、一風変わっており、魔王…

Keiko-Y
3か月前
79

ののけのはなに

 春のはじめにいぬを見送り、暑い夏の日に父を、そしてほんの数日前、ぐんと冷えた秋の日に母を送った。  父の知らせを受けた時には、声をあげてわんわん泣いた。けれど…

Keiko-Y
8か月前
32

あのこは泣いてていいいのに、
わたしは笑わなきゃならないなんて
どうして?
ねぇ、
そのワケを教えてよ

Keiko-Y
9か月前
13

やさしい春巻き

 お祭りのボランティアには参加しなかった。  社長の急な思いつきで、ベトナムからやってきた技能実習生ふたりは、地域のお祭りで、手作りのベトナム料理を振る舞…

Keiko-Y
11か月前
27

きょう人と話してわかったこと

救いということばがいつも胸をしめつける。 だれの救いにもなれないくせに、だれかに救われることばかり願っている。 そしていつだって救いの手を差し伸べてくれる人はいる…

Keiko-Y
1年前
20

あいしてる

外はよく晴れているようだ。 天窓に切り取られた青空には雲ひとつなく、さわさわと鳴る音が聞こえそうなほど竹の葉が大きく揺れている。 室温が設定温度を優に超えたヒータ…

Keiko-Y
1年前
17

春の予感

ダンコウバイの花芽は、まだ頑なな姿でいた。 ひとりでのぼる坂道は、息が上がってさみしくつらかった。 どれだけ支えられ、癒されていたか。 いやというほど思い知ること…

Keiko-Y
1年前
12

ねがいごと、ひとつ

なにげに、うっかり、きゃっちゃんはもうお散歩に行けないのかなあ、なんて考えてしまって、なみだが出る。 ああ、きゃっちゃんというのは、同居のいぬのこと。 わたしの、…

Keiko-Y
1年前
17

限度とか、限界とか、

あれきり、いぬはごはんを食べず、吐いたり下痢をしたり、また散々で、おまけに、おまけにっていうのもなんだけれど、今朝の早い時間にてんかん発作を起こした。 けいれん…

Keiko-Y
1年前
9

うつろ、ろ、ろ、

破れた障子の向こうで竹の葉が揺れて、その隣で朝の光が影絵のような模様を描いていた。 無気力な笑顔に精一杯の力を込めて、ただ眠るばかりの横たわるいぬを見る。 ぽろ…

Keiko-Y
1年前
11

矛盾

いま、空っぽのような状態。 一緒に暮らしているいぬの体調が悪く、きのうの夜からほとんどごはんを食べていない。どんなだってわたしはモリモリ食べるのにね。なんとも言…

Keiko-Y
1年前
9

愛しい

Keiko-Y
1年前
16

甘くない玉子焼き

平日は毎朝、娘のお弁当用の玉子焼きを焼いている。 うまくいったり、いかなかったりしている。 最初は小さな丸いフライパンで焼いていたけれど、そのフライパンの端のほう…

Keiko-Y
1年前
14

いぬが笑ってる。
わたしも笑う。

Keiko-Y
1年前
15

天窓にまあるい月。

きょうはなにも書けないや。

Keiko-Y
1年前
7

大罪の清算

「日比谷のエレベーターの中で刺されて死んじまったひとがいてさ」

夏の終わりの湖を背に父はそう言った。
小さな民宿を営む実家のお客用の食堂を私たち家族はホールと呼んでいた。
その日、湖に面したそのホールで父と私は別々の作業をしながら話し込んでいた。
よく晴れた夏の終わりの午後、微かに波立つ湖は降り注ぐ日差しにキラキラ輝いていた。
私は小学校5年生くらいだったろうか。
父はそれより35歳年上の、禿げ

もっとみる
成果発表の原稿はただの思い出

成果発表の原稿はただの思い出

職業訓練という選択とその成果
〜冒険の終わりと新たな旅のはじまり〜

『葬送のフリーレン』という美しい物語をご存知でしょうか。

この物語は、一風変わっており、魔王を倒した勇者一行の「冒険の終わり」から始まります。

そしてこの物語は、冒険の後日譚でもあり、新しい旅のはじまりを描いたものでもあります。

物語の主人公は、優に千年を超えて生きるエルフという種族の魔法使いフリーレンです。

彼女は、共

もっとみる
ののけのはなに

ののけのはなに

 春のはじめにいぬを見送り、暑い夏の日に父を、そしてほんの数日前、ぐんと冷えた秋の日に母を送った。

 父の知らせを受けた時には、声をあげてわんわん泣いた。けれど、その四十九日もあけきらないうちに届いた母の知らせには、ああ、こんなことってあるんだ、と、ただ空っぽのように空を仰いだ。

 本当に
 そんなことってあるんだ

 父にも母にももう何年も会っていなかった。
 父が安置されていたセレモニーホ

もっとみる

あのこは泣いてていいいのに、
わたしは笑わなきゃならないなんて
どうして?
ねぇ、
そのワケを教えてよ

やさしい春巻き

やさしい春巻き



 お祭りのボランティアには参加しなかった。

 社長の急な思いつきで、ベトナムからやってきた技能実習生ふたりは、地域のお祭りで、手作りのベトナム料理を振る舞うことになった。
 休日出勤扱いにするべきだという一部の意見は無視され、彼らも含め参加者はみな、ボランティアということになった。

 数日前からタイムカードの横に置かれていたボランティア参加の可否を表明する名簿に、わたしはなんの印も

もっとみる

きょう人と話してわかったこと

救いということばがいつも胸をしめつける。
だれの救いにもなれないくせに、だれかに救われることばかり願っている。
そしていつだって救いの手を差し伸べてくれる人はいるのに、本当の意味でだれにも救われた気持ちになれないのは、だれかの救いになるだけの強さややさしさをわたしが欠いているからだろう。

そこまでは、わかっているのに。

ともだちということばにあこがれていた。
ともだちのいないわたしらしいとじぶ

もっとみる
あいしてる

あいしてる

外はよく晴れているようだ。
天窓に切り取られた青空には雲ひとつなく、さわさわと鳴る音が聞こえそうなほど竹の葉が大きく揺れている。
室温が設定温度を優に超えたヒーターが止まり、しんと静まり返った屋内には、いぬの静かな呼吸音だけが一定のリズムで流れている。

鼻の調子が悪く息が苦しくなるのか、ときどき、一定のリズムがはあはあと乱れる。
蒸しタオルで乾いた鼻先を濡らしあたため、ピンセットや綿棒でそっと異

もっとみる
春の予感

春の予感

ダンコウバイの花芽は、まだ頑なな姿でいた。
ひとりでのぼる坂道は、息が上がってさみしくつらかった。
どれだけ支えられ、癒されていたか。
いやというほど思い知ることとなった。

玄関を出た途端、寒くないじゃんと思い、顔の半分だけで笑った。
これならいぬもよろこんで散歩に行くだろうに。
そう思った途端、視界が滲んだ。
数日前のこと。

いぬは立ち上がれなくなり、夫は障害者になった。
娘は来月中にはこの

もっとみる
ねがいごと、ひとつ

ねがいごと、ひとつ

なにげに、うっかり、きゃっちゃんはもうお散歩に行けないのかなあ、なんて考えてしまって、なみだが出る。
ああ、きゃっちゃんというのは、同居のいぬのこと。
わたしの、最愛。

きょうは先代のいぬの命日。
彼もいまだにわたしの最愛。
最愛がふたつなんて、おかしいだろうか。
わたしが愛なんて、もっと、おかしいだろうか。

窓外に目を向けると、庭に先日の雪がまだらに残っている。
ふと、せっかく冷たくないよう

もっとみる
限度とか、限界とか、

限度とか、限界とか、

あれきり、いぬはごはんを食べず、吐いたり下痢をしたり、また散々で、おまけに、おまけにっていうのもなんだけれど、今朝の早い時間にてんかん発作を起こした。
けいれん止めのクスリの影響で、きょうはだいたいくったりしている。
ヨーグルトや、茹でたお肉やキャベツを食べたり、また食べなくなったり。
普段だったら絶対あげないような甘いおやつも食べたがるならあげる。
いまはとにかく食べてほしい。
また一緒に散歩が

もっとみる
うつろ、ろ、ろ、

うつろ、ろ、ろ、

破れた障子の向こうで竹の葉が揺れて、その隣で朝の光が影絵のような模様を描いていた。
無気力な笑顔に精一杯の力を込めて、ただ眠るばかりの横たわるいぬを見る。

ぽろぽろぽろぽろなみだを落としながら、黙々とパズルを解いているわたしは滑稽。
どうせわたしのことだから、そうやって、“ちぐはぐなじぶん”に入り浸っているのだろう。

ふだんよりちょっと余計に弱くなっていて。
あんなに泣くのを我慢していた時期だ

もっとみる

矛盾

いま、空っぽのような状態。
一緒に暮らしているいぬの体調が悪く、きのうの夜からほとんどごはんを食べていない。どんなだってわたしはモリモリ食べるのにね。なんとも言えない気持ちになる。
なんとか食べた茹でたとり肉やキャベツも、夕方、吐いてしまった。
さっきプレーンヨーグルトで吐き気止めのクスリを飲ませて、いま様子を見ているところ。
ごはん、食べてくれるといいんだけれど。

きょうはハローワークに行く予

もっとみる
甘くない玉子焼き

甘くない玉子焼き

平日は毎朝、娘のお弁当用の玉子焼きを焼いている。
うまくいったり、いかなかったりしている。
最初は小さな丸いフライパンで焼いていたけれど、そのフライパンの端のほうを焦がしてしまって。使えないわけではないけれど、そこだけどうしても焦げ付いてしまうから。
いまは玉子焼き用の四角くて大きいフライパンを使っている。

それで焼くにはどうしても卵がふたつは必要となる。じゃないとうまくいかない。ただでさえへた

もっとみる

いぬが笑ってる。
わたしも笑う。

天窓にまあるい月。

きょうはなにも書けないや。