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エッセイ

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幻影

幻影

今、懐かしい地で珈琲を飲んでいる。
中途半端に時間が余ってしまい、昔何度も足を運んだこの地に来てみたのだ。

耳馴染みのある駅名を頭に浮かべると、降り立った時の様子や街の空気感が悠々と蘇る。
駅前には確かファミレスがあった。時間を潰すにはもってこいだと思い、その店を目指すことにした。

「お好きな席へどうぞ」
私は瞬時に、自分に襲いかかる事態に身構えた。
この店、なんか無理や。
店内から放たれる澱

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calling

calling

個展最終日の終了時刻、17時ちょうどにバイト先のスタッフからLINEが連投された。
トラブルがあったのだとすぐに解る。現実への引き戻され方が半端ではない。
明日からバイトに行ってトラブルを解消しなくてはいけない。
残念だとか台無しだとかは思わなかった。そのスタッフは私がこんなことをしていると知らない。帰ってこいということだ。
見ていたかのようなタイミングに笑ってしまった。

もうずっと昔のことのよ

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最後の金曜日

最後の金曜日

個展までいよいよ1週間を切りました。

このnoteは、個展へのプロモーションとして開始しました。
実際に作品を見てみたいと思うきっかけになってくれれば、作品を好きでいて下さる方が、より好きを深めてくれたら。
私が語りかける言葉があなたのどこかに少しでも引っかかり、そしてその引っかかりを残したまま会場に来て下されば、会場の空気と作品たちがその引っかかりを全て回収する。絶対に後悔させない。そういう心

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魂を象った人形をもとめて

魂を象った人形をもとめて

個展を数日後に控え、思いもよらぬサプライズがありぶるぶる震えています。
今や球体関節人形を語る上で欠かせない存在の珈琲舎・書肆アラビク オーナーの森内さまから、作家大西けい並びに作品への推奨文をいただきました。

素晴らしい文章に読者として読み入ってしまい、自分の事なのかと喜びを噛みしめています。本当にありがとうございました。

以下推奨文

魂を象った人形をもとめて
森内憲(書肆アラビク)

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迷走と功績

迷走と功績

私がしているバイトは接客業で、お客様に一週間後の日付を伝えることが多々ある。
今日は、「一週間後の3月19日で…え?」と思わず言葉が詰まった。

一週間後、3月19日。
ここ最近、FANTANIMA関連に時間を使っていたのであまりよくわかっていなかった。もうすぐ個展が始まるじゃないか。大変だ。
次から次へとやることが出てくる。搬入前日は歯医者とバイトだ、ちゃんと逆算しないと間に合わない。

大変だ

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スタンド・バイ・ミー

スタンド・バイ・ミー

今日はnoteを始めて6ヶ月記念日だそうだ。
週1回だが欠かさないということは短い期間でもそれなりに大変だった。
どういった内容がよく読まれるのか、どういったタイトルや写真だと読んでみたくなるのか。
色々やって分析してみよう、などと思っていたが、分析のためのデータを集められるほど読まれているという実感もなく、そもそもその分析によって得た情報から書く内容を決定するのかと問われたらしないなと思い、途中

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誰も知らない

誰も知らない

MASKDOLLからの流れで何を作る?
ここで何か掴まないと、私の方がMASKDOLLに飲み込まれてしまう。
何が作りたいのか?わからない。
この繰り返しだった。
何を作ればいいのかわからないけれど何か作らなくてはいけない。

私にとって、ものづくりは手段だ。
何のための?
私の作品を通して私自身は何を感じ、そして何を届けたいのか?
辿り着きたい場所はどこだろう。

「君ならどうした?」

懐かし

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本日、暗闇からお届けします。

本日、暗闇からお届けします。

年が明け、お正月が終わり、仕事が始まり、日常が帰ってきた。
日常の根幹が様変わりしてしまったとはいえ、繰り返されるべきリズムがあり、自分がそこに合わせていくということには安心感がある。
安心を守れるというのは大切なことだ。

安心は安全であり、安全は安定と言える。
安定は停滞というのもよく言われる。そして停滞は、どちらかといえば良くないものとして扱われる。

私は今完全に停滞している。下の方で。

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人形と私

人形と私

私は人形になりたかった。

何かに感情を揺れ動かされることもなく、微動だにせずただそこに居るという孤高の存在に憧れた。

人形には感情がない。
だから私と人形は相思相愛になることがない。一生一方通行だ。
どれだけ追いかけても絶対に追いつけない。わかりえない。手が届かない。
私はそういうものに恋い焦がれ、憧れた。

私にとって憧れとは、対象そのものになりたいということと同義だった。
そこに自分らしさ

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ネクストステージ

ネクストステージ

12月になった。
昨日、個展会場の内覧と開催日の決定をしてきた。
もう随分前からそのギャラリーで個展をやりたいという希望は持っていて、11月中には連絡をしようと思いながらもずるずると時間がたってしまっていた。

いつもnoteを更新したら、来週は何書くんやろ…と速攻で不安になるのはお決まりだ。
11月が終わりそうなことに軽く絶望しながらも、次の金曜日までに個展に関する動きがあれば次回のnoteで進

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映画と少し仲良くなれた日

映画と少し仲良くなれた日

いつの間にか11月最後の金曜日が来た。
noteは毎週金曜を更新日と決めたので、毎月4回ほど書いている。
4回と思うと少なく感じるけれど、金曜日が来るたびに「もう来たのか」と思う。

この間久しぶりに観た、映画「百円の恋」についてでも書こうかと思っていたけど、不快感しかないシーンもあったりするので書きづらいな~と思い、
その根底には全然捨てきれない自意識があることに改めて気づいたりもした。

映画

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切実さに触れたとき人の心は動く

切実さに触れたとき人の心は動く

例えば3年前の貴婦人ドレスの撮影を、スタイル抜群で美しい彫刻のような造形のモデルさんに頼んでいたらきっと私の真意は伝わらなかった。

その歌は、たとえヘタクソでもあなたが歌うから響くのであって、レディーガガの圧倒的な歌声ではきっと伝わりきらない。
しかしレディーガガの素晴らしさは世界トップレベルに違いなくて、だから、良い悪いや、上手い下手で何かをジャッジする話ではない。

ヘタクソな歌でも、自分だ

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天使のともしび

天使のともしび

あっという間に10月が終わる。年々月日がたつのを早く感じる。
毎月、「何もせずに終わった」と思ってしまうのは何故だろう…決してそんなことはないのに。

毎年この時期になると、ある出来事を思い出す。
温かい明りが灯る小さなアンティーク屋で、天使のランプを買った日のこと。

5年か6年ほど前、私はそのランプに出会った。
たくさんの素敵なアンティークのランプが吊るされている中に、それはあった。

可愛ら

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機嫌とりの話

機嫌とりの話

ミニマリストや断捨離ブームの昨今、所有欲が強い私はその言葉からは縁遠い。
書籍であふれた本棚、ときめきがギュッと凝縮された多彩なクローゼット、かたち違いの香水瓶、無駄に多いクッション・・・
アンティークを集めていた頃は全てが一点物の世界なので物欲も止まらず大変だった。

好きなものに囲まれていたいというよりは、自分の機嫌をとっていたい。

私はとても単純なので、気に入りのものを身に着けているだけで

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